第6話 新アジト強奪

「突撃します。ついてきてください」


 俺の号令に合わせて、傭兵団というより山賊団の一味となった面々が、思い思いの武器を手に、山道を駆け上っていく。


 アニータの情報を元に、洞窟から徒歩二、三時間程度のところの山にある砦を奪った盗賊団への襲撃を実行中だった。


 洞窟のアジトは忌まわしい思い出が多いので、いたくはないという団員の申し出に従い、新たな拠点の確保が第一の目的である。


 交渉ではなく、力で奪おうとしているのがなんとも山賊っぽい。


 ちなみにアニータの話では、山を拠点としているのが山賊で、町に出て盗みを働いたり人をさらうのが盗賊らしい。うん、よくわからん。


 とにもかくにも、俺の無限ハンドガンで見張りを倒したあと、わらわらと出てきた増援連中もひたすら撃ちまくった。


 弾丸を装填する必要はないし、標的には赤いレーザーポイントが表示される。あとは引き金を引くと勝手に命中するので、まさにシューティングゲームだ。


 敵の数が減ってきたところで、俺を先頭に砦へ侵入する。抵抗はまばらで、俺の死角をつこうとする敵は、後ろを守るアニータが対処してくれる。


 気がつけば初代団長に祭り上げられ、副団長にはアニータと青髪少女のメルティが、やはりいつの間にか就任していた。


 盗賊の被害にあった女性は、俺の十歳下のアニータを覗けば、十九歳というメルティが年長者だった。


 そんな女性陣には、盗賊たちの財産をわけて町へ送ってもいいと言ったのだが、誰ひとりとして頷かなかった。


 傭兵団が壊滅して帰るところはなく、保証人になってくれそうな知り合いもいないので、町に入れたとしても家を借りるのも容易ではないみたいだった。


 そうなれば結局は宿屋暮らしで傭兵組合に仕事を貰うしかないが、少女ばかりの一味ではなにかと足もとを見られるし、仕事を振ってもらえない可能性もある。


 最終的にはかなりの確率で全員が娼館の扉を叩くはめになる。壊滅した傭兵団の団長の娘だったというメルティは、他の団員の思いをそう代弁した。


 だったら俺が犯罪はいやだと言っているのもあるし、しばらくは一緒にいようという結論になったみたいだった。


 この世界では山賊や盗賊に人権はないので、壊滅させて財産を奪っても褒められこそすれ、蔑まれたりなどはしない。


「ここの連中、結構、お宝を貯め込んでたね」


 砦内の掃除が終わり、アニータが食堂の椅子に片脚を乗せて座りながら、集めた紙幣を一枚ずつ数えていた。


 元盗賊連中は、手分けして離れた森へ放置してきた。そうすると動物なり魔物なりが綺麗にしてくれるらしい。


「そこそこの砦だし、行商人なんかもきてたかもしれません」


 メルティも紙幣の枚数に興味を示す。スラリとした体躯はモデルみたいで、背中に届きそうな長い髪の毛をかき上げる仕草が実に絵になる。


 地球でアイドルなんかしたら、あっという間に人気を得そうなくらいだ。


「盗賊の本拠地を、商人が訪ねてくるんですか?」


 気になってアニータに聞いてみると、彼女はチラリと目だけで俺を見て頷いた。


「まっとうな連中じゃないけどね。貧しい村で口減らしのために売られた女を連れてくることもある」


「主な顧客は貴族なんですけど、商人に足がつかないように、盗賊を仲介するんです。いざという時、切り捨てやすいですし」


 メルティがなんともヤバそうな裏情報を追加した。


 こちらでも地球同様に奴隷は禁止されている。ただし建前上のもので、今でも半ば黙認状態で取引が行われていた。


 表にだせないような趣味を持つ変態が、買い求めるパターンがほとんどだそうだ。ラブラブが大好物な俺には、やはり理解できない世界である。


「食料もかなり保管されてました」


 緑色の髪をしたテレサが、顔を輝かせてキッチンから戻ってきた。


 両手で持つかごには複数のパンが入れられており、彼女の手伝いをしていたと思われる他の団員は空の食器を持ってきた。


 どこかから奪ったものなのだろう。食器は銀製で、デザインはバラバラだが、一見してわかるくらいの高級感に包まれている。


 洞窟のアジトには食料が少なく、昨夜に皆でわけたらなくなってしまった。そのため、今朝はなにも食べていないのもあって、誰もが笑みを浮かべている。


「台所にスープの入った鍋がありますので、自分で取ってきてください」


 食事に安さを求めた社畜時代に、セリフサービスや自炊には慣れている。外見は元王妃でも、中身はただのおっさん。若い女性に逆らうはずもない。


 拠点制圧後、俺たちが掃除をする間に、テレサをリーダーとした生活班が三人残って料理をしてくれていた。


 時刻は正午を過ぎているので、朝食というより昼食だが、好きな席についた者から順番に食事をとっていく。


 俺はといえば上座的な位置に座らされ、右にアニータ。左にメルティという、なんともハーレムを感じさせるポジションを与えられた。


 洞窟のアジト近くで夜に軽く水浴びをしただけなのに、どういうことか両者からは女性特有のというべきか、なんともいいにおいがする。


 もしかしたら、俺からもしているのだろうか。アラフォーでも肉体は極上の美人なので、この人生では加齢臭に悩まされたりはしないだろう。


「メルティさんたちが、家事ができて助かりました」


 俺が言うと、メルティは照れたようにはにかんだ。


「傭兵団でも生活班でしたので。団の皆も、私の料理を美味しいって……」


 いかん。褒めたつもりが湿っぽくなってしまった。


 せっかく美味しそうなスープが湯気を上げているというのに、十人以上が座ってもなお席が余る食堂では、スープではなく鼻をすする音がメインになっている。


 どうにかしなければと思っても、元社畜の頭に浮かんでくるのはくだらない親父ギャグばかり。うっかり口にした日には、二度目の追放の憂き目にあいそうだ。


「いつまでもくよくよしてんじゃないよ。アタシらは姉御のおかげで命は助かったんだ。死んだ連中の分の幸せも、この世界から奪ってやろうじゃないか」


 アニータが元盗賊らしく励まし、仇のひとりのはずなのに、他の団員たちは慕うような目を向けている。


 どうやら同じ目にあったことで、完全にアニータを敵とは認識しなくなっていた。アニータが、傭兵団壊滅時には町に出ていたのもあるかもしれない。


 その時は頭目の命令で、食料や衣類の調達をしていたらしい。筋肉質な姉御ではあるものの、顔立ちは美人の部類に入る。普通の格好で町を歩けば、仲間内でもっとも盗賊たと疑われなかったがゆえの任務だという。


 しかし、いつの間にや俺の方が姉御呼ばわりされてるぞ。どうせ呼ぶならお姉様の方が……いや、ないな。俺はノーマルだ。


 食事を食べ終えると、テレサたち生活班があと片付けをしてくれた。


 アニータは見張りに立ち、メルティが他の団員に武器の整備を教えている。


 こうなると、調整いらずの無限ハンドガンがメインウェポンの俺は暇を持て余してしまう。


 なにか手伝おうかとうろつくも、団長はどっしり構えているのが仕事ですと追い返された。


 ベアトリーチェはこの体を好きに使っていいと言っていたし、やることがないなら自家発電でもしてやろうかなどと思うも、どうにも他人の体を自由にするのに罪悪感を覚え、最後の一歩を踏み出せない。


 仕方なしにベッドで横になる。


 新しい体を得て以降、寝たのは地下室の床と、洞窟のアジトで寝るのはいやだという他の面々に従い、野宿をした雑草の上だけだ。


 疲労がずいぶん溜まっていたらしく、俺は瞬く間に眠りに落ちていた。


     ※


「姉御! 大変だ、起きてくれ!」


 強烈に揺さぶられて目を覚ますと、アニータが顔にびっしり汗を浮かべて焦りまくっていた。


「なにかあったんですか?」


「討伐隊だ! それも騎士だ!」


 まだ眠いと訴えていた脳が、その言葉で一気に覚醒した。


「どういうことです? リュードンでは騎士の派遣は滅多に行われないはず」


 だからこそ、メルティの父親が団長の傭兵団が駆り出され、力が及ばずに壊滅させられた。


 傭兵団が戻ってこないので結果は予測できていただろうに、リュードンは最後まで救援部隊を派遣しなかった。


「迂闊だった! このあたりはリュードンじゃなくて、ガーディッシュ領になるんだよ!」


「許可なく越境したということですか? ですが国境もなかったのに……」


「この砦が、もともとは国境を守るために造られたものらしいんだ」


「ガーディシュはそんな重要拠点を、盗賊に奪われていたんですか?」


「だからこそ、取り戻すための騎士団派遣だ。ガーディッシュでも仕事をしたことがあるらしいメルティが、連中の掲げる旗を見て間違いないと言った!」


「では、のんびりしている暇はありませんね」


 俺を含めて、十人程度の山賊団にどうにかできる相手ではない

 団員も同じ意見だったようで、メルティの指揮のもと逃げ支度が行われている。


 俺が食堂に顔を出すと、そのメルティが駆け寄ってきた。


「砦を包囲するような形で、ガーディッシュ軍が山を登ってきています。その数は目視でも万を超えているかと思います!」


 早口での報告は余裕のない証。俺も一緒になってパニクりたいが、目の前であわあわされると、何故かこちらは冷静になるのが不思議だった。


「それだけの数がいるとなると、逃げるのは難しそうですね」


 無限ハンドガンの調子を確認し、俺は数秒悩んだあとで決断する。


「私が攻撃を仕掛けて敵をひきつけます。皆さんはその間に逃げてください」


「結成したばかりの団だからって、団長を見捨てられるか!」


 アニータの叫びに、俺以外の全員が賛同する。


 嬉しさでジーンとしたものがこみ上げてくるものの、だからこそつらい思いをしてきた皆には生きてほしかった。


「皆は若いし、なにより私は元王妃だから捕まっても殺されないかもしれない。だから、私が陽動役を務めるのが一番なんです」


 時間がないのを理由に団員を無理やり納得させ、俺は無限ハンドガンを両手で構えて外へ飛び出した。

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おっさんアラフォー王妃になる 桐条 京介 @narusawa

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