1章

第1話

「お前に会った時、お前はだいぶ弱っててさ。背中押したらすぐ死んじまいそうだった。」



「そんなに弱ってなかったよ…。」



「弱ってたよ、十分。お前がそれを認めようとしてなかっただけ。」



後ろから私を抱きしめて、耳元で囁くように話す湊。



この甘い響きを孕んだ低い声が、私はたまらなく好きだ。



「認めようとしてなかっただけ…か。」



「認めちまったら…もうそこで終わりだろ。自分が死ぬ寸前まで弱ってるなんて自覚したら自殺の道まっしぐらだ。」



「…うん。」



「だから、あの時のお前の判断は正しかったんだよ。」



そう言って、私の手首をそっと撫でる。



そこにある傷跡は、何重にもなっていてもう消えることは無いだろうけど。



湊はその傷を愛おしそうに見つめるから、ただの嫌な傷跡にならずに済んでいる。



「…ねぇ、湊。」



「ん?」



「私はこんなに弱いのに…一緒に居てくれるのはなんで?」



「簡単さ。」



掠れた声で呟くと、私の顎にそっと手を添えた湊。



湊の目をちら、と見るとその綺麗な瞳に困惑した私が映っていた。



「お前を誰よりも愛しているから。」

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