抑えないで
「ふぅ……駄々こねてよかったァ」
特別に用意してもらった宿泊用の巨大カマクラの中に寝転ぶと勇者は一息をつく。
「……勇者様でも疲れるのね」
「そういえば、旅に着いてきてからひと月くらい経ちましたけどお師匠が駄々をこねるのは初めてですね!」
「……そう、だね」
上から勇者とひと月と少し、ひと月、1週間の勇者メンバーが口にする。
「まぁ、やっぱり俺も謙虚なので」
「はい、お師匠は謙虚です!」
「……謙虚かしら?」
「勇……者は、優……しい」
「うーん……うん俺は優しいよ」
「お師匠は優しいです!お師匠がいなければ私は魔物に殺されていましたから」
「そうねぇ……私はお金を貰えてるから満足よ」
「勇者のおかげ……で、奴隷から……解放……された」
「お金といえば……勇者様って自分の武器だけかってないわよね」
「確かに!でもお師匠は素手でも強いです!」
「う……ん……」
勇者以外の3人はフィリ以外は情熱の町で買ったものを、フィリは仲間になったばかりの時に高価な魔法石のついた杖を買って貰っていた。そして、雪の森に入る前にあたって各自に暖かい衣服も買い与えた。
「でも……明日、魔王を倒したら全部終わるのかぁ」
勇者は呟いた。
「……そうね、魔王討伐頑張って」
「確かにこの旅は終わりますが、私はお師匠について行きますよ」
「私……も。つい……てく」
「うん、なんか……やっば嫌だなぁ。魔王討伐……」
勇者は項垂れる。
「あら、怖くなったの?」
「大丈夫です!お師匠には私達がついてます!」
「そう、だよ?」
「うん……だからこそ嫌なんだ。たったひと月しか一緒に居なかったのに、離れたくなくなってる」
勇者の瞳からは1つ、また1つと涙がこぼれる。
「勇者様?」
「お師匠!大丈夫です、これが終わっても一緒にたくさん修行できます!」
「勇……者?」
勇者は腕で涙を拭う。
「寂しいんだ……怖いんだ。今だって、マネと、リウと、フィリと少しでも一緒に居たいって思ったから魔王城に向かわないでこうしている。ダメだって分かってるのに」
「……勇者様、魔王城にはついて行かなけどその後ならまた一緒に旅してもいいわよ」
マネが勇者に優しく声を掛けるが涙は止まらない。
「勇者様?どうしたの……らしくないわよ?」
「お師匠……どうしたんですか」
「勇……者」
勇者の以上な反応に3人は心配をしてしまう。
「……ダメ、ダメなんだ」
「お師匠、何がダメなんですか」
「言っちゃダメなんだ……」
「勇者様、何か悩みがあるなら言って。仮にも仲間。心配なの」
「やめてくれ……こんな、感情は抑えないと……ダメなんだ」
「勇……者。貴方は……何に、縛られ……てるの?」
「違う、何も……何も無いから……心配しなくていいから」
勇者は下にある雪に顔を埋める。が、その雪はどんどんと涙に濡れていく。
「勇者様、ここまで旅の途中で欲望を出して来たわよね……?だから今更気持ちを―――」
「お師匠!教えてください、何がお師匠をそんな風にしているのか。辛そうな心を―――」
「勇……者―――」
「「「抑えないで……(下さい)」」」
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