三大欲求
亜諭
第1話 1人目:川岸 陵介(カワギシ リョウスケ) 1.
人間に理性は必要だ。
少し触れれば壊れてしまうような、この上なく脆い理性でも無いよりはマシだろう。
俺の理性は脆かった。
よくあるエロ漫画のように、胸のデカい色気のある女に誘われても性欲を抑えられるような鉄壁の理性など持ち合わせていないのだ。
俺のように性欲が人一倍強く、金を払ってでも異性と交わることを求める人間は一定数いるようで、この世界で生きていればそれが原因で後ろ指を指されることも無い。
俺は他の何を差し置いてでも異性と交わる事を求める、漫画やドラマなら俺のこの欲に何かしらの重い過去や理由が付いてきたのだろうが、現実はそこまで複雑じゃない。
ただ純粋に、陰部に快感を得るためだけに異性との性行を求めるのだ。
ただ俺は特に歪んだ性癖を持っている訳でも無いため、異性に拒まれる事もないが求められる事も少ない。
金と胸と両性の陰部がモノを言わせるこの世界では俺は金以外に取り柄が無い。実家が太い俺は金だけでこの世界を生きてきた、それだけ厳しい世界なのだ。
ごく普通の性行を望み、特殊な性癖など無くても昔から性欲だけは人一倍強かった。
俺には兄が二人と姉が一人、年の離れた妹が一人いるため遺伝なのかもしれないが、性欲の強さだけならばこの世界でも3本の指に入るだろう。
だから俺は17になった日の夜、家族が息を飲んで見守る中、迷わず〔性欲〕を選択した。
父も母も祖母も俺が性欲を選択したことを嘆き、ひとしきり哀れんだ後、荷物をまとめ出ていくように言った。結局あいつらにとって俺は今の世間体を維持するためだけの道具にすぎなかったのだ。
俺の家はいわゆる元華族の高貴な家で、かつては華族の中でも伯爵の位を持っていたのだと言うのだから現在も貴族のような立ち位置にあるのは間違いない。
その三男が己の人生の色を決める“欲求選択”でこの世でもっとも軽蔑され、疎まれる「性欲」を選んだというのだから大変だ、父としては当然そんな世間から敬遠されるような欲を選んだ息子を自分の家に置いておく訳にはいかない。
何故か?当然俺に言わせれば時代遅れとしか言いようのない、貴族の誇りなどというものを守るためである。
そもそもこの世界のシステムがおかしいのだ。
どんな人間でも例外なく17歳を過ぎると強制的に己が一生付き合い続けていく欲求を、その全てが人間にとって必要不可欠なハズの三つの欲求の中から1つだけを選び、決めなければならない。
選択した欲求以外の2つの欲は“欲求選択”が終わった直後に強制的に排除され、求めることは許されなくなる。
こんなにもおかしい事があるだろうか。
しかも己の子孫を残すことだけであれば薬の服用で陰部は反応し、精巣も仕事をする、それ故に、しようとも思わなかったが、
『子孫を残すためやむを得ず性欲を選んだ』という言い訳ができないのだ。
この世界に生まれてしまった以上仕方がない。
仕方がないが、“欲求選択”なんてモノが無ければ少なくとも今よりはマシな人生を遅れたハズなのである。
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