第15話 修学旅行 中編
修学旅行2日目。朝早起きした一行は京都の宿を出ると、電車で大阪・梅田に向かった。午前中は修学旅行らしく繁華街・梅田とその周辺を探索する。東京と大阪の違いを観察するためだ。
大阪市全体を見れば碁盤の目のように道が整然としているが、梅田周辺だけ全く別の秩序があるかのように道が複雑だ。そこに小規模の店舗が集積して梅田という繁華街を構成している。東京が平面の上に人を乗せるような感覚の観光地であるのに対して、大阪は立体の中に人を招き入れるような感覚の観光地である。地上も飲食店が所狭しと並んでいるが、地下も、空間を無理やり利用したかのように飲食店が雑居している。東京は浅草が構造的に近いかもしれないが繁華街としての規模が全く違う。東京人によっては、まるで梅田という街が、その有様に面食らわない者ばかりを飲み込んできたかのような錯視を覚えるかもしれない。
横山みずきは、
「大阪の街をつくる人は最初にじっくり考えるのが苦手なのか?」
と言う。
田原えみかは、
「神楽さ~ん、渋谷より迷いま~す」
と言う。
泉岳きらりは、
「不案内で悪かったな」
と言う。
神楽りおは、
「最初に大阪の街をつくったのは仁徳天皇だね。でもその
と言う。
「そうなんだ。しかし梅田駅が無秩序すぎないか?どういう経緯で開発されたのか知らないが、後から無秩序に増改築したとしか思えない」
とみずきが言うと、泉岳は「難波駅はもっと大きくて複雑だ」と言う。
りおが、「北新地の曽根崎川跡をどうしても見たい」と言い、中嶋ゆずを含む5人は現地まで歩いた。
「今の時間帯なら大丈夫だ。夜は女子高生が行くのは危ないかな」と泉岳が言う。
りおは、
「この辺りはもともと川だった道が多いのかもしれないね。道がカーブしている」
と分析した。
その後、西梅田駅から四ツ橋線で四ツ橋駅に向かった。「心斎橋から心斎橋筋を歩いて難波に行くほうが楽しい」と泉岳が言っていた。午後に通天閣・
道頓堀まで歩いた一行は、写真撮影をした。
泉岳は、
「神楽、一緒に写真撮ろう」
と言って、りおの真横に並んだ。
りおは、
「うん」
と言って、泉岳の隣でピースをして笑った。
携帯電話を右手で高く挙げた泉岳は、
「目を閉じろ!盛れるぞ!ピースも顎のあたりで」
と言い、自分は、やや下を向いてウィンクをして、もう片方の手を顎に添えた。
キシィッ!
と音がして、一枚撮影した。
「ほら盛れただろ。カメラ目線はダメだぞ、目を閉じないと」
「ありがとう」
「お前らも入れ!」
「私も、か、かわいく、と、撮って欲しい、うん」
と中嶋が言うと、皆で中嶋をセンターにした。
「笑えよ!」
「ひっ・・・!う・・・エヘヘ」
キシィッ!
「中嶋、横山の方向け!」
「あ・・・」
キシィッ!
中嶋の横顔でもう一枚撮った。
「中嶋、お前、横顔ならイケるぞ!これ前田に送ってやるから!」
「や、やめて、ひ、ひそかに前田君の事をちょっと好きなの」
えみかが、
「皆さ~ん。そろそろお昼を食べましょ~う」
と言うと
「待て、田原。その前にたこ焼きだ」
と泉岳が言い、皆で道頓堀の出店でたこ焼きを買って、食べた。
昼食後に新今宮駅に向かう列車の中で「思ったより時間が余っているから、先に天王寺公園も行こう」というスケジュールが急遽決まり、天王寺駅で降りることにした。
「神楽も、中嶋も体力あるな」と泉岳が言う。
りおは、
「大阪が、東京と全然違うのが面白い。街の中で同じ機能を果たすものが大阪と東京で全く風情が違う。行き交う人々の顔つきや歩き方も違って見える」
と言った。
泉岳は、
「そうなんだ?全然分からないけど」
と言った。
りおは、
「私、プロの小説家目指しているんだ」
と言った。
泉岳は、ぽか~んとして返事をしなかった。成績優秀で現実主義者だと思っていたりおが、物書きなんかになりたいとは意外だった。一流企業の社員とか公務員とか、そういう進路を手堅く目指しているから高校で成績優秀者なのではないのかと思ったものだから。しかし後から後から、それくらい真面目に文芸部の活動に精を出しているんだなと関心する気持ちが追いかけて来て、
「どうしてだ?」
と聞いてみたのだった。りおは、
「子どもの頃の夢だから。一度しかない人生だから」
と言った。そんな大事な話を、孔雀が羽を広げて見せるように言う。些細な事で、泉岳は先入観からはみ出たりおを知る。泉岳も、高校のある時まではサッカーの道で、言い訳をせずに生きていけたらカッコいいなと思っていた。
通天閣は東京タワーや東京スカイツリーに比べると背が低く、台形の重々しい外観をしていた。館内にも入場して、展望台にも行った。その後は出店で串焼きを買って食べた。
泉岳は、
「この大きなタマネギが一番美味いんだぞ」
とメンバーに力説していた。
りおは、泉岳の話し方が面白くて気に入った。一つひとつの単語が唐突で突拍子の無い話し方をする。そんな事は誰も聴いていないのに、話が、転々と転がるように進んでいき、泉岳の人柄で転がり続ける。聴いていると、その現実のような泉岳の独特の世界観を受け取るばかりだが、それが愉快だった。
昨晩、風呂場で見た泉岳の大きな胸を包んだ学生服が、りおの目に映ると、泉岳はギョロっとりおの眼を覗き込んで、鼻で息をするのだった。
「今日も風呂入らないとな」
そういって、りおの心をくすぐってみたのだった。
つづく
ネオページ|また君に会うための春が来て
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