6.2


 フリッカが住んでいた部屋に魔物のムールビーが現れた後、ノエルが服を用意すると言っていた。その言葉通り、フリッカが借りている部屋まで戻ると大量の服がワードローブに入っていた。

 マリンとアルマにフリッカの着替えを手伝ってもらっていたから、服の大きさも把握されていたのだろう。

(……リボンとか、フリルとか。可愛らしい服がたくさん。ノエルさんは、こういう服が好みなのかな? いや、ノエルさんの好みは、亡くなってしまった婚約者さんなわけで……)

 一瞬舞い上がってしまったが、フリッカはすぐに落ち着く。好みでないとすれば、単純にフリッカの見た目が子供なのだろう。

 数ある服の中から一番装飾が少ない服を選んだ。首元が少し広い服だ。マリンの手によって髪を編み上げられたから、首回りがよくわかる。

(これ、確か前にマリンさんがノエルさんの好みの髪型って言っていたやつだ)

 服はわからない。しかし編み上げられた髪型だけみれば、多少は年相応に見えるだろう。

 フリッカは上機嫌になって、部屋を出る。すると玄関ホールでノエルが待ってくれていた。慌てて駆け寄る。

「お待たせしました」

 声をかけても、ノエルはフリッカを見つめるばかり。どうしたのかと首を傾げ、もう一度声をかける。

「ノエルさん? どうかしましたか?」

「あ、ああ、えっと、フリッカはローブを着ないのかな。もしくは外套とか」

「ローブは一枚だけだったのでありません。外套は、まだ着なくても問題ないかなと思いまして」

「そ、そうか……それなら、僕の外套を貸そう」

 そう言って、ノエルの外套をフリッカに掛けてくれる。しかし身長差があるために、外套一枚でフリッカは膝ぐらいまですっぽりと覆われてしまった。もちろん、袖も長く手は出ていない。

「ぶかぶかですねぇ」

「っ、すまない。少々待ってもらえるだろうか。マリン! マリンはいるか!」

 まるでフリッカに顔を見せないように口元を押さえながら背を向けたノエルは、マリンを呼ぶ。そして呼ばれたマリンは、すぐに玄関ホールまでやってきた。

「マリン。至急、フリッカに外套を持ってきてくれ」

「かしこまりました」

 指示を受けたマリンはフリッカが借りている部屋まで行き、すぐに薄黄色の外套を持ってきた。そしてフリッカは外套をノエルに返し、マリンが持ってきてくれた薄黄色の外套を着る。

「よし。行こうか」

「あれ? ノエルさんは外套を着ないんですか」

「あ、ああ。ちょっと暑いからね」

「はぁ……」

 それならばなぜフリッカには外套を? そんな質問をしようと思ったが、ノエルが歩き出してしまった。慌ててフリッカも追いかける。

 そして馬車に乗り、討伐隊の庁舎へ向かう。その道すがら、討伐隊の宿舎として利用している建物はこれでと説明していた。

「二人は婚約者だと連絡を受けているが、部屋は別にした方がいいだろうか」

「同じで問題ないわ」

「了解した。そのように伝えておく」

 リレイオが答えるよりも早く、ルヴィンナが答えた。フリッカから見ると、ルヴィンナがリレイオと同じ部屋にしてほしいという強い気持ちに思える。リレイオは特に異議を申し立てない。

(ナタリーさんたちは姉弟だから同室だけど、リレイオがルヴィンナと同室でいいなら、ちゃんとルヴィンナを将来の家族として認めているんだな)

 一度目のとき、フリッカはルヴィンナから恨まれていた。何でもかんでもフリッカを優先していたリレイオに苛立っていたのだろう。そのときの気持ちを知っているから、二人の関係を心配していた。

(んー……二人の仲が悪くないなら、三度目の人生で、ルヴィンナがわたしを恨む理由はないかな?)

 ルヴィンナは従姉妹で、リレイオはルヴィンナの婚約者。近い将来親戚になるから、二人が侵入者でなければそれに越したことはない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る