対・獣型の魔物
森の中、木漏れ日が微かに差し込む道を慎重に進みながら、リクの心は次第に重くなっていた。周囲の静けさが逆に彼の意識を研ぎ澄ませる。自分が目指す道のりの厳しさを痛感しつつも、その思いを振り払うように前を見据える。
(今の俺は、まだまだ弱い…。)
たった、レベル4だ。ここは慎重にいかないと─。
足元の落ち葉を踏む音がわずかに響く中、リクの脳裏に浮かぶのは、これまでの戦いの記憶だ。たしかにオーガを倒すことはできた。しかし、その勝利がどれだけ脆いものであったか、リク自身が一番理解していた。繰り返しの訓練、戦略の試行錯誤、そして運…。すべてが揃って、ようやく掴んだ勝利だった。
(あれは、俺一人の力じゃない。偶然が重なっただけだ…。)
胸の奥に広がる悔しさと焦りを噛み締め、リクは拳を強く握った。こんな状態では、まだギルドで一人前とは言えない。周囲から認められるどころか、背中を任せてもらえる存在にもなれない。
「まずはレベル5だ。それが今の目標だ…」
声に出すことで、自分自身を奮い立たせる。小さな目標かもしれないが、リクにとっては確実な成長への第一歩だ。レベル5になれば、今よりも強い魔物と渡り合える。戦える――いや、生き残れる。そのためには、恐れを乗り越え、進むしかない。
時間とともに森の奥はさらに深く暗くなり、足元の見えにくさが増していく。ふと、リクの耳にかすかな音が届いた。それは、何かが地面を踏みしめる重い音。風や動物の音ではない。その異質さに、リクの身体が自然と緊張を強めた。
(この音…魔物か?)
リクは瞬時に剣を握り直し、鋭い視線を周囲に巡らせる。心臓の鼓動が高鳴り、冷たい汗が背中を伝う。それでも逃げる選択肢はない。
「次はどんな相手が来るんだ…?」
そう呟いたその瞬間、茂みから低い唸り声が響き渡った。リクの目の前に現れたのは、牙をむき出しにした巨大な獣だった。鋭い爪、異様に光る瞳、そして威圧感のある大きな体躯。ゴブリンとは比べ物にならない圧倒的な存在感が、リクを飲み込むように迫る。
(逃げたい…。でも、それじゃ俺は変われない。)
恐怖が足をすくませようとする中、リクは必死に自分の中の弱さを抑え込んだ。しかし、目の前にいる魔物はオーガとはまるで違う。獣型の魔物との戦いは初めてで、その動きが全く予測できない。オーガのように鈍重でなく、敏捷で素早い。そして、何よりその力強さが、リクの体力や持ち味では到底対処できないかもしれないという不安を呼び起こす。
(獣型か…。オーガとは違う。素早さに慣れてないから、対応できるか不安だな…。)
その不安を抱えつつも、リクは冷静さを保とうと努力する。このまま恐怖に押し潰されては、自分の成長は一歩も進まない。かつての失敗を胸に、過去の教訓を生かして戦わなければならない。
「ここで逃げたら、成長なんてできない…!」
リクは小さく息を吸い込んで足を一歩踏み出す。その行動は、本能的な恐怖に打ち勝った瞬間の証だった。ただの無謀な自信ではない。過去の失敗を糧にした、粘り強い決意からくるものだ。
(この魔物を倒せば、俺は一歩前進できる…!)
そう信じてリクは剣を構え直し、目の前の魔物に向き合った。その視線は、ほんの少しだけだが自分を認め始めた者のものだ。
「次は負けない…!」
拳を強く握りしめ、リクは恐怖を力に変えて駆け出した。この一歩は、小さくとも確実に成長へと繋がるはずだ。森の中、彼の戦いが今始まろうとしていた。
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