ギルド会議、集う者たち
――ハンターギルド本部、作戦会議室。
巨大な円卓を囲んで、数名のハンターが静かに座っていた。
ギルド所属の中でも“別格”とされる存在――Sランクハンター、そして幹部たちだ。
会議室の空気は張り詰めていた。
室内は魔導障壁によって完全遮音され、外界から一切の干渉を受けない。
「……お集まりいただき感謝します。各地で“黒い渦”が確認されました。
本件は、従来の魔物災害とは一線を画すものと判断しています」
司会進行を務めるのは、ギルド幹部のひとり――
赤い軍服風のジャケットに身を包み、眼鏡越しに冷静な眼差しを投げている。
「渦の中心から現れる魔物は、既存の生態系に属さない個体ばかり。
“種族不明”、かつ“構造不明”。従来のデータが通用しない以上、討伐の危険度は未確定、最悪A以上と見ていいでしょう」
「つまり――世界規模の厄災ってわけか」
ひとりの男が足を組みながら呟いた。
鋭い目つきに、荒削りな鎧を身にまとった、長身の戦士。
Sランクハンター《バルド・グレイフォード》。
剣技ひとつで都市を守ると称される、剛腕の前線担当だ。
「災害だろうが戦争だろうが、出てきたもんを潰せば済む話だろ。細けえ理屈は研究班に任せときゃいい」
「だからあなたは“脳筋”扱いなのです」
「はあ? 表出ろロシュフォール」
「今ここで外に出たら、魔物に刺されて死にますよ?」
「……ちっ」
険悪なようで、慣れた掛け合い。
周囲もそれを咎めず、むしろ空気が少しだけ和らいだ。
そこへ、クラウスが会議室へと足を踏み入れた。
「失礼、遅れた。現場の魔力濃度の数値を持ってきた」
彼の後ろにはリクとミリアも控えている。
リクはギルドから“特例”として出席許可を得ていた。
彼の持ち帰った目撃情報は、あまりに重要だったからだ。
「Cランクの少年か……ずいぶん若いな」
「しかし、彼の報告には“人為的介入”の痕跡が含まれていました」
エルゼが資料を広げながら説明する。
「南部の渦の発生源周辺に、“陣式魔術”の痕跡。
通常の自然災害では見られない、“召喚魔法”に近い魔力配列です」
「つまり……誰かが意図的に渦を発生させてるってことか?」
「その可能性は高いと見ています」
場が再び静まり返る。
リクが言った。
「俺が見た。渦の中から出てきた魔物……“喋った”」
「……なんだと?」
「『我らは調和を壊す者。混沌の祝福を受けし者』……そう言った」
それを聞いた瞬間、会議室の空気が変わった。
どこか遠い記憶を呼び起こすような、そんな言葉。
「混沌……か」
クラウスが低く呟く。
エルゼはすぐに立ち上がった。
「よろしい。事態は明白です。
これより“対黒渦作戦”を正式発令します。各地の支部にも連絡を。
リュミエル本部は防衛体制を維持しつつ、渦の原因調査を最優先とします」
バルドが豪快に立ち上がる。
「よし、派手に暴れられそうだな。久々に本気出すか!」
リクは静かに拳を握り締めていた。
――この戦いは、きっともう「誰かの問題」ではない。
すでに、世界規模の脅威が動き始めている。
そして、自分たちがこの戦場の“最前線”に立たされていることも――
痛いほどに、わかっていた。
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