黒衣の訪問者たち







リュミエル郊外――深夜。

ギルド本部では緊急対策の動きが続くなか、とある森の中に“歪み”が現れた。


空間がぶわりと波打ち、音もなく一つの“裂け目”が現れる。


そこから現れたのは、黒いローブをまとった三人の人物だった。

フードに隠れ顔は見えないが、全員が強力な魔力をまとっているのがわかる。

その魔力の質は、こちらの世界のものとは微妙に違う――まるで「位相」がずれているような、異質な“音”がする。


 


「……座標転移、完了」


「観測範囲は予定通り。渦も安定している。接触フェイズへ移行」


「“原初因子”の存在は未確認……だが、この世界には、どうやらまだ『受容体』がいる」


三人の言葉は、どれも意味深だった。


やがて一人が、手にした球体の魔道具をかざす。

空中に淡い光の地図が浮かび上がった。そこに表示されるのは、まさに――**リュミエル王都**だった。


 


「この文明は、収束過程に入っている。だが、干渉の余地はまだある。

“混沌”を芽吹かせるには、土壌がやや足りぬが……時間が解決する」


「我らの目的は、あくまで“因子の回収”。この世界を壊すかどうかは二の次だ」


 


その中のひとり――背の低い、幼い少女のような姿の者が笑う。


「……でもさ、壊れるとこ、ちょっと見てみたくない?」


その声には、ぞっとするような悪意がにじんでいた。


 


 


◆ ◆ ◆


 


翌朝――王都。


ギルド本部の一角で、クラウスが顔をしかめていた。

机の上には、破損した魔力測定器と、何かを記録した紙片。


「昨晩……市街南部の結界が、一時的に乱れたらしい。通常ならあり得ない。

しかも、その瞬間だけ“異界波”――通常の魔力とは異なる、空間的な干渉波が観測されている」


エルゼが目を細める。


「つまり、外部からの侵入……?」


「あるいは、“こっちと違う世界の住人”が来ている可能性もある」


 


ギルド幹部たちは無言になった。


異世界からの干渉――それは、かつて封印された“旧暦の災厄”と同じ兆候だ。


 


クラウスが呟く。


「リク……君の言っていた“混沌の祝福”。

あれはただの魔物の戯言じゃないかもしれない。

背後に、“明確な意志”を持った連中がいる可能性がある――」


 


 


◆ ◆ ◆


 


その頃、リクとミリアは別の任務で街の外へ出ていた。


ふとした気配に、リクは背筋をぞくりとさせた。


草陰に、確かに“誰か”がいた。


ほんの一瞬――

黒いフードをかぶった者と、目が合った気がした。


けれど、次の瞬間には、そこには誰もいなかった。


ただ風が、意味ありげに草を揺らしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る