第3話 俺はリスポンする
正太郎は歩いた。
この異世界はRPGゲームの世界で戦闘はフィールドのエンカウント式だったから、歩いていれば何か敵に遭遇する可能性があると思われた。
「弓があるから大丈夫かな…弓の名手みたいだし…」
正太郎はどこか呑気にそう思ってポインヨタウンを出たが、次第に不安に駆られた。
「この異世界で死ぬと何処へ行くんだろう…」
ポインヨタウンから都市イグラードベリーまでの道中でエンカウントする敵キャラとは…。
そもそもこの道程を主人公パーティが歩くのは物語の中盤以降で、主人公の勇者レモンハートが革命軍に組した後だ。その際遭遇する敵キャラとは帝国軍の兵士や、教皇になったスィスィデの教皇軍の兵士だ。もしかするとゲームで定義(設定)された通りになっていて、この道では帝国軍や教皇軍の兵士にしか遭遇しないのかもしれない。ただし今この異世界は、ゲーム序盤のインフェルノ監獄襲撃(冒頭で幽閉された勇者レモンハートが脱獄する)の1年前という設定だ。
「でも誰一人歩いていない道だな…ポインヨタウンは深夜でも外出する人が沢山いたのに…」
やはりゲームの世界なのだろうなと正太郎は思った。
すると突然、正太郎の視界が…
グニャ~
となった。
そして…
正太郎の目の前に馬に乗った帝国軍の兵士が現れた!
「…3人いる!」
「お前は旅の者か?!」
馬に乗った帝国軍の兵士は上から見下ろしてくる。どこか威圧感のある声だった。
「はい。イグラードベリーに行きます」
「どこから来た?」
「ポインヨタウンです…」
帝国軍の兵士達は顔を見合わせると、
「…荷物を確認する」
と言って、正太郎の装備品【大弓】を確認しだした。
しばらく捜索された後で、
「凶事に使うものは何も持っていないな…」
と言うと、
「狩人だろう…顔立ちに気品があるから、もしや貴族の成り下がりかと思ったが…」
と言った。
正太郎は、
「『貴族の成り下がり』って何ですか?」
と聞いた。
貴族の成り下がりとは、帝国の盛衰の陰で浮かばれなかった没落貴族の事だ。そのような者達の家が革命軍を支持したり、革命軍に加わったりして手を焼いているという。
正太郎は、
「僕は違います」
と言うと、帝国軍の兵士達は笑って通り過ぎて行った。やはり銃器の発明された異世界で弓を武器としている時点で狩人か何かなのだろう。
またしばらく歩いていると、全く同じやり取りを、全く同じ風体の帝国軍兵士3人とした。
さらにしばらく歩いていると、やはり全く同じやり取りを、全く同じ風体の帝国軍兵士3人とした。
それを繰り返しながら都市イグラードベリーに着いた。
正太郎は、
「あの城門をくぐれば都市イグラードベリーだな…」
と言った。ポインヨタウンからの道中は30キロメートルあった。とっくに日が暮れていた。
電気の発明されていない異世界で、城門の篝火がボンヤリと門番を照らしている。
門番は、城門に向かって歩み寄る正太郎に、
「夜になったら城門は閉まるから!通行人であるなら早く通れ!」
と叫んだ。
正太郎が速足で門を潜ると、帝国軍の兵士達が出て来て、やはり道中と全く同じやり取りをした。
門番は、
「悪く思わないでくれ…革命軍の支配地域が拡大していて、この都市イグラードベリーは最前線になる可能性が高く、君のような狩人まで警戒しているんだ」
と説明してくれた。
正太郎は、その日の晩は街で野宿をした。その際思ったのだ。
「元のゲーム通りにリスポンする仕組みなのか…死んだら終わりなのか全くわからないが…ノーミスでクリアするなんてプロゲーマーでも難しかったよな」
正太郎は、この異世界が元のゲームの通りにセーブポイントやその他のリスポン地点でリスポンする仕組みになっている事に「賭ける」必要があると判断した。
朝になると、正太郎は都市イグラードベリーのギルドへ行った。ギルドの中は朝なのに酒盛りをしている猛者風の人達が大勢いた。ギルドには仕事があって、商人の警護から盗賊退治の傭兵の仕事まで幅広く求人がある。この仕事とはゲーム内のミニゲームとして実装されているものだ。
正太郎はゲームの知識を根拠に「ギルドに行けばミニゲーム(仕事)でお金を手に入れられて、野宿以外の方法で夜を越せる」と思った。また「ゲームの世界だから空腹にはならないようだが食べ物を全く食べないと流石にストレスがあるな」と思った。正太郎はミニゲームでお金を稼ぎたかった。
正太郎は盗賊退治の傭兵の仕事に応募した。
これは出てくる盗賊をひたすら倒していき、パーティが全滅(敗走)したら終了するミニゲームだ。「このミニゲームに出てくる『倒せないレベルの盗賊』が魔王トワイライトジェネシスより強いはずなのだが…」というユーザからのツッコミが絶えない盗賊退治のミニゲームである。
「これはミニゲームだから。ミニゲーム中に敵に倒されても『敗走』という扱いで、ギルドでリスポンするはず…」
正太郎は一抹の不安を抱えながらも、ギルドの「これから仕事に行く人が入っていく暗闇」の前で一呼吸してから暗闇に吸い込まれていった。
そして…
正太郎は、かなりの数の盗賊を倒した後で『倒せないレベルの盗賊』に敗走してギルドの中央でリスポンした。
結果、一か月くらい遊んで暮らせる金額を稼ぐ事に成功したのだった。
「よかった…ちゃんと元のゲーム通りリスポンする時はリスポンするんだな…生活って意味では全然チョロい世界なんだな…やっぱりゲームの世界は人間が駄目になるな…」
正太郎は真面目腐ってそう思った。ただミニゲームを通じて自分の弓が高い威力を持っている事がよくわかった。これならミニゲーム外でモンスターと呼ばれる敵に遭遇しても勝てる可能性が高いと思われた。
正太郎は、早速宿屋に行くと、昼間からゴロ寝をして、夜はグーグーと寝た。元のゲームでは死ぬと最後に泊まった宿屋でリスポンする。これでいつ何時死んでも宿屋でリスポンするようになったと言える。
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