第16話 浮気成立だな
修学旅行2日目の深夜。この時期の夜空は、晴れていれば、オリオン座流星群を見ることができる。この日は月も新月に近かった。オリオン座の近くを流れ落ちる流星を、屋外であれば観測できる。
寝静まった部屋の中で、明かりを消したまま、少し前に目が覚めた泉岳きらりは窓際の椅子に腰かけてペットボトルのお茶を飲んでいた。しばらくしたら、また寝るつもりで。宿の部屋の窓からでは、真南の星空を見ることは難しいが、窓の障子を少し開けて、なんとなく真っ暗な窓の外を眺めていた。
今までは女子サッカー部の活動が楽しくて仕方が無かった。9月の大会は3回戦で敗退した。けっして強いチームではなく「やるからには一つでも多く勝ちたい」とか、そういった意識の部活動である。予選でもシード校には胸を借りる気持ちで戦う。11月にも大会があるが、そのような感覚で挑むのだろう。
小学校時代から続けてきたサッカーという競技と、いつまでも一緒に生きていけるとは到底思えない。大学に行かなければ。であれば受験勉強もやらなきゃいけない。運動部を退部する生徒の話が流れてくると、自分は続けるぞと思う反面、文武両道は荷が重いというのも本音だった。
携帯電話には、神楽りおと撮ったツーショットの写真がある。高校でも勉強ができる者を、泉岳は尊敬していた。中学時代に比較的優秀だった者達の集まりでも、上位に行く者。言い訳をせずに勉強しているのだろうなと思って、眺めていた。
「神楽、本当にいいヤツだな。『小説家目指してます』とか言って」
そう思って、寝ている神楽りおの顔を見た。寝息を立てて、寝ている。
泉岳はゆっくり立ち上がると、一歩、二歩、寝ているりおの布団に近づいて行った。大きな音がしないように、忍び足で。そしてりおの顔をのぞきこんだ。
いつもの大きな丸眼鏡をしていない。
「美少女だな」
と思った。
りおの呼吸を、注意深く聞きながら、膝まづいて、布団の上からそっと手を添えた。肩の辺りに、じわりと手を乗せて、華奢なりおの身体を確認した。
昨晩入浴の際、自分の胸をマジマジと見ていたお返しのつもりだった。浦川辺あやと付き合って、肉体関係という噂もあるが、寝る前に田原えみかから聞いた話によれば「キスをした」に過ぎないということだ。
「スヤスヤ寝てやがる」
修学旅行二日目の夜だと言うのに、誰も夜更かしをせず、寝ている。
星でも見れたら面白いのに。しかし、宿の窓からでは到底見れない。
「泉岳さん」
小さな声がした。りおが、目を覚ましてしまったのか。
「神楽」
布団の中にいるりおの顔を覗き込んだ。すると、薄目を開けたりおと目が合った。
「泉岳さん?」
「神楽」
「どうしたの?」
「眼鏡無いと可愛いな、お前」
小声で話しをする二人。
「皆、起きちゃうよ」
泉岳は、もう一回寝ようとするりおの唇をジッと見た。
「何を考えてるの?」
「お前、キスしたんだってな」
「やめてよ」
「『俺の』唇も奪ってみろ」
泉岳の目がギラギラしていた。りおは顔を赤くして、困った様子で、「寝たほうがいいよ」と言う。
すると泉岳は、自分の寝間着のボタンをプツプツと外し始めた。
「今見せてやるからな」
「何をしようとしているの?」
「お前の好きな『俺の』パイオツを見せてやるからな」
そう小声で言って、寝間着を脱ぎ去った。肌着を捲り上げて、乳房を見せた。
「ほら。神楽の好きな『俺の』」
泉岳は乳房を見せつけてきた。りおやあやにはない大きな丸い乳房が揺れる。
「『俺の』自慢の」
りおは、布団から起き上がると、泉岳の顔を見て目を見開いた。
「ふざけないで」
凛とした小声で言う。
泉岳は、りおの顔を舐めるように見て、笑った。
「好きなんだろ?」
りおは、ムッとして、布団から右手を伸ばして、泉岳の乳房を掴んだ。乳首の下辺りを掴んで、上に押し上げた。
「怒るよ?これくらい平気だよ?」
泉岳は、りおの手に自分の手を上から重ねて、
「浮気だな!」
と言い、肌着の裾を下ろした。
りおが手を引っ込めると嬉しそうに立ち上がった。
そして窓際へ、音を立てず歩きながら、りおを手招きし、
「おいで」
と小声で言った。
目が、りおを呼んでいる。
りおは、布団から這い出て、一歩二歩、窓際へ歩いた。
「ずっと好きだった」
泉岳は、冗談半分で言って見せた。そしてまた、肌着の裾を捲り上げると、
「愛して!」
と言う。
躊躇うりおを、
「自尊心?」
と言って煽る。
りおは顔を赤くして、今度は両手で泉岳の乳房を触った。
泉岳は満足そうに、両手でりおの両手を押さえつけて、笑った。
そして、りおの華奢な肩を抱きしめた。
りおの顔が、泉岳の胸に吸い込まれていく。
「だよな?いいんだぜ?『俺の』パイオツはお前の味方だ」
りおは、自分にもある快感を知っていた。
「全然いいぜ?」
冗談めかした台詞回しは尽きることなく、顔を上げたりおの唇を目掛けて、
「浮気成立だな」
と言った。
あやとは違う、泉岳の唇。
唇と唇が重なる、ギリギリ手前で、りおは顔を遠ざけた。
「私の何が好きなの?」
と、りおが言うと、
「強いところ」
と泉岳はまた悪ふざけで言った。
きらりは、顔を赤くしたりおに、また乳房を与えながら、
「朝が来たら、『きらり』って呼べ!」
「『りお』って呼んでやるからな!」
と誇らしげに言った。
二人は小一時間同じことをしていた。
そして朝が来て、全員が起床した。
洗面台で歯を磨く横山みずきが、
「雌の匂いがする」
とボソッと言った。
つづく
ネオページ|また君に会うための春が来て
https://www.neopage.com/book/30065518320038800
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