B
山科宗司
第1話
「自分の名前すら曖昧で、何も覚えていないんですけど····」
「そんな私に旅をしろと言うんですか?神様は」
「えぇ」
「はぁ····」
小さな集落で目覚めてから今日で三日目、この世界では魔法という力を持つことが当たり前で、魔法も記憶も無い私は誰にも必要とされず、退屈な日々を過ごしていたが「神の使い」を名乗る人が私の元を尋ねてきた
「それで、その神様が求める旅っていうのは具体的な目的とかあるんですか?」
「勿論です、聞きたいですか?」
「はい」
私がそう言うと、白いローブの隙間から見える黒い誰かは笑顔で話し始めた
「まず、貴方にはこの世界で起きている問題を神達の邪魔にならない程度に解決する事が旅の目標となっており、全ての問題を解決した後、主神である太陽神に会う事が旅の目的です」
「分かりましたか?」
「はい、一応」
私が答えると神の使いは再び話し始めた
「では最初に、この地域一帯を治める獣神の元を尋ね、獣神を悩ませる問題と戦い、解決してもらいます」
「もちろん、嫌なら拒否する事を可能ですが、貴方が魔法を使えるようになるにはあと数年かかると思われます。この部屋で怠惰を貪りながらその日まで生き続ける事も私は否定しませんが、得たいもの、知りたいことがもし、何かあるなら私と共に旅をしましょう」
「·····。」
「どうしますか?私と共に日を見るか、日陰で悔やみ続けるか、選ぶのは貴方です」
「······。」
確かに、今の私には記憶も、力も、何も無いまさに日陰者
このまま生きてゆくなら
「私は、旅をする事にします」
「どんな旅路であろうと、何も知らない私が私を知るために」
私の決意を聞いた神の使いは笑顔でこう言った
「素晴らしい!その選択は私達が生きるこの世界を輝かせる第一歩になる事でしょう」と
「ありがとうございます」
「いえ、決心したのは貴方ですから」
「一応聞いておきたいんですが、神の使いが名前なんですか?」
「はい?あぁ、仮の名として夜に響かせるならホッホ、私の名前はホッホ」
ホッホさん·····
「知ってると思いますが、一応言っておきます」
「この世界で名前は呪いであり、枷ですから、自分から他人に聞かないようにした方が良いですよ」
「そうですか····」
「では獣神の所へ向かいましょうか」
「そうですね」
私は椅子から立ち上がり、部屋を貸してくれていたおばさんに旅をする事を話し、獣神様が住むアーネストに向かう為、私達は道を歩き始めた
「そういえば、私はホッホなので貴方は·····何が良いですかね?」
「分かりません」
「ですよね、記憶も無いし」
笑いながら小馬鹿にしてくる黒い誰かは、この世界で訪れることの無い夜を感じさせた。
B 山科宗司 @Impure-Legion
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