8.4
「よし。では確認しましょう」
机の上に分けられた書類の山は八つと、たったの一枚。まずは八つの山を確認していくことにした。
「ホグヘート。風属性、鳥型。高速落下による攻撃。攻撃前に一時停止するため、その時機を狙って反撃する」
魔物の情報を頭の中に入れつつ、書類の山がきちんとわけられているか見ていく。確認されている魔物の種類は八種類で、概ね虫型、人型で分類できる。狐型や蛇型、鳥型など三種類だけ他の型と被っていないが、あとは同じ。一部、ムールビーとルヴなど同型で被っているものもあったが、それも仕分けした。
「ふぅー。終わりましたね」
「……いや、本当にフリッカはすごいね。あれだけ大量にあった報告書が、こんなに整理されるなんて。次からはこの分類に従ってきちんと分けていくことにするよ」
報告書一枚一枚に目を通し、仕分けられているかを確認している内に、夕食時ぐらいまで時間が経っていた。仕分け作業は大変だったが、ノエルと協力したおかげで終了。魔物の情報も頭に入った。
「あとは、この一枚ですね」
書類の山のどれにも属さない、五年前にリレイオが作り出した魔物。その報告書には、「薄い円柱型。人や物を吸い込む」とだけ書かれていた。
「……こいつが、今、リレイオが作ろうとしている魔物……」
作り出すのが大変だと言っていた魔物。この魔物を作るため、リレイオは濃い魔力を吸収しようとしている。
濃い魔力を吸収するため、魔物に魔力を注ぎ生存本能を強くさせ、魔物に魔物を襲わせる。そして残った魔物を、リレイオが吸収。それが終わってしまったら、もう止める術はないかもしれない。
「夜中に見たとき、集められた魔物はまだたくさんの種類がいたように思います。これの種類が減ってリレイオが力を増す前に、対処しないと」
「あれから一日ぐらい経っているのか。リレイオ君の様子を確認したいところだけど、もう夜だし危ないね」
「魔物は夜だと活発化するんですか? すみません。その情報、報告書に書いてありましたっけ」
フリッカが報告書へ手を伸ばそうとしたが、ノエルに手を掴まれた。
「いいや。魔物は夜行性ということは討伐隊内で常識だったから、わざわざ書いていないんだ」
「そ、そうだったんですね。そ、その、なぜ今手を取られたんでしょう?」
「頑張り屋さんのフリッカのことだから、また一人で調査しようとするんじゃないかって思って」
ノエルはフリッカのことをよくわかっている。確かに手を取られていなければ、不可視魔法もあるし一人で行動することを提案しようとしていた。
「さっき見せてくれた、肉眼で見えなくなる魔法。僕にもかけてもらえないだろうか。二人で一緒に行こう」
「わかりました。では、かけますね」
フリッカは四属性分の力を練り上げ、両手をノエルに向ける。
「
ノエルに魔法をかけると、頭から足先へ向けて姿を視認できなくなっていく。そしてついには全て見えなくなった。
「ノエルさん。いらっしゃいますか」
「ここにいるよ。フリッカから見ても見えないんだね」
「魔術師が見たら見えてしまう可能性もないみたいですね。これなら姿を隠してリレイオの動向を探れそうです」
不可視魔法の効果を確認し、フリッカも自分にかける。
「単頭不可視!」
先程ノエルを視認できなくなっていったように、今はフリッカも頭から背景に溶け込んで行っているだろう。そう思ったが、全身が消えていたノエルの足先が見えてきた。そして視認できる範囲はどんどん広がり、見えなくなっていたはずのノエルが見えるようになってしまう。
「あー、そっか。一人用だから……」
不可視魔法は、あくまでも自分で行くために作った。そうすると、その効果が発動するのは一人限定ということになる。
製作した魔法の欠点がわかったフリッカは、すぐに作り直す。
「
フリッカとノエルに魔法がかかるように手を向けた。先程はノエルが見える代わりにフリッカが消えていくという状態だったが、今はノエルが見えている。不可視魔法は失敗していないと思うが、お互いに姿が見えている状態だから確認ができない。
「これで見えていないのかな」
「たぶん。ルヴィンナを送るために隊長さんもいなくなっちゃいましたし、どうやって確認しましょう?」
「フリッカが消えているとき、声は聞こえていた。だから屋敷で働く誰かに来てもらえればわかるかな」
そう言うと、ノエルはアルマ、オルヴァー、マリンのルーデルス一家を呼んだ。三人はすぐにやって来るが、ノエルを捜して執務室の中を歩き回っている。そうして、オルヴァーがノエルとぶつかった。
「どうやら姿は見えないみたいだね」
「ノエル様!? い、一体どこから……」
「アルマさんとマリンさんも、見えないですか」
「サージュ様まで!?」
三人のすぐ目の前にフリッカとノエルがいるのに、きょろきょろと顔を動かしている。この様子を見る限り、不可視魔法は成功しているのだろう。
「アルマ。少しフリッカと出掛けてくる。夕食は戻ってから取るから、用意しておいてくれ」
「か、かしこまりました」
アルマは誰もいないはずの空間からノエルの声が聞こえると思っているのだろう。未だに信じられない様子でノエルの顔を方を見ていた。
不可視魔法の継続時間を計るため、フリッカとノエルはそのまま外へ出た。
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