第12話「これが俺の受けるべき痛みか」
それからまた、次の休日がやってきた。
この日はステラの母が主催する茶会が行われた。中庭を解放し、親しい人たちに声を掛けて母自慢の紅茶やお菓子を振舞った。
ノックスの衝撃告白から数日寝込んでいた母だったが、すっかり体調も良くなった。毎朝ノックスが持ってくる花を楽しみに待っていたので、訪れなくなったときはステラ以上に寂しそうにしていたが、仲の良い人たちとお茶をしながら楽しそうにしている様子を見れて、ステラはホッとしていた。
「ステラ、楽しんでる?」
「うん。お母様の作ったクッキーも美味しいよ」
「あら、良かった。今回は色んな種類作ったから、沢山食べてね。お茶のお替りはいる?」
「俺は大丈夫だから。ほら、向こうで呼んでるよ」
端の方で静かに佇んでいるステラを心配していた母だったが、客人を相手しなければいけない。後ろ髪をひかれながら皆の方へと戻っていった。
今日は母も気合を入れてステラを着飾った。有名デザイナーの新作ドレスに、百合を模った銀細工の髪飾りを使って髪を結ってくれた。おかげで来る人来る人がステラに目を奪われている。
女装をするようになってから、息子を可愛くすることも母の趣味の一つだ。皆がステラを褒めるたびに、母の気分も良くなって、ステラ自身の自己肯定感もぐんぐんと上がっていく。
「……ごきげんよう」
背後から幼さのある女性の声がして、ステラは振り返る。
そこにいたのは、日傘を持って微笑んでいるミゼットだった。まるで喪服のような真っ黒のドレスに、ステラは背筋がぞくっと震えた。
「あ、ああ……いらしてたんですね。えっと、初めまして」
「ええ。ずっとお会いしたいと思っていたんです」
「そう、ですか。その、俺も会って話したいとは思っていたんです……」
「ええ、ええ、そうですよね。それにしても、本当にお美しい方なのね。こうして近くで見ても、男性だなんて思えないくらい綺麗だわ」
「え? あー、どうもありがとうございます?」
ずっと貼り付けたような笑顔を浮かべているミゼットに、ステラは少し怖くなった。
彼女は何のためにここにいるんだろうか。まず、この茶会に招待されていないのではないか。かといってここで騒ぎにもしたくない。ステラは事を荒立たせないように頭の中で必死に言葉を選んでから話す。
「あー、良かったらお茶、どうですか? うちの母が作ったお菓子も……」
「良いわね。こんなに華やかで、素敵なお茶会……こんな、こんな……人の気も知らないで!!」
そう言って、ミゼットは隠し持っていたナイフをステラに振りかざした。
至近距離。二人の周りに人はいない。ミゼットの叫ぶ声に気付いて慌てて駆け付ける執事やメイド。悲鳴を上げる客人たち。
誰も間に合わない。ステラはこのナイフを避けることも、彼女の手から叩き落とすことも出来た。だけど、しなかった。
これは、彼女を苦しめた自分への罰だ。もっと早くノックスを説得して自分を諦めるようにしていれば、何か変わったかもしれない。
ステラは目を閉じて、彼女の痛みを受け入れる覚悟をした。
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