あの頃の心から笑える自分に戻りたい
@k-shirakawa
第1話
英雄は今日も仕事が終わって家に帰り、暖かい家族が迎えてくれる。五年前に三年落ちの中古住宅を買って妻と息子と暮らして、今の生活に何ら不満はないし、幸せだと実感していた。仕事は激務だが、管理職のゼネラルマネージャーとして部下と共に日々、利用者と家族と関わる五十施設の責任者を任せてもらっていた。
四十歳という節目の年齢を迎えるという事で同窓会が二〇〇〇年四月二十九日(土)に開催された。高校を卒業してから二十数年の年月が流れて初めての同窓会だった。高校の同窓会はLINEでの呼び掛けが主な連絡手段だ。それでも二十人ほどの同級生が集まった。
英雄は直前まで行くかどうか迷っていた。理由は空白の時間を埋める会話が煩わしくて面倒だった。しかし、その反面、かつての同級生のその後の人生と外見的な姿も見てみたいという矛盾の感情もあった。そして、彼は後者を思い参加する事にした。
四十歳を迎えての同窓会での話題は定石通りの内容で、仕事、伴侶、子供、介護、持ち家、健康等々と同じ年齢の心配事は一緒のようだった。こんな話題がいつの間にか中心となっていった。英雄はこのような話題になる事を嫌がっている訳ではないが、こんな話題に陥る筈のない連中がそんな話しをしているギャップがまた面白く興味深かった。
アッという間の一次会が終了した。そして、カラオケというまたセオリー通りの、二次会へと進んだ。英雄は一次会で帰る予定だったが、何となくこのギャップが面白くて二次会まで予想外にも着いて行った。そこで彼は隣に座った明子に心を奪われる事になった。
英雄は高校時代に明子と同じクラスになった事もなければ、同じ部活でもなければ、話した事もなかった。しかし、彼女の「アッコ」という呼び名と彼女の外見は良く覚えていた。知的な雰囲気の漂う女性で、運動も勉強も出来て、男子の憧れの的でもあって四十歳になった今も良い歳の取り方をしていた。
「私も岩崎君の事は知っていましたよ。剣道部の主将だったものね?」
「だけど、話した事はなかったよね。お互いに主将とキャプテンで忙しかったからかな?」
周りは酒が進んだ所為か、カラオケで歌っている人、泥酔している人、高校時代の話しで腹を抱えて笑い転げている人、真剣な話しをしている人など、様々な光景と音が耳に入ってきた。
そんな騒音の中で英雄は「アッコ」と会話をしていた。久しぶりの騒音の中での会話に全体が妙な興奮に包まれていた。話しは高校時代に見たドラマや曲の話しになり盛り上がった。アッという間に時間が過ぎた。
帰り道、何だか二十年前にタイムスリップしたかのような気分で歩いていた。懐かしい気持ちだった。あの頃に聴いていた曲のサザンのTSUNAMIを、「風に戸惑う弱気な僕 通りすがるあの日の
「凄いよね、総合病院傘下のグローバルケアセンターのゼネラルマネージャーなんて。地元で一番の社会貢献で有名な会社でしょ?」
「全然、そんな事ないよ」
「だって高校時代の岩崎君のイメージとでは程遠いもの」
「あの頃の俺のイメージって?」
「ちょっと不良っぽくて、後輩たちから怖がられていたじゃない」
「そんなイメージだったんだね」
英雄は「アッコ」とこの後、彼の心の中だけの近い関係性で過ごす事になる。
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