第2話 消えた死体
「すいませんが、沈黙してないで事件の内容をお話し下さい」
頭を抱えている僕に事件の概要を早く話すように彼女が言った。
「私の名前は佐藤楽希(らき)と言います。徳島に住んでいる18歳の高校生です。楽希という名前は母が人生に楽しく希望を持てるようにと名付けてくれました」
「あなたの名前の由来なんてどうでもいいので、早く事件の事を教えて下さい」
「すいませんでした。お話致します」
事件にしか興味がないようだ。変わった名前なので、みんな興味を持ってくれるのに・・・。
◇◇◇ 事件の概要 ◇◇◇
ことの発端は連絡のつかない兄を心配した母の言葉でした。
「健人と連絡がつかないの」
健人は僕の10歳上の兄の事です。お世辞にも賢いとは言えない高校に通っている僕と違い頭も良く一流の企業に勤めていました。
僕は日本人の男性の平均身長171.5cmに対し、兄は180cmを超える大柄な男性でした。髪は僕が目にかかるほど長めなのに対し、兄は短髪です。顔はどちらも丸顔で、イケメンからは程遠い顔をしています。もちろん2人とも女性とは付き合ったことがありません。
「忙しいから出ないだけじゃない」
僕と違い優秀な兄に何かトラブルがあるとは思いませんでした。
「でも気になるから、一緒に兄の家まで行ってくれる」
僕も母も徳島から出たことがないので、母は1人で大阪に行くのは怖いのだろうと思いました。父は母子家庭なのでいません。
「わかった」
忙しくて連絡が取れないだけだろう。大阪の家に行けば普通にいるだろうと思って、母と一緒に大阪にある兄の家まで行きました。
すると部屋にカギはしていなく、入るとテーブルの上に遺書が置いていました。
遺書にはこう書かれていました。
『会社の金を使ってしまった。もう生きていけない。車や電車にはねられたりしたら痛いし他人に迷惑が掛かるので、青木ヶ原樹海で首を吊って死にます。家族のみんな今までありがとう』
遺書を見た母は混乱し言動もめちゃくちゃでした。
僕はすぐに警察に連絡しました。
警察には遺書で兄が青木ヶ原樹海で首を吊って死にそうなことなどを伝えました。
会社のお金を使った事は、兄がそんなことしないと思っていたので伝えませんでした。
その間に兄の会社に連絡をしましたが、兄が数日前から有給を使って会社に来ていませんでした。
会社からはお金の事は言われなかったので、兄はそんなことしていないと思いました。
警察の方々が来ました。そこで遺書も見られました。兄が生きていても警察に捕まるんじゃないかと思い少し震えました。
母はもし本当にそういう事をしていたなら、ちゃんと生きて罪を償ってほしいと言っていました。
僕らは近くの警察署で事情を話し捜索願を書きました。
警察署で長い時間待っていると女性の警察官の人に兄が青木ヶ原樹海に1人で入るのを目撃した人がいると連絡がありました。また近くのの駐車場や観光施設に監視カメラにも1人でいる兄が映っていると教えてもらいました。
僕と母は急いで青木ヶ原樹海に向かいました。
着くとそこにはたくさんの警察の方々が来て兄を捜索してくれてました。
僕と母も必死に捜索しましたが、兄を見つけることが出来ませんでした。
捜索も打ち切りになり途方に暮れている僕に刑事さんが、あなたなら見つけられると教えてもらいました。
以上が事件の概要になります。
◇◇◇ 佐藤楽希の供述 ◇◇◇
「実に興味がそそるわね」
彼女は恍惚とした表情を浮かべていった。
その表情は美しくもあり恐ろしくもあった。
「まず依頼内容ですが、自殺したお兄さんの遺体を探して欲しいということですか?」
「はい。生きていても探して欲しいです」
「聞く限り生きている可能性は低そうですけど・・・。では依頼内容はお兄さんの捜索で大丈夫ですか?」
彼女は言いにくそうに言った。
「はい。その依頼内容でお願い致します。ちなみに何故死んでいると思ったんですか?」
「青木ヶ原樹海って散歩に行く人もいますけど、自殺する人も行きます。その人がもし青木ヶ原樹海で死んでいても自殺と思いますよね」
たしかに兄がもし死体で見つかれば、自殺したと思うだろう。
「人を殺したい人にとって青木ヶ原樹海は、警察に捕まらずに人を殺せる楽園なんです。実際に青木ヶ原樹海では毎年どう考えても自殺じゃない遺体が何体も見つかります。もしそんなところに1人で行けば・・・わかりますよね」
僕はその言葉に血の気が引いた。僕は兄を探しに青木ヶ原樹海に1人で行こうと思っていたからだ。
「1人では行かない事ですね」
「はい」
僕は一呼吸すると彼女はまた質問を始めた。
「手紙はお兄さんの筆跡で間違いないですか?」
「はい。間違いありません。兄の筆跡でした」
「お兄さんを殺す人に心当たりはありませんか?」
「ないです。怨まれる人ではありませんでした」
「監視カメラの映像もお兄さんで間違いないですか?」
「はい。間違いありません」
質問をしている彼女は少し興奮した声であった。
「お兄さんは本当に会社のお金を使ってましたか?」
「はい。後から刑事さんが調べたところお金を使っていました」
「あなたはその事についてどう思いましたか?」
「わかりません。兄の上司の人にはめられたとか・・・。証拠はないですが」
僕としては兄がそんな事をするとは思えなかった。
「あなたから見てお兄さんはどんな人でしたか?」
「やさしく弱音は吐かない。真面目な兄です」
彼女は少し考えた後ににっこり笑った。
「わかりました。この依頼、女子高生探偵のんが引き受けましょう」
「ありがとうございます」
僕がお礼を述べると彼女は契約書とペンを僕の前に置いた。
「じゃあこれにサインして・・・」
彼女は後ろに立ち僕の耳元でいった。
高校生徒は思えない色気のある声だった。
彼女の声とにおいに頭がくらっとなった僕は、言わられるままにサインした。
それが地獄の契約とは知らずに・・・。
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