第16話 式典当日
盛大な式典の会場。
優雅な装飾が施され、高い天井には美しいシャンデリアが輝きを放ち、まるで星空のように照らしていた。
緊張と期待が混ざり合った空気が漂う中、ついに大きな声が響き渡る。
「レオン・アルブレイブ王子、並びにリリス・ヴェスパー様!ご入場!」
その声と共に会場の視線が一斉にこちらへと向けられた。
レオンはリリスと並んで堂々と歩みを進める。
豪華な装いを纏った各国の貴族たちが、二人の姿に注目し、ざわめきが広がっていった。
「おぉ、あのお方がリリス様を救った小さき英雄の……」
「リリス様もいらっしゃったか。美しくなるだろうな。将来が楽しみだ」
周囲のささやきが耳に入ってくる。
視線と共に聞こえてくる賞賛の言葉に、レオンは少し居心地の悪さを感じていたが、顔には出さずに歩みを続ける。
(なんかこそばゆいな……こういうのは慣れない)
まるで舞台に立たされたかのような気分だったが、俺はしっかりと背筋を伸ばし、リリスも隣で気高く微笑んでいる。
その優雅な立ち振る舞いに、会場の貴族たちから拍手が巻き起こり、さらに視線と称賛が二人を包み込むようだった。
ようやく指定された席につき、ほっと一息ついた。
レオンの隣にはリリスが座り、その向こうには後から入場してきた三つ子のように見える子どもたちが並んで座った。
それぞれが少しずつ異なる特徴を持ちながらも、似たような容姿と風格を備えており、まるで三位一体のように統一された存在感を放っていた。
式典の行事は次第に進み、厳かな雰囲気の中で各国の王族や貴族たちが順に挨拶を交わし、伝統に従って式典の1つ1つが粛々と進められた。
やがて、自由時間となり、壇上に上がって貴賓と挨拶を交わす時間が訪れる。
(まだまだ気が抜けないな)
レオンは席を立ち、壇上に向かおうと足を踏み出した。
その瞬間、いかにも鼻持ちならない表情を浮かべた少年が俺の前に立ちはだかる。
見たところ、自分と同年代か。
派手な衣装を纏い、取り巻きに囲まれたその少年は、妙に見下したような目つきでレオンを睨みつけていた。
「おい、お前!お前はリリス様のなんだ!」
少年は口を開くと、自分を誇示するように胸を張り、言葉を続けた。
「僕はアルカティナの侯爵、カマセッティだ!」
(……はぁ、めんどくせぇ)
レオンは一瞬、眉をひそめたが、すぐに冷静な表情に戻した。自分に挑むような態度を見せる少年を前に、俺は軽くため息をつきながら、冷静な声で答える。
「俺はリリスの婚約者だよ」
一瞬、周囲が静まり返った。
カマセッティと名乗る少年の顔がみるみる青ざめていく。
さっきまでの尊大な態度はどこへやら、口を開けたまま絶句している。
目を丸くし、言葉を失って動揺する彼の姿は、どう見ても先ほどの勢いが嘘のようだった。
「え?レ、レオン様でご、ございますか?え、えーと、し、失礼しましたぁ……」
顔を真っ青にし、カマセッティは小さな声で謝罪を口にすると、取り巻きとともに逃げるようにその場を去っていった。
周囲の人々がその様子を見て、笑いをこらえきれずに小さくクスクスと笑っている。
「なんだかんだで、この場にいる貴族たちも皆、俺たちを注目しているみたいだな」
レオンはリリスに向かってぼそりと呟いた。
「そうね。でも、少しスカッとしたわ。あんな男、相手にする必要ないもの」
リリスはそう言って、すこしだけ口元を緩めた。
その優雅な笑顔に、レオンもつられて穏やかな気持ちになった。
豪華な会場の壇上に上がり、レオンはエルメティアの貴族たちから次々に挨拶を受けていた。
手袋を嵌めた手を差し出され、礼儀に則って握手を交わしながら、俺は表面的な笑みを絶やさないよう努めていた。
貴族たちは年齢も容姿も様々で、豪華な衣装に身を包んだ人々が一人ずつ近寄り、レオンに一礼しては敬意を表していた。
(……流石に疲れるな)
気づけば、40人ほどの貴族を相手にしていた。
終わりが見えないかのような行列に少々辟易しながらも、王子としての自制心を保とうとする。
そんな時、頭頂部が後退し、落ち着いた態度で現れた年配の男が俺の前に立った。
小柄で、貴族としての威厳を持ちながらもどこか柔らかさを感じさせる彼は、エルメティアの子爵家に属するムッシュフェルと名乗った。
「レオン様、ごきげんよう」
彼の落ち着いた声が響き渡る。
「リディア様に目元がよく似ておられますな」
レオンは思わず驚きと関心を抱いた。
この男の口ぶりからして、彼が自分の家系についてよく知っているのだろう。
そして続けて、彼はさらに興味深い言葉を口にした。
「リディア様も、レオン様も、あの魔法使いの始祖、アゼリウス様のご容姿に似ておられる」
その名を聞いた瞬間、レオンの心は一気にざわついた。
アゼリウス――俺にとって、未だ多くの謎に包まれている存在だった。
先日出会ったあの男の顔が脳裏に浮かび、どうしてもこの貴族から何か情報を聞き出したくなった。
「始祖アゼリウスとはどういう――」
俺が尋ねかけた瞬間、会場全体に響く司会の声が、俺の言葉を遮った。
「これよりフィリスフォードアカデミーの校長であるルカ・アルメニウス様のお話があられます!皆様、お席にお付きください!」
「おや、時間のようだ。またお会いしましょう」
ムッシュフェルは余裕のある微笑みを浮かべ、レオンに軽く会釈してからさっと後ろに下がってしまった。
「え?ちょっ……ま――」
彼が手を伸ばす間もなく、ムッシュフェルの姿は人々の流れに紛れていった。
追いかけることもままならず、レオンは仕方なくその場に立ち尽くすしかなかった。
「行っちゃった……」
「どうしたの?レオン?」
リリスが不思議そうに俺を覗き込む。
「行きましょう。あのルカが来るのよ!すごくない!?」
「あ、あぁ……」
気を取り直し、俺はリリスとともに席に戻った。
周囲が静まり返る中、壇上に一人の人物が現れた。
青と金を基調とした重厚なローブに身を包み、フィリスフォードアカデミーの校章が刺繍されたマントを肩にかけた、その人物――彼こそがアカデミーの校長、ルカ・アルメニウスだった。
ルカは、銀色の髪を肩まで伸ばし、深いグレーの瞳で会場を見渡していた。
その目には知性と優雅さが宿り、ただ立っているだけで会場全体に威厳が漂う。
しかし、冷たさを感じさせるものではなく、柔らかい包容力すら感じられる風格があった。
右手には精巧な杖を持ち、その先端には青い石が神秘的な光を放っていた。
杖を軽く床につけながら、彼は一歩前に出て、周囲に深い静寂が広がった。
「皆様、本日は式典にご出席いただき、誠にありがとうございます」
ルカはゆっくりと穏やかな声で話し始めた。
その声は静かでありながらも力強く、自然と人々を引き込んでいく。
「フィリスフォードアカデミーは、古くから多くの才能を見出し、育んでまいりました。この場にいらっしゃる皆様のお力添えのおかげで、私たちは今もなお、次世代の育成に尽力できることを誇りに思っております」
ルカの言葉に、会場の人々は静かに耳を傾けていた。
「フィリスフォードアカデミーは、魔法使いであれ、剣士であれ、その素質に関わらず全ての才能が集い、成長する場です。魔法の神秘、剣技の強さ、そのどちらをも尊重し、学びを共有する学校です。もし、興味があるならば、15歳からアカデミーへの入学が可能です。我々は、皆さんの力がより良い未来を築く礎となることを願っています」
レオンは、隣に立つリリスが思わず前のめりになって話を聞いているのを感じていた。
しかし、ルカ校長の話はまだ続く。
「そして、1つ皆様にお伝えしたいことがあります。最近、我々の国々を脅かしている存在……『ネクロム』という名の宗教団体です。ネクロムは今や各国に蔓延り、厄介な事件を次々と引き起こしています。その規模は想像以上に大きく、個々の国の力だけで対処するのは難しい状況にあります」
会場内がざわついた。国を超えて協力が必要な脅威だと告げられると、その深刻さが一層際立つ。
ルカ校長は続けた。
「今、我々は互いに戦争をする時代ではありません。ネクロムへの対応を最優先に考え、アルブレイブ、エルメティア、アルカティナ、そしてフィリスフォードが力を合わせ、組織的に対策を強化していかなければならないのです。これからは、皆さん一人ひとりの力が、平和と安定のために必要なのです」
その言葉には、一切の曖昧さも迷いも感じられなかった。
ルカ校長の真剣な訴えが、会場の人々一人ひとりに深く響いていた。
ルカ・アルメニウス校長の長い話が終わり、会場には静かなざわめきが広がっていた。
俺は一度息をつき、さりげなくリリスの方に視線を向けると、リリスは首を傾げて不思議そうに眉をひそめていた。
「ねえ、レオン。ネクロムって……ゲームの中ではこんなに大きな規模じゃなかったわよね?」
リリスの声は、少し戸惑いが混じっていた。
リリスの記憶する世界では、ネクロムは確かに存在したが、ここまで大規模な勢力ではなかったようだ。
「あー、それな。ゲーム内で運営がアップデートを入れて、ネクロムの勢力を強化したんだよ。ストーリー進行に合わせて、強さも規模も拡大されたんだ。」
リリスは驚いたように小さく息を漏らし、俺の言葉に聞き入った。
「そうなのね……私が知ってるストーリーと、なんだか違いが大きくなりそう」
「実際のところ、俺もPvPばっかりやって、ストーリーはあんまり詳しくないんだよな。ネクロムに関しても、そこまでの知識は……」
レオンは軽く肩をすくめながら答えたが、その表情には少しの困惑があった。
リリスは小さく笑いながらも、納得したようにうなずいた。
「それでも私よりは詳しそうね。頼りにしてるわ、レオン」
リリスの優しい声に、レオンは少し照れたように笑みを返した。
リリスと並んでいると、これから先にどんな困難が待っていようと、なんとか乗り越えられる気がしてくる。
フィリスフォードアカデミーの壮麗な式典も無事に1日目を終え、夕方から始まる華やかなパーティーへと続くことになった。
招待された全ての貴族や王族たちは、各々の国を代表して着飾り、会場はすでに煌びやかな雰囲気に包まれていた。
レオンとリリスも、豪華な衣装に着替えて会場の前に並んで立っていた。
レオンは緊張を隠すように、少し照れた笑みを浮かべながらリリスを見つめ、ふと声を掛けた。
「あの……なんだ、月並みだけど、すごい似合ってるよ」
リリスは、その言葉に少し驚いたように目を丸くしたが、次の瞬間には嬉しそうに微笑み返した。
「ありがとう。レオンも、元がいいからかしら。すごくかっこいいわよ」
その言葉に、レオンは顔が熱くなるのを感じた。
俺の視線は思わず自分の足元へと向かってしまい、照れ隠しに小さく咳払いをした。
「そ、そうか……ありがとな」
リリスはクスリと微笑んで、俺の腕にそっと手を伸ばした。
「行きましょうか」と、彼女は柔らかな声で囁き、レオンの腕に軽く組みついた。
2人はゆっくりと会場の中へと足を踏み入れた。
天井からは巨大なシャンデリアが輝き、会場中が白と金を基調とした装飾で飾り立てられていた。
楽団の優雅な演奏が流れ、貴族たちの笑い声や談笑が響き渡る。
レオンはリリスと並んで歩きながら、周囲の視線が自分たちに集まるのを感じた。
特にリリスの美しさには、あらゆる方向から感嘆の視線が注がれていた。
俺は隣にいるリリスを誇らしく思いつつも、自分に注がれる視線に少し居心地の悪さを覚えた。
「……こういう場はやっぱり慣れないな」
「ふふっ、そうね。だけど、あなたなら大丈夫よ」
リリスは少し背伸びをして、レオンに優しく囁いた。
「ありがとう」
俺は小さく微笑み返し、その場の雰囲気を楽しむように、少し肩の力を抜いてみた。
2人がしばらく会場内を歩き、貴族たちの会話に耳を傾けたり軽い挨拶を交わしていると、華やかなドレスに身を包んだ幾人かの貴族が近づいてきた。
その中の一人、金色の髪を揺らした若い伯爵令嬢が興味津々にリリスに話しかける。
「あの……もしかしてリリス・ヴェスパー様ではありませんか?リリス様のお噂はかねがね……」
リリスは落ち着いた微笑みで彼女に返し、礼儀正しく会話を交わした。
レオンも隣で静かにその様子を見守りながら、少しずつこの場に馴染んでいくのを感じていた。
そして、5歳のパーティー会場へと足を運んだ。
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