狐狼の龍騎

teikao

第一編 少年編

第一章 旅立ち

第1話 旅立ち

3月31日 日曜日 午前

1人の少年は身支度をすると両親に告げる。


「いままで、ありがとう」

「おーう、がんばれよ」


親子は軽い挨拶を交わした。

父親は息子の独り立ちにも興味すらなく、新聞を見ながら競馬の予想を立てていた。

母親は夜の仕事を終えて、眠っている。

少年は明日から叔父の経営するさつまいも農家で下宿しながら働く。

だらしない両親は少年を高校に通わせる財力などなく、家を出て行く際も1人分の食費が浮くくらいにしか考えていなかった。


少年は15年暮らしたボロアパートの扉を開ける

灰色空と遠くに見える街並み

ここは龍顎市りゅうのあぎとし、人口230万人ほどの街。

少年は遠くに見えるビル群を見て舌打ちをし、少しの着替えと中身の少ないサイフだけを手に叔父の家に向かう。

華やかな景色にイライラする。


少年は駅につく。


「あれ龍騎りゅうきじゃね?」


そこには同級生が3人いた。翌日から高校生になる彼らは最後の一日を満喫しているのだろう。


「どこいくんだよ、龍騎」

「いまから叔父さんとこ。俺は明日から労働者っつーわけよ」

「すげぇな、給料でたら奢ってくれよ」


龍騎は貧しくどこか擦れている部分はあるものの、友人関係は上手くいっている。

同級生達の頑張れよいう声に押されて改札に向かう。

電車に揺られること30分、叔父の住む清風村せいふうむらに到着した。


「おーい龍騎!こっちだ!」


駅に叔父は迎えにきてくれていた。

土で汚れた軽バン、後部座席は倒してあり草刈機やら鍬やら籠など道具がいっぱいだ。

軽バンに揺られて叔父の家につく。


「この部屋を好きに使え」

「ありがとう、人生初の自分の部屋だ」


龍騎の暮らしていたアパートは2部屋しかなく常に両親と一緒だった。叔父に使えと言われた畳六畳のこの部屋は龍騎にとっては本当に嬉しかった。

叔父の奥さんが昼の用意が出来たといい、ご馳走様になる。


「明日からこき使ってやるからな!」

「頑張るよ」


昼を済ませ、洗い物をし、時間を持て余した龍騎は部屋で荷物を整理した後近隣を歩いて回る。

大きなさつまいも畑がある。


「ここが俺の職場ってわけか…」


龍騎は金を稼ぎ、両親みたいにはならないと心に決めている。

その他には特に何もない。

民家すら少ない、視界に入るのは叔父の家をいれて10件ほどか。龍顎市とは大違いだ。


日が暮れ、夕飯もいただき、風呂に入って布団に入る。

どこからか聞こえるのは虫の鳴き声と風の音。

車の音や人の声は聞こえない。


「これが田舎ってやつか」


こうして龍騎の新生活が始まった。


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