「やり直さない」決意
薄明かりに包まれた特訓場で、リク・アスターは静かに立っていた。何度もこの場所に立ち、数えきれないほどの試練を経験してきたはずなのに、今の自分には不思議な緊張感が漂っている。普段なら「やり直し」のスキルを使い、失敗をなかったことにして再び挑戦できる。失敗しても、傷を負っても、時間を巻き戻せば何もかもやり直せたのだ。
だが――今は違う。
「やり直しに頼らず、勝つ。それができなければ、この先はないんだ。」
リクは強く自分に言い聞かせる。スキルの存在は確かに自分の強みだった。だが、その影響で一つ一つの戦いに対する真剣さが薄れ、リスクを負う覚悟も鈍ってしまっていた。自分の限界を本当の意味で超えたいと思うなら、やり直しが効かないことを想定し、この一瞬一瞬を全力で戦うしかない。
目の前には、実技試験のために設定された強力な模擬モンスターが立ちはだかっていた。リクは短剣を構え、敵の動きに合わせてじりじりと間合いを詰める。
「やり直しがあるから安心、なんて甘えはもう通用しない。俺自身の力だけで勝つんだ…!」
敵が一瞬大きく身構えたのを見て、リクの全神経が研ぎ澄まされる。自分の内なる力と経験を頼りに、モンスターの猛攻をかいくぐりながら隙を探す。息を飲む緊張の中、今まで培った技術をすべて注ぎ込んで、一手一手の動作を無駄なく繰り出していく。
やがて、敵が動きに乱れを見せる瞬間が訪れる。その一瞬を見逃さず、リクは渾身の力を込めて一撃を叩き込んだ。手ごたえが伝わると同時に、モンスターは崩れ落ち、リクは勝利を確信する。
仲間たちが拍手と歓声を上げる中、リクはゆっくりと息を整えた。スキルに頼らず挑んだこの勝利は、いつもの戦いとはまったく違う重みがあった。やり直しを封じた今、この達成感はリクにとって格別なものだった。
「リク、すごいわ!スキルなしでここまでやれるなんて…!」
マリーの顔は興奮と誇りで輝いている。彼女の言葉に対し、リクは少し照れながらも静かに笑みを浮かべた。
「…ああ。やり直しがないと思うと、こんなに緊張するもんなんだな。でも、やっぱりこの手で勝つっていうのはいいもんだな。」
その瞬間、リクは自分が一歩前に進んだのを確かに感じた。スキルに頼ることなく、己の力で戦い抜いたこの経験が、自信と誇りとして胸の奥で強く輝き始めていた。
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