奇妙な石ころ



レイと精霊リヴィアは、契約を結んだばかりの余韻に浸りつつ、村へと続く小道を歩いていた。静かな森を抜け、日差しの降り注ぐ道端に差し掛かったその時、不意にレイの足が何か硬いものに引っかかった。



「痛っ…」



つま先をさすりながら顔を上げると、そこには道ばたに転がる小さな石ころがあった。普通の灰色の石とは違い、うっすらと淡い青い光を放っている。



「なんだこの石…ただの石じゃなさそうだな。」



レイが不思議そうに石を拾い上げると、隣にいるリヴィアがふわりと浮かび上がり、その石を興味深そうに見つめた。



「レイ、それは…ただの石じゃないわね。かなり古い精霊の残留物かも。」




「精霊の残留物…?」




リヴィアは微笑みを浮かべ、説明を始めた。「精霊の中でも、古い時代に存在していたものは、体を残して消えることがあるの。長い年月の間に力が封じ込められた結果、こうして石の姿に変わることがあるのよ。」


「なるほど、じゃあ、これも精霊の一部だったってことか…。」


レイが石を眺めていると、その石が微かに脈打つように光り始めた。次の瞬間、足元から小さな地震が起こり、地面にひびが走り始める。




「え、何だこれ!?ただの石だと思ってたのに!」


リヴィアが冷静に言葉を続ける。「どうやら、この石に残された力が周囲に影響を及ぼし始めたみたい。あなたの『釣りスキル』でこの力を鎮められるか試してみて。」


「え、俺の釣りスキルで?」


レイは戸惑いながらも、石に向かって意識を集中させた。すると、彼の体から波紋のような力が石に伝わり、石が再び静かに輝き始めた。



「よし…うまくいったか?」


その瞬間、石の中から小さな精霊が現れ、驚いたような表情でレイを見上げた。


「君は…僕を目覚めさせてくれたの?」


レイは目を丸くしながら頷き、石の中の精霊が古代の存在であることを実感する。小さな精霊は感謝の意を込めてレイに微笑み、言葉を続けた。



「君の力がなければ、僕はずっと封印されたままだったよ。ありがとう、レイ。」


こうして、レイは偶然にも精霊の石を目覚めさせ、もうひとつの出会いを果たした。



* * *



レイの目の前で小さな光がふわりと漂い、石から解き放たれた妖精が現れた。青白く輝くその姿は、透き通るような羽根を持ち、優しげで知的な雰囲気を漂わせていた。


「助けてくれて、ありがとう。僕の名は『フィン』──かつては『水の加護を授ける妖精』と呼ばれていたんだ。」


レイは驚きながらも興味津々で問いかけた。「フィン…それで、どうしてそんな力を持ってる君が、石なんかに封印されていたんだ?」



フィンは少し切なそうな表情を浮かべ、語り始めた。


「…遥か昔、僕は人間たちに助力を与え、水の加護を授けていたんだ。村の井戸に宿り、雨を降らせて作物を潤す力を貸していたよ。だけど、あるとき、一部の人間たちが僕の力を過信して、無理な願いを押し付けるようになったんだ。」


フィンは小さなため息をつき、遠くを見つめるような眼差しで続けた。



「彼らは干ばつの原因をすべて僕に押しつけた。そして、僕に対する感謝の心を失い、ついには僕を『呪われた妖精』だと決めつけてしまったんだ。その結果…石に封印されることになったんだよ。」


レイはその話に胸が痛み、フィンに申し訳なさそうな顔を向けた。「そんな…君はただ彼らを助けていただけなのに…」


フィンはふわりと笑みを浮かべた。「君が助けてくれたおかげで、こうして再び自由になれた。それだけで十分嬉しいよ。」



その言葉に心を打たれたレイは、フィンに向かって強く頷いた。


「だったら、フィン。俺と契約してくれないか?…俺もまだ自分の力に自信はないけど、君の力を無駄にしたりしない。大切に守るから。」


フィンは目を丸くし、そして嬉しそうに微笑んだ。



「君のような人となら、僕もまた力を貸したいと思う。レイ、君と僕はこれから『仲間』だ。」


そう言うと、フィンは青白い光を放ちながらレイの手に触れ、契約の証がふたりの間に刻まれた。その瞬間、レイの中に新たな力が湧き上がり、フィンとの絆が確かなものとなった。


「ありがとう、フィン。これからよろしくな!」



こうして、石に封印されていた妖精フィンは、レイと共に歩むことを決意した。封印から解き放たれた彼は、新たな仲間としてレイの力になる日々が始まるのだった。

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