3話 メアの暴走
これ以上にないハジャの窮地に、アタシの躊躇はぶっ飛んだ。
アタシの助けが必要なくて、無駄に終わった時のリスクは確かにある。でも、今ここで動かなくちゃ、アタシの後悔がまた一つ増える事になるだろっ!
アタシはバッと、この身を眼前の戦いに落とす為に動いた。
その時だった。
「ヴォォッ! ?」
突然、メアに馬乗りになり、コックピットの破壊に手を伸ばしたナイトメアが奇声を発した。呻きでもあり、驚きでもある奇声を。
そればかりか、奴の巨体がドンッと跳ね上がり、ぼごおんっと爆炎に包まれた。メアを四方から押さえ込んでいた分身までも、真黒の剣に刺し貫かれてどろどろっと瓦解する。
急速に形勢が覆った事態に、アタシは目を見張ってしまった。
すると地に伏していたメアの身体がゆっくりと起き上がる。
「ハジャ! 大丈夫か! ?」
「ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
上半身を軽くのけぞらせ、物々しい咆哮をあげた。
ビリビリッと天地を大きく震えさせ、アタシの心配までもかき消す力強い咆哮。
ま、まさか……。アタシに応えたのは、ハジャじゃない?
ビリッと嫌な予感が走った。
アタシの頭の中で、この嫌な現実世界で。
そして、それを「確実」に昇華させる前に、メアはアタシ達に応えを示した。
「ヴォォオオオオオッ!」
荒々しい雄叫びをあげると、メアがドンッと力強く大地を踏みしめ飛び上がる。
ビュンッとアタシの横を突風が駆け走り、アタシの視界は艶やかな黒に包まれた。
アタシは「クソッ!」と舌を鋭く打ち、眼前に広がった髪を素早く払いのける。
そうしてメアの姿を捉え直すと、メアは爆発の衝撃を抜けたナイトメアに追撃をかけていた。
ガシッと足を掴み、重力に加力するかの様にぶんっと思いきり地に叩きつける。
「グアアッ!」
再びナイトメアの姿が煙に包まれた。
衝撃波もぶわっと広がるが。それだけじゃ終わらせないと言う様に、地に伏したナイトメアの頭部と手足がザンッと四方に飛び散った。
なんと、そこから生えていたであろう部分から太い黒刃が屹立し、バッツリと綺麗に切断したのである。
衝撃に重なる衝撃。だがまだ、ナイトメアに対する衝撃は終わっていなかった。
メアが容赦なく、ナイトメアの身体に馬乗りになった。そしてもぞもぞと動く身体の中央に、ズドンッと拳を入れ込む。
そして思いきり引き抜いたかと思えば、またすぐにズドンズドンッと拳を振り落とした。
滅茶苦茶に飛び散る、ナイトメアの黒血。
動けぬまま繰り返される非道な暴行に耐えきれず、ナイトメアの身体がしゅううっと消えていく。
あれだけ不利な形勢であったにも関わらず、一気に形勢を逆転させ、核を破壊して勝ってしまった……。
アタシは晴れ始める悪夢に、ゴクリと唾を飲み込む。
それと同時に、ゆっくりとメアが立ち上がり、「ヴォオオオオオオオオオオッ!」と勝利の雄叫びをあげた。
その声で、アタシはハッと我に帰る。
これはハジャからの思考で行われた事だとはとても思えない、野蛮で残虐なやり口だ。
つまりメアの
「暴走だ」
アタシの推測に先んじて、ヘッドホンから正解を告げられた。
いつものハゲらしい重々しい口調だが、そこには密かな焦りが込められているのが分かる。
「ナイトメアの核破壊後、こちらで全てをシャットダウンさせた。にも関わらず、メア機は動いている。生体反応もメアと完璧に合致している状態で、こちらがハジャの無事を把握する事も出来ん」
ハゲは淡々と最悪の真実を語った。そして「クラーフ」と、物々しくアタシの名を呼ぶ。
「お前が止めろ」
……んな事、言われずともそうするに決まってんだろ!
アタシは心の中で憤懣としてから、向こうで手をこまねく大人共に唾棄した。
「てめぇ等は、アタシが良いって言うまで手を出すんじゃねぇぞ!」
言うや否や、アタシはヘッドホンを投げ捨て、パッとスカイボードから飛び降りる。
内に押さえ込んでいた黒が、ぶわりと溢れていく。
いや……強引に取り続けていた人の形が、元の形へと急速に戻り始めたのだ。
「アタシの悪夢に、塗り替えてやる」
晴れやかになった世界が再びぶわっと黒に包まれた。
「ヴォオオオオオオオオオオッ!」
雄叫びをあげ続け、勝利の悦に浸っているメアは気がつかない。
アタシは、がら空きの背後を思いきり蹴り飛ばした。
ズドンッと大きな一撃がもろに入り込み、メアの巨体が前に吹っ飛ぶ。
蹴り飛ばされたメアは「アアアッ」と恨みがましい呻きをあげながら、ゆらりと立ち上がり、こちらを禍々しく射抜いた。
煌々と輝く赤色の目に、アタシはこう映っている事だろう。
新たに現れた、もう一体の人型ナイトメアだと。
……否定しねぇよ。まぁ、否定出来る所もあるんだが、そこはかなり微妙な所だ。
けど今の姿は、誰がどう見ても、人ではないだろう。
だから否定しねぇ。
アタシは、ナイトメアだ。
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