ボス戦でのやり直し



リクは目の前に立ちはだかる巨大なモンスターを睨みつけていた。今挑んでいるボスは、ここ数日で彼らが対峙した中でも最強だ。仲間たちはそれぞれ必死に攻撃と防御を繰り返し、命を削るように戦っている。しかし、リクだけは異なる感情に苛まれていた。



「…これ以上、やり直しが必要になったらどうしよう…」



そう呟いたその瞬間、ふと目が合った仲間のマリーが、いつも通りに信頼を込めた視線を送ってきた。



「リク、大丈夫よ!あなたがいれば、きっと勝てる!」



彼女の言葉に勇気づけられ、リクは微笑みを返そうとするが、その笑顔は引きつってしまう。彼は、何度も「やり直し」を繰り返していることを彼女に話してはいない。それどころか、スキルの存在自体を隠している自分が、彼女の純粋な信頼に応えられるのか疑問に感じていた。


「…ありがとう、マリー。けど…」


言葉を飲み込み、リクは黙って剣を握り直す。だが、その瞬間にボスの猛攻が彼に襲いかかり、視界が暗転する。



気がつくと、リクは同じ地点に戻っていた。スキルが発動し、また最初からやり直しているのだ。彼は息を整え、仲間の位置や行動パターンを瞬時に把握する。そして、何事もなかったかのように再び戦いの輪に加わる。



だが、やり直しの回数を重ねるたびに、リクの中に重たい焦燥が広がっていった。彼の経験を知らない仲間たちは、同じ過ちを何度も繰り返してしまう。彼はすべての攻撃を読み切り、守るべき位置やタイミングを熟知しているはずなのに、絶え間ないスキルの発動に心が摩耗していくのを感じていた。


「これが本当に、俺の強さなのか…?」


彼の中で、スキルに頼り切っている自分への不安が膨れ上がっていく。しかし、仲間の信頼を裏切りたくない思いが、それを必死に押さえつける。



やがて、何度目かのやり直しでリクはついにボスの隙を突くことに成功し、仲間と共にその巨体を打ち倒した。崩れ落ちるボスの姿に歓喜が湧き上がる仲間たちを横目に、リクは深いため息をつく。


マリーが駆け寄り、リクに微笑みかけた。「やったね!やっぱり、リクがいてくれて良かった!」


リクは苦笑いを浮かべ、かすかにうなずいた。しかし、彼の心の中には未だに消えない疑念が残っていた。



「…本当の自分で戦っていると言えるのか…?」


彼の内側に秘めた葛藤を、仲間たちは知らないままだった。

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