第3話

ーーーーゆらゆら、ゆらゆら








「ぅ、……ん…」



痛みと疲労でまぶたが重く、パッチリと開けることはできなかった。




まどろみながらぼんやりと天井を眺める。

服は着ていない。

でも毛布はかけられている。




何、してたっけ?

確か…



……そうだ。

"あの人"が仕事に行ってる間にこっそり家から出て、それで…



それで、ちょっとやらかしちゃって、1ヶ月くらい監禁されて…



で、"あの人"にバレて、怒りの形相ぎょうそう(無表情)で迎えに来たあの人とこの部屋に戻って来て、…




………………。






あー…そうだった。

さ、散々抱かれたんだった。








思い腕を持ち上げ、自分の体に触れた。

痣と傷、無数の噛み跡と紅い華。



でも割とさっぱりしている。

どうやら風呂には入れてくれたらしい。


乙女としては、…まぁ!恥ずかしいっ!って思うところだけれど…。




度々出くわすこのシチュエーションに、もはや慣れてきてしまった自分に涙したい気分だ。










ーーーーゆらゆら、ゆらゆら










重い上体を何とか起き上がらせると、生ぬるい風が肌をでた。


顔を上げて左を向けば、サッシが開いている。

カーテンが、ゆらゆらと揺れていた。











ーーーーゆらゆら、ゆらゆら…











風に乗ってかすかなタバコの香りがする。

カーテンで姿は見えないが、"あの人"はバルコニーにいるらしい。




室内は暗かった。

電気が付いていないせいもあるが、外が曇っていて月光が入ってこないということもあるのだろう。





パフッと体を倒し、仰向けになる。

それから、起き上がったせいでめくれた毛布を手繰たぐり寄せ、体をすっぽりとおおった。





…….1つ、抗議したい。




いくら夏だとはいえ、愛しい女を全裸のままにしてサッシ開けっ放しにするか?

いや、普通はしない!(反語)

たとえ毛布だけはかけてくれていたとしてもね!(強調)




酷いじゃないか。

思いのほか寒いぞ!


乙女はか弱いんだ。

もっとあつかいに気をつけてくれないと、あっという間に風邪をひき、病気になり、死んでしまうんだぞ!





「……お前、そう簡単に死なねぇだろ」


「………盗み聞きですか」


「聞かれたくねぇならチャックしとけ」


「いや、無理ですよね。

口にチャックでさえ針でわないといけないわけでしょう?

それさえ痛くてできないのに、心にチャックなんて…。

というか心は物質的なものじゃないので、個体であるチャックは取り付けられないのですよ」


「だったら諦めろ」


「………」





理不尽だ。


酷い。



この場合、読心できるこの人がかってに私の心を読み取ってきたことの方が悪いのに。


私は悪くない。

思ったことを心の中でわめいてるだけだもん。


みんなやるじゃん!


会社の上司とか後輩の愚痴とかさ、セクハラジジイに悪態ついたりさ。




内心騒ぐのくらい良くない⁉︎





鬼畜イケメン悪魔野郎ぅぅぅぅぅ!!!!!

って、心の中でくらい叫んでもよくない⁉︎








「よかったな?お前の愛する男の顔⚫︎好みで。

でも残念ながらこんな性格の人間を愛したのもお前だ」


「………だから、かってに読心するのはやめましょうよ」




耳を塞げ!

それでも聞こえるというのなら、その頭に耳栓突っ込んでおけよぉぉぉぉぉ!!!

私の羞恥心を知れぇぇぇぇ!!!

配慮しろよぉぉぉぉ!!!


それともなんだ?



『心の声は、…心で聞くんだぜ?

耳栓なんかじゃ、お前の想いを俺から奪うことはできない』



……とかなんとかイケメンな胡散臭うさんくさいセリフでも言っちゃうのか⁉︎





「………言うわけねぇだろ」


「ですよね。そうですよね。

あなたがそんなセリフ言ったら私、全力で爆笑したのちに吐きます」


「吐くのか」


「どんなセリフだったとしてもあなたみたいなイケメンが言うとキマリすぎてムカつくので。

ついでにその顔面に向かってゲロって汚してやりましょう」


「お前の身長じゃ無理だな」


「…………」







く、クソゥ…


ああ言えばこう言いやがって…






………まぁ、150センチ台の私が180センチ台の彼の顔面に吐くなんて無理なのは事実だけれど。

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