【BL】男ですが乙女ゲームの世界に転生したら美少年になっていたので女装していたら王子様に求婚されました。

のがみさんちのはろさん

第1話「これが婚約破棄か」



 色とりどり、春の暖かな陽気の中で様々な種類の花が咲く王宮の中庭。

 茶会に呼ばれた貴族たちが集まる中、低くもよく響く声で、その言葉は告げられた。


「ミゼット、君に婚約破棄を言い渡す」

「ノックス王子……な、なんで……ここに……」

「もう言い逃れはできないぞ。まさかお前がこんなことをするなんて……」


 目の前で繰り広げられる光景に、王子に肩を抱かれている金色の髪をした美しい人物、ステラは当事者でありながら感動していた。


「わ、私は……」

「この一件だけでない。これまでの行いも調べはついている。こんな真似をされては、俺もお前を庇うことはできない」

「……だ、だっておかしいじゃありませんか! 私は幼い頃からずっと王子の婚約者としてその役目を全うしてきたというのに、ポッと出てきた奴に奪い取られるなんて信じられません!」


 ステラには似たような光景に見覚えがあった。何度も何度も繰り返し、似たようなシチュエーションを見てきた。

 まさか自分がこの場に立つ日が来るとは夢にも思わなかった。自分のことなのに、ステラはどこか他人事のような感覚で彼らの話を聞いている。


「それに関しては済まないと思っている。いくら謝っても足りないだろう。だが、何度も話したではないか。俺は君に特別な感情を抱けなかった。ただ親から与えられた役割に従ったまでだった。しかし、俺は見つけてしまったんだ。本当の愛を、ステラを」

「嫌です……そんなの嫌です! なぜ、なぜなんですか……!? よりにもよって、なんで……なんで男なんですか!?」


 ミゼットはステラを指差して、声を大にしてそう言った。

 そう。白の美しいドレスを身にまとった、どこからどう見ても美少女であるその人は、紛うことなき男性なのである。


「女性であればまだしも、なんで男なのですか!? 私は婚約者として何も恥ずことのないようにしてきました! この16年間、そのためだけに生きてきたのよ!? それが男に奪われるなんて……こんな辱め、あんまりだわ!」

「だからと言って、ステラに嫌がらせをしていい理由にはならない。いや、嫌がらせなんて生易しいものでない。お前がしたことは殺人未遂だ! それ以前にも暗殺を企てていたり……そんなことをしなければ、もっと穏便に済ませることも出来たのに……」

「何をどうしたら穏便にいくというの!? どう足掻いても私は男に婚約者の座を奪われただけの哀れな女よ! 私の人生を台無しにしておいて、タダで済むはずがないじゃない!」

「だから何度も話し合いをしていたではないか! 最後はお前も納得して受け入れると言ったのに、なんで嘘を吐いた!」

「だって聞けるわけがないでしょう!? 男と婚約したいから私と別れたいだなんて、そんなおかしな話がありますか!? だから私は、コイツを殺して自分も死のうとしたのよ!」


 泣きわめくミゼットに、ステラは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 どう考えてもこの状況はおかしい。


(そうだよねぇ、そうなるよねぇ。俺だって今でも不思議で仕方ないのに……)


 ステラは何故こんなことになったのか、今までのことを思い返す。

 思い出を遡ること、18年前。自分がこの世界に生まれたときのことだ。



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