第15話 緊張しすぎた

「これから生徒会選挙の立候補者とその推薦人の発表を行い、意気込みと軽く質問を聞いていきます」


生徒総会が始まってからは静かにしていた俺たちは檀上に向かう。用意されていた空席に座る。

思った以上にたくさんの人からの視線に緊張する。


「まず生徒会長の立候補者はこの私、ハプスベル・スーザンだ、推薦人はアルベド・ハグルア。今回は立候補者が一人なため、生徒会長については不信任であるのか、そうではないのかで決める。次に副生徒会長の立候補者は江戸カルエとカリベルト・ソファレ、推薦人は朝日ルルと鎌江コアだ。書記長の立候補者はウエメン・ソラと静河リュウカ、推薦人はウエメン・クウとエドウィン・シーラだ。副生徒会長と書記長については信任だと思う方に投票してくれ。さっそく意気込みと軽く質問をしていこう、まずは私から」


生徒会長は少し間を置く。視線を一か所に集めるために。

君主としての資格というか、カリスマ性を見れた瞬間だった。


「昨年よりもより良く、学園生活が楽しくなるように保障する。三年生の先輩方、この学園に居られて後悔がないことをしてください。二年生、意地を魅せてください。一年生、初めてのことが多くあると思います、が勇気を出して一歩踏み出してください。これで私の意気込みを終わります。次の推薦人のアルベド・ハグルア」


拍手の時間を与えない。まるで盛り上がる場所が他にあるかのように。


「はい」


アルベド先輩は立ち上がり、会長はその瞬間、座る。誰も気付いていないだろうが進行役である会長は本来は立ち続けているはずなのでイスがない。ということで空気イスをしていた。


「推薦人のアルベド・ハグルアです。今年も会計として生徒会をサポートしていきたいです」


「質問ですが今年の目標を聞かせて下さい」


空気イスしながら手元にある紙を読む会長。

面白い絵になっているが笑わないように我慢する。


「そうですね......三年生になるのを備えることですかね...」


「では着席してください、次は現副生徒会長の江戸カルエさん」


カルエが立ち上がり、話始めるが、俺の頭に全く入ってこない。

前世を含めて人前に立つことがあまりなかったので心臓がバクバクするほど緊張している。順番が近づくごとに心拍数が上昇していることがわかり、冷や汗をかいている。


まるで一瞬のように朝日ルルまで終わり、カリベルトまで到達する。


「一年生ですが、先輩たちの胸を借りるつもりで当選します」


カリベルトの発言に観客がザワザワする。

カリベルトぉ!何してくれてんだ!確かに戦うことになるけど、そんな明らかな宣戦布告はやらなくていいだろ?!

心臓の音がうるさいすぎるほどに鳴る。


「強気ですね、えーっと、当選してみてからしたいことは何ですか?」


生徒会長も苦笑いをしながら質問をする。そりゃそうだ。誰もわざと戦うことを言わず、意識的に避けていたのに。


「魔法の量や質を上げる活動をしていきたいです」


「では次は...推薦人の鎌江コアさん」


「はい」


俺の番だ。話すことは決まっていない。つまりなるようになる理論だ。


「カリベルトの推薦人、鎌江コアです。当選したら庶務となり、活動のサポートをしたいです」


当たり障りのない発言であるはずだ。


「当選すると生徒会で初の男子メンバーとなりますが、そのことに対して何か思うことはありますか?」


あー、そうなんだ。初めて知った。

何を言おうか、うーん。


「特にないですね、男だから出来ないであるならこの場に立つわけがない」


思ったことをそのまま発言する。性別に囚われすぎては人の評価なんて出来なくなる。


「...強いですね、次は現書記長のウエメン・ソラさん」


「はい」


そうして自分の番は終わったのに未だに緊張が解けない。なんでだ?

この二日間を無駄にしたくない。せっかく師匠のところまで行って、メンタルケアをしたのに。また不安定な状態になるのか?

自身の精神的問題に向き合うことが怖くなっていると、


「以上をもって、生徒総会は終わります」


生徒会長の声が耳に入る。

起立、礼をし、解散となる。観客はゾロゾロと体育館から出て行く。

緊張感から解放されるが自分が何を言っていたのか忘れた。


「さて今日はこれで終わりだから、片付けをしようか」


ぼんやりとしながら座っていたイスを舞台袖に運んでいく。

運び終えると、生徒会長が魔法を使って掃除を始めているのを舞台袖の壁にもたれかかりながら眺める。


「ずいぶん疲れてるわね?」


カリベルトは壁からほんの少し空けて、俺の横に来る。

視界の中央を生徒会長に固定しながらカリベルトに対して答える。


「だいぶ緊張したからな」


「意外ね」


「そうかぁ?」


早く帰りたい。もうクタクタだ。

顔にも出ているからカリベルトは話しかけてきたのだろう。


「ええ、場数を踏んでいるのに、こういうのは弱いんだと驚いているわ」


「戦うのと人前に出ることは全く違うからな」


話すこともキツくなってくる。口を開けて発音することも疲れた。


「そうね...」


カリベルトは察したのか何も言わない。動きもしないが。この時間が楽だ。


「お疲れ様、明日から演説できるから。じゃあ解散」


掃除と確認が終わった生徒会長がそう言い放つ。

俺はゆっくりと動く。


「つっかれたぁ」


俺と話そうとみてくるアルベド先輩には悪いが、帰らせてもらう。

懐から鉄扇を取り出す。


「カリベルト、もうすることないよな?」


「ないわ、生霊蜘蛛援について聞きたいと思うけど、今は面倒なんでしょ?」


「そうだな」


気遣ってくれることに内心感謝しながら、フラフラしながら檀上に向かいだす。

周りは何も言わない。明らかに疲れているのがバレているんだろう。


解放感がある客席の方を見て、鉄扇を客席に向ける。

そうして俺は一匹の巨大な黒蝶になる。そして羽ばたいていく。

その途中で小さくなりながら数多の黒蝶に分裂していく。

そのまま宿屋に直行する。


「すごい量と質だね、カリベルト」


「そうね...」


残された八人は幻想的な光景を見ていた。

その中の一人は絶望と焦燥感をもっていた。このままでは当選できないと。





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