ー絆ー

 勇次が出て行って数十分経っていた。


鉄男はスチールデスクに突っ伏し、

痛みに耐えていた。


 トイレのドアが開き、直也が這いつくばって

出てくる。

「・・・・あのぼっち野郎、ホントに1人で

行かせちまったのかよ?」

 直也が言った。

「ああ」

 鉄男は突っ伏したまま答えた。


 直也はなんとか立ち上がり、兄の

スチールデスクに向けて歩き出す。


「大丈夫なのか?あんな奴でよお・・・・」

 言いながら、兄の対面に座った。

お尻を気にして慎重に。

「仕方ねえだろ?これしか手は

なかったんだからよ」

 鉄男は変わらず、突っ伏したまま答えた。

「仕切り直しゃよかったんじゃねえの?」

 ・・・・鉄男が顔だけ上げ、直也を見据える。

「ここまでやっといて、金も手に入れずチビを

返してどうなるってんだ?

無傷の親は確実にサツに通報する。

こっちは追われ損だ。

それに今後は警戒して、二度とあのチビは

攫えねえ。

じゃあ、ってんで別のターゲット探し、

リサーチをまた長い時間かけてやんのか?あ?」

 直也は俯き、言葉を返せなかった。

「使える手はなんだって使う。失敗は無しだ」


 鉄男の力強い言葉に直也が尋ねる。

「ぼっち野郎がポカしたら?」

「逐一電話連絡させる事になってる。

少しでも様子がおかしいと思ったら

こっからズラかるぞ」

「・・・・鉄ニイ、動けんのかよ?」

 心配そうに直也が言った。

「・・・・わかんねえ」

 鉄男は情けない自分を口の端で笑った。

「お前は?」

 鉄男の言葉に直也は首を傾げー

「・・・・ごめんな。俺が調子乗って寿司なんか買ってこなけりゃよ」

 再び俯いた。今度は肩を小刻みに

震わせながら。

「いっつも鉄ニイには迷惑ばっか掛けてるよな、俺。大事なトコでよお」


 鉄男は上体を起こし、弟を見据えた。

「おい」

 直也が顔を上げる。

「兄弟だろ?迷惑くらいなんぼでも

掛かってやる」

 鉄男はそう言うと、ニヤリと笑った。

 直也も笑った。そして兄弟で笑い続けた。

痛みを堪えながら。




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