ギュリエンの地 ギュゼルの追憶

碧猫

第1話 ギュリエン


 神獣の国、ギュリエン。ここは、神獣の祖が作った組織、ギュシェルのための国。


 これは、後悔の物語。僕が犯した一つの判断ミス。今も消えない。たとえ、忘れても、消える事なんてない。

 今は死の大地と化した、ギュリエン。そして、僕らギュゼルの追憶。


 ここでは階級がある。階級で、役職が変わるけど、差別とかはないから、低階級の方が良いって人もいそうだね。


 僕は、フォル……フォル・リアス・ベレンジェア。


 この国の最高位である、主様の従兄弟の家系。


 主様の従兄弟という事があってか、管理職的な立場でね。まぁ、命令無視しまくった結果、辺境の宮に飛ばされたけど。


 それはそれで、良かったかな。


 宮は、僕らの仕事場みたいなものだよ。一定以上の階級だと、宮で仕事しないとなんだ。おかげで、子供の頃から、過重労働じゃないかと言われる仕事量をこなしていたよ。


「ベレンジェア様、主様より、異動命令が出ております」

「はぁ……」


 この、色素の薄い空色の髪の女の子は、僕の幼馴染のフュリーナ。なぜか、僕と一緒に、ここへ飛ばされたんだ。本人の進言によりとか書いてあったけど。進んでこんな場所に行きたがるものかな?


 何もなくて不便なのに。


「ありがと」


 僕は、フュリーナから、書類を受け取った。


 この宮は、僕とフュリーナ以外いないんだ。みんな、異動願いだしてね。それが受理されて、今では二人だけ。


 原因は、僕らしいけど。今回は、そこまで厳しくした覚えないんだけどなぁ。


「フュリーナは、都の中央の宮か……ここって、確か」

「ええ。今朝、これが届いたので、連絡したら、都で待っていると返事が来ました」

「そうか。良かったね。愛しのリーグと一緒に働けて」


 リーグリード、僕とフュリーナの幼馴染であり、フュリーナは、彼に想いを寄せている。リーグもフュリーナに想いを寄せていて、二人を知る僕からしてみれば、とっととくっつけてって感じだよ。


 なのに、二人とも奥手で、全然進展なし。しかも、こっちに異動したら、フュリーナは、リーグと連絡しなくなるし。


 連絡していなくても、想いは変わらないようで、その愛しの相手と一緒になれるのは、喜ばしい事なんだろうけど。


「いえ、そんな事ございません」


 なんて、否定されたよ。


「私は、ベレンジェア様から、沢山の事を学びました。ですが、まだ、学んでいない事もございます。それを、学ぶ前に、このような異動命令が出てしまい、やるせない思いです」


 って、本当に良い子すぎるよ。みんな、僕が厳しすぎるとか、鬼畜だとか、人の心もっているのかとか散々だったのに。


「君がそう思ってくれていたなんてね。嬉しいよ。今までありがと。異動先でも、頑張って」

「はい。精一杯、役目を果たさせていただきます」

「うん。僕の異動先も、都に行かないとだから、リーグに会うまでは送るよ」

「よろしいのですか?」

「ついでだ。支度するから、待ってて」


 宮に寮があるんだけど、僕、一度も使った事なくて、私物は全部ここの部屋に置いているんだよね。しかも、かなり少ないから、すぐに荷造りが終わった。


「ごめん。待たせたね。終わったから行こっか」

「ええ。その、魔法車のカードは?」

「ちゃんと持ってるよ。前に持ってなくて、時間食ったからね」


 準備が悪いとかじゃなくて、世間知らずって思われるかもだけど、知らなかったんだ。ここに異動になる前は、一度も一般の魔法車に乗った事がなくてね。


      **********


「そういえば、ベレンジェア様は、どこに異動になるのですか?」

「……双子宮」


 正直、気乗りしない。双子宮で、子供の世話をしろなんて。でも、それが主様の命であれば。って、これ絶対に疑われそう。散々命令無視に命令違反、報告義務の放棄。やりたい放題やってたから。


 それが、許される立場ではあるんだけど。でも、今回は、流石に、無視できなかった。


 これ以上無視すると、そろそろ始末書きそうだから。面倒な事は避けたい。


「……わがままで、誰も寄せ付けない、双子の子でしたか」

「単なる噂か、真実か。それは知らないけど、事実、あの宮で働く者は皆辞めている」


 ここの宮は、停車場が近いんだ。もう着いたよ。


 転移魔法で行けば早いし、楽だけど、使うの禁止されてるんだ。設備が整っているから、不便ではないんだけど。


 都に至っては、妨害で、転移魔法は使えないんだよね。普通なら。


「誰も乗ってないな」

「そうですね。この時間は、人に移動がないのでしょう」


 それは、そうだろうね。今、夜中だから。


 にしても、暇だなぁ。魔法車内って。


「ベレンジェア様は、双子姫様に何か買っていかれるのですか?私は、クッキーを買おうと思っているんです」

「好みを知らないから、何も買ってかないよ」

「そうですか」


 最近は、仕事の話だけだったから、話が続かない。


 二人っきりだと、これは気まずい。


「……」


 気のせいか?今、誰かに見られていたような。


「どうかされましたか?」

「……なんでもない」


 敵意は感じられなかった。ほっといても良いだろう。


「……あと、三時間は着かないし、仮眠するか」

「ええ。そうですね」


 着いたら寝れない可能性もある。時間が取れるとこで仮眠しておいた方が良いだろう。


 フュリーナも、軍部に配属されたんだ。これから、忙しい毎日が続くだろうからね。


      **********


 やっと到着だ。とは言っても、まだ歩かないとだけど。


 都に着いたら、朝になっているって、転移魔法の方が良いでしょ。


「フュリ!」

「久しぶりね、リーグ」

「ベレンジェア様。フュリの面倒を見てくださり、ありがとうございます」

「僕も異動になって、一緒に来ただけだよ」

「ベレンジェア様もですか?また軍部に」

「残念ながら、双子宮」


 僕は、あそこに異動する前は、都の中央の宮の軍部所属だったんだ。


「そうですか。相手は子供ですから、厳し過ぎないでくださいよ。それでは、オレは仕事があるので」

「うん。頑張って」


 リーグは、脳筋だけど、子供好きで、優しくて、女性に人気が高いんだ。フュリーナも、男性人気が高い。


「それと、二人とも、側にいてくれる人を考えなよ」


 他の誰かではなく、二人が一緒になって欲しいから。だから、そう言ったけど、気づいてくれただろうか。


 っと、早いとこ双子宮へ向かわないと。


 えっと、双子宮は、魔の森を抜けたとこだったよね。


 都の外にある魔の森は、神獣でさえ危険と言う場所だ。だからと言って、何か準備をするとかはないんだけどね。


 普通に行けば良いよ。その辺の魔物は脅威ではないから。僕にとってはだけど。


 神獣の中でも、黄金蝶は、極めて高い能力を持っているんだ。僕は、黄金蝶ではないけど、それに近いから。近いと言うか、それよりもレア?


 黄金の鳥龍とか言われている。希少な種らしい。鳥ではなく、龍としての特徴を持つだとか。


 話は、魔の森に戻るけど、僕が軍部から異動する事になったのって魔の森が関係しているんだよね。

 軍部の訓練に魔の森を使っていたから。僕が直々に手合わせしないだけ、優しいって思ったんだけど。


 上に立つ者ってほんとに難しい。


 おっと、そろそろ魔の森を抜ける。なんでか、魔物が一匹も見当たらなかったけど。そんな事もあるか。


 双子宮。噂で聞いていたほど荒れ果ててない。ただ、門の奥が一面花畑なのは気になるけど。


「……」

「っんっしょ、っんっしょ」


 僕が来る事を知っていたのかな。頑張って門を……なんでよじ登ろうとしてんの?この子は。


「っんっしょ、っんっしょ」


 もしかして、門の開け方を知らない?


「ふきゃん」


 それはそうなるだろうね。門から落ちたよ。


「えっと、大丈夫?」

「……痛くないもん」


 驚いた。噂では、わがまま姫としか聞いてないから。まさか、こんなに可愛い子だったとは……待って、よく見たらこの子って


 えっと、何年くらいだろう。僕が、主宮にいた頃の話。

 主宮で、花が大好きな子がいたんだ。かなり手のかかる子でね。赤の姫っていう、魔法具の暴走に巻き込まれて、わんわん泣いていたのが、記憶に残っている。


 それに、僕は、階級が高いからか、女の人とかが言い寄ってきていたけど、一度も誘いに乗らなかった理由かな。


「……エレ、ここ、あそこにあるレバーで開閉するんだよ?」


 癒し魔法を、この子に使いながら教えてあげた。


「ふぇ」

「こんな事で泣かないでよ」


 この子は、エレは泣き虫なんだ。

 けど、おかしいな。ゼロがいれば、この子を見ているはずなのに。


「ゼロは?また喧嘩?」

「……貧血」

「……人工血液は?」

「もうなくなっちゃった」


 このくらいの門なら、魔法を使わずとも飛び越えられるか。

 魔法の私用利用は原則禁止なんだよ。だから、癒し魔法は秘密で。


「ふぇぇぇぇん」


 門を飛び越えると、エレは僕に抱きついた。一人で、ずっと心細かったんだろう。


 それにしても、まさか、双子姫が、この二人だったとは。


 それなら、わがままって噂はどこから?


「……エレ、他の使用人は?」

「……いないの」

「どうして?」

「……ごめんなさい」


 そう言って、エレは、宮の中に逃げた。


「……」


 門の開閉レバーが、錆びている。

 なるほど、なんとなく状況は理解できた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る