みんなの魔の城、私の楽園~11の呪いと11の神

@zinbeityan

第1話 襲撃

人の町から遠く離れ、人間とは無縁の地で暮らしている魔族。


 彼らは人間から災いの元とされ嫌われ、迫害されていた。


 そのため人間とのかかわりを持たず、魔族同士で集まって暮らしている。


 山々に囲まれ、人との縁など微塵もない静かなこの地にもまた、魔族が暮らす小さな村がある。








「ん……もう朝か」


 


 窓からは暖かくて心地のいい日光が差し込んでいる。


 昨日遅くまで作業をしていたせいで、まだ眠い。


 まだ寝たいという気持ちを抑えてベッドから起き上がる。






「リアン~、ご飯できてるわよ~。起きてる?」






 ちょうど、下の階からお母さんの声が聞こえる。






「はーい、すぐに降りる~」


 ベッドから降り、水面台へ向かう。


 水で顔を洗い目を覚まし、階段を下りると、リビングからは美味しそうな匂いが流れてきている。


 リビングに入ると、机に三人分の食事が用意されていた。


 今日の朝ごはんは、パンとスープだ。


 まだ出来立てのようで、パンもスープも温かいようだった。






「おはよう」






 お父さんとお母さんが笑顔で挨拶してくれる。






「おはよう」






 私も挨拶をして椅子に座る。


 机に並んだ食事からスープを取って口に運ぶ。


 お母さんの作るスープの味は他では味わえない味だ。


 作り方が違うのか材料が違うのかはわからないが、この村でこの味のスープを作るのはお母さんだけだ。


 でも、私はこの味が一番大好きだ。


 野菜の味が活きていて、とっても美味しい。






「じゃあ、僕はそろそろ出るよ」






 お父さんがカバンを手に玄関へ向かう。


 お父さんは村の鍛冶屋で働いている。


 毎日大忙しだが、特に夏場は毎日汗を滝のように流して働いている。


 お父さんが造るものはどれも質が良く、村の外の取引先でもともて人気だそうだ。


 私とお母さんも一緒に玄関へ向かって、お父さんを見送る。






「気を付けてね~」






 お父さんを見送った後、私は朝食をすべて食べ、自分の部屋に戻る。


 机を見ると、まだ昨日の作業の跡が残っている。


 あぁ、そういえば片付けてなかった。


 作品を作ったら気が抜けて、そのままベッドに入ったんだ。


 作業で使った道具を片付けて、出たごみを捨てる。


 私は村でアクセサリーを作る仕事をしている。


 大きな道具を使ったりしないから、自分一人ですることができる。


 まだ一人前とはいかないけど、村の外に持って行ってもらうと、全て売れるくらいには人気だ。


 この仕事を勧めてきたのは父だ。


 私が父の作業に興味を示しているのを見て、一人でもできるこの仕事を教えてくれた。


 私はその日から今日まで、アクセサリーを作ることに夢中だ。


 勉強などは小さいころに母に教えてもらって、この村で教えている範囲はすべて終わってしまった。 


 なので学校には行かず、普段は家で過ごしている。






(机の片付けも終わったことだしなにしよう?たまには散歩してみようかな)






 久しぶりに外に出てみたくなったので、私は家で着る服から、外出用の服に着替えて、カバンを持つ。


 何も忘れ物がないことを確認して、私は玄関へ向かう。






「どこ行くの~?」






階段を下りると、お母さんがリビングを掃除していた。






「山を散歩~」






 お母さんに行き先を告げて、再び玄関へ向かう。


 靴を履き、玄関の扉を開ける。






「気を付けてね」






 母に見送られて私は家を出る。


 外に出ると、太陽が太陽がとてもまぶしい、外に出たのは何日ぶりだろう。


 一度仕事に入ると、私は完成まで家から出ないから、久しぶりの外に、自然と気分が晴れる気がした。


 村の道に沿って山へ向かう。


 山に着くと、この前来た時よりも草が生い茂っている。


 あまり人が来ないから当然ではあるか。


 この山、特に危険な動物が出るとか、危険な場所があるとかはないけれど、毎日学校や仕事で忙しい人たちが、好んで山に来ることはめったにない。


 山の中に入り、草をかき分けながら進む。


 特に急な坂はないが、草が多く、地面が湿っているから歩きずらい。


 最近雨が降ったわけではないのに湿っているなんて、これが自然の力と言うものなのだろうか。






「久しぶりに動くけど、気持ちいなぁ」






 家にこもりっぱなしで固まっていた体の筋肉が、久しぶりに動けて歓声を上げているような感覚だ。


 とりあえず時間はたっぷりあるし、山頂まで登ってみようかな。


 それから一時間ほど歩いただろうか、木の看板が見えた




 


 サンチョウマデアトスコシ






 看板には子供が書いたような元気な文字が書いてある。 


 この看板はとても昔からあるものだそうだけど、誰が書いたのかはわからない。


 しかも全然山頂までもうすぐじゃないのだ。


 なんでこの位置にこの看板が立っているのかは、村の人たちは誰も知らないし、特に気にもしていない。


 だから山頂の近くまで動かされることはなく、今日までこの場所に立ち続けている。


 看板を過ぎてさらに数十分歩くと、山頂に到着した。


 標高がとても高いというわけではないが、村と比べると空気が新鮮だ。


 久しぶりの運動で身体に溜まった疲れが一気に吹き飛んだ。


 山頂を歩いていくと、木々の隙間から、とてもきれいな景色が私の目に飛び込んでくる。


 森の中にある村からでは見えない場所が、ここからならよく見える。遠くの川や、建物、道、谷までとってもよく見える。


 さっきまで自分の居た村がとても小さく見える。


 周りを山に囲まれて、まさに山の中の村って感じだ。


 パン屋さんの煙突からはモクモクと煙が上がっている。


 商人さんたちが、馬車で村を出発しているのも見える。


 近くの木陰に行き、目を閉じる。


 日差しこそ当たらないが、気温は高過ぎず低くもなく、ぽかぽかとした心地よい温度だ。






(ちょっと疲れたし、休もう……)






 私は心地よい気温のせいもあって、すぐにすやすやと眠った。








 ……ん?遠くから叫び声が聞こえるような……


 私は飛び起きる。聞き間違いじゃない! 明らかに叫び声がした。 


 耳を澄ますと、叫び声は村から聞こえるようだった。


 私は村が見える場所に駆け寄り、村を見る。






「なんでこんなところにまで……!」






 なんと、村の入り口からの道沿いを埋め尽くすように、大量の馬に乗った騎士たちが村へ進軍してきている。


 それを見た村の人たちが騎士の到着に備えている。


 迎撃しようと準備する人たち、家族を連れて逃げる人たち。


 私は猛ダッシュで山道を駆け下りる。






「騎士団! なんでここまで来るの!?」






 騎士団。


 聖教会という魔族を敵視する団体に属する騎士の集まり。


 主な仕事は……魔族の討伐だ。


 昔から私たち魔族は、災いを呼ぶものとされ迫害されてきた。


 なので魔族たちは人と無縁の地でひっそりと暮らしている。




 ……なのに……!


 私たちがここまでしても、人間は私たちが存在することを認めてくれない。


 どこに行こうと見つけ出し、討伐に来る。




 ハァ……ハァ……


 登った時の何倍もの速さで坂を駆け下りる。


 しかし、それでも村まで降りるのは時間がかってしまった。


 やっとの思いで村に着く。


 そんな私の目に飛び込んできたのは、炎に包まれ黒煙を上げる村の姿だった。


 村のいたるところに騎士の死体が転がっている。


 でも見たところ、村の人の死体はない。


 もうきっと全員逃げたんだ。そう自分に言い聞かせて私も村の裏から逃げようと走る。


 走っていると奥から雄叫びが聞こえる。


 この声……お父さんだ!


 私は方向転換して、声のした方へ急いで向かう。


 声のした場所に着くと、お父さんが騎士団と戦っていた。


 父は剣で騎士団と斬り合っていた。


 剣の腕ではやはり相手の方が上だ。


 私も援護しなきゃ!


 私はカバンに入れていた指輪を騎士に投げる。






「お父さん下がって!」






 お父さんは私の声を聞いた瞬間に地面を蹴り後ろへ飛ぶ。


 そして、私の投げた指輪が相手の足元へ落ちると同時に爆発する。






「ぐわあぁ!」






 相手の断末魔響く。


 至近距離であれを食らった人は即死しただろう。


 指輪に爆発魔法の陣を刻んだ魔道具だ。


 地面に着地すると発動するようになっている。






「お父さん逃げよ!」






 お父さんの手を引いて私は走る。


 どこに隠れよう、あっ!私は目に入った小屋にとっさに逃げ込む。


 幸いまだこちらには火の手が回っていない。


 ここならしばらくは安全だろう。






「ハァ……ハァ……リアン、すまないな」






 お父さんは体力を使い過ぎたのか、かなり疲れている。






「お父さん……お母さんは?」


 「俺が鍛冶屋で知らせを聞いてここに来たときは、もうほとんどみんないなかった。無事に逃げんだと思う」






 それを聞いて私はホッとした。






「はーい、見つけましたよぉ」






 いきなり背後から聞こえた声に一瞬固まる。


 振り向くとそこには、ピエロの仮面をつけた男……?が立っていた。






(ッ!足音なんて聞こえなかったはず)






「魔族の残党、発見。殲滅しまぁす♪」






 気色の悪い話し方、声を聞いた途端に背筋がぞわっとした。






「お父さん!逃げよ……う……」






 私がそう叫ぶ前にお父さんはピエロに突っ込んでいた。






「リアン、逃げろ!」






 お父さんは大声で叫ぶ






「え……でも、お父さんが……!」


「俺のことはいい!自分のことだけを考えろ!」




 ……ッ!


 後ろを振り向き走り出す。


 ごめんなさい、お父さん!


 村の裏にある道へ入り駆け下りていく。


 奴らは表の入り口から来たはず、こっちからなら追いつかれない。


 草をかき分け走り続ける。


 やっと山を下りた……と思った瞬間、横から何かに吹っ飛ばされる。






「逃がすと思うか?魔族」


「うぅ……」


 顔を上げると、そこには右目が赤い男が立っていた。


 その目は冷たく、一切の感情がこもっていない。


 私を見下ろすその瞳に、私は強い恐怖を覚える。




 彼の腕は淡く光っている。


 自身の体に魔力を付与し、魔力によってその部位を強化する魔法だろう。


 でも……あの魔法からは魔力を感じない……そこで私はあることを思い出す。


 彼は神能者だ!


 はるか昔にいた神力を操る能力を持った十一人の神がいた。


 神力とは魔力とはまた別の魔法などを使うための力だ。


 神力は神、もしくは神の力を引き継いだ者のみが使える力で、魔力しか持たぬ者よりも魔法面で圧倒的に有利となる。


 過去に居た神達は魔族を狩る者、守るもので別れ、争い、滅んだらしい。


 先ほど言ったように、その滅んだ神の力を引き継ぎ、使えるのが神能者だ。






「二番隊隊長、エンヴィーだ。さらばだ魔族、貴様らはもうこの世に生れ落ちることはない!」






 私を蔑むような、本当に魔族に対してなんの価値も感じていないような目だ……


 エンヴィーはものすごいスピードでこちらへ向かってくる。


 拳を振り上げ、私の頭めがけて振り下ろす。


 死んだ、直感的にそう感じた……しかし私に攻撃が当たる直前で、目の前に誰かが現れる。


 その人はエンヴィーの攻撃を剣ではじき返す。


 エンヴィーは、後ろへ跳んでその人と距離を取る。






「チッ、デリット、テメーじゃますんじゃねえ!」






 その瞳は先ほどの冷たく見下ろす目とは違い、相手への怒りに満ちているようだ。






「大丈夫?怖かったね。でももう大丈夫、怖くないよ」






 そこには全身に鎧をまとい、右手に剣を持った人が立っていた。


 その人は私の前に立ち、エンヴィーを見つめている。






「エンヴィー、言ったはずだ。魔族は殺させない」






その言葉と共に、彼は剣を構えてエンヴィーと名乗る男に向かって踏み出した

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