魔王城3枚扉の冒険者ぶっ殺しパズル

ちびまるフォイ

賢い魔王の手抜かり

世界最大の魔術を極めた魔王だったが

その打たれ弱さには定評があった。


村人のパンチ一発。

SNSでのちょっとした悪口。


それだけで命を失うほどに打たれ弱かった。

にも関わらず、魔王のもとへ向かってくる冒険者の情報を聞きつけた。


「魔王様、冒険者が迫ってきています」


「ムリムリ! エンカウントしたら勝てない!

 人見知りだから人前で呪文詠唱とかできないし!」


「狙撃できないんですか?」


「見つかったら終わりじゃん!」


引きこもり生活に肩まで浸かりきっていた魔王は、

ラスボスの貫禄で立ちふさがることなどできなかった。


そこで考えたのはトラップで退ける作戦だった。

魔王は自分の魔力を注いで3つの致命の扉を用意した。


そこを開けると必ず命を1つ失う魔術を施した。


「ふっふっふ。これなら完璧だ。

 どんな屈強な冒険者であっても例外なく死ぬ。

 それも3枚。無敵だな」


「さすが魔王様!」


「これで顔合わせることもないぞ」


「ところで魔王様。冒険者の追加情報がございます」


「話してみよ」


「冒険者は3名です」


「……」


「……」


「え、3枚しか扉用意できてないけど大丈夫……だよね?

 それぞれにちゃんと鍵かけてるし」


「うち1人は盗賊で、どんな扉の鍵も開けてしまいます」


「……」

「……」


「ま、まあ! ほら致命の扉は3枚あるから!

 3人パーティなら3枚開けたら、全滅するっしょ!」


「パーティの1人は僧侶で、1回だけ蘇生できます。

 なので、全滅はしないかと……」


「……」

「……」


「し、しかし! この魔王城には強いモンスターがいる!

 盗賊と僧侶なんか相手にならないぞ!」


「パーティのうち1人は戦士です。

 どんなモンスターも必ず倒してしまいます」


「いや無理じゃん!! こっち来ちゃうじゃん!!」


「そのうえ僧侶は致命の魔術に対して耐性があり、

 1回の魔術だけでは死にません。2回でやっと死にます」


「絶望に追い打ちかけないでよぉ!!」


「どうしましょう魔王様」

「それはこっちのセリフだよ!!」


すでに冒険者パーティは魔王城へと迫っていた。

今さら扉の増設や強化はできない。


できるのはせいぜい致命の扉で誰を殺すか指定できるだけだ。


「ちょっと整理させてもらっていい?」


「ええ」



「盗賊は扉を開けられる。

 もし盗賊がいなくなったら、扉を開けられないんだよね?」


「そうです。それ以上の進軍はできないでしょう」


「戦士はモンスターを倒せる。

 戦士がいなかったら、扉を開けた後、次の扉にはたどり着かない?」


「そうです。盗賊と僧侶だけじゃ道中のモンスターに殺されます」


「僧侶は仲間を1回だけ蘇らせられる。

 しかも致命の扉で2回指名しなくちゃ殺せない?」


「そうです。厄介ですね」



パーティメンバーを3回指定して、どの順番で殺せばいいのか。

もし最後の3枚目の扉を開けられたら終わり。


先に盗賊を殺して扉を開けさせないようにするか。

でも殺しても僧侶が蘇生させてくる。


戦士を殺して、扉までたどり着けないようにするか。

しかし同じように僧侶が蘇生させてくる。


ならいっそ、扉を2枚消費して僧侶を殺すか。


「魔王様! 大変です!」


「なんだ。いまめっちゃ頭使ってるのに!」


「盗賊のやつ、こちらの扉を解析しやがりました!

 真だとしてもマスターキーを1個作ってしまえそうです」


「はぁ!?」


「盗賊を殺しても、扉1枚だけなら盗賊ぬきでも突破できちゃいます」


「ハイスペックかよちくしょう!!」


ますます魔王は頭を抱えた。

誰からどの順番で殺せばいい。

順番を間違えば冒険者と鉢合わせする。


扉は3枚しか無いってのに。



盗賊は扉をあける。死んでも鍵が1個作る。

戦士は扉まで守ってくれる。

僧侶は仲間を蘇生する。1回では死なない。



誰をどの順番で殺すべきかーー。


「……よし、わかったぞ!!」


魔王は必死に考えて致命の扉に命令を与えた。

どの扉で誰を殺すか指定するものだった。



そんなことも知らない冒険者は致命の扉に手をかけた。

盗賊が扉の鍵を開けると、致命の扉の魔術が発動した。


最初に命を失ったのは盗賊だった。


しかし僧侶が盗賊を蘇生させてしまった。


「ちょっと魔王様!! なんで僧侶狙わないんですか!

 あいつ生かしていたら終わりですよ!?」


「まあまあ」


冒険者たちは歩みを進める。


戦士が扉までの魔物をしりぞけて、

2枚目の扉へと差し掛かった。


冒険者たちは2枚目の扉の時点でフルメンバー。


扉に手をかけると魔術がふたたび降りかかる。



狙われたのは戦士だった。




戦士が命を落とす。


2枚目の扉を開けて、残すはあと1枚。


しかし、道中の魔物が襲いかかってきた。


戦闘に向いてない盗賊では魔物を倒せるわけもなく。

僧侶も蘇生できないので、パーティは3枚目に到達することなく全滅した。


その様子を眷属とともに魔王は見ていた。


「さ、さすが魔王様!」


「はっはっは。作戦勝ちだな」


「なぜ僧侶を殺さなかったんです?」


「1回目に僧侶、2回目も僧侶で殺したとする。

 そうなると、盗賊・戦士で3枚目に到達して開けられちゃうだろう」


「ああたしかに。では盗賊を狙えば?」


「1回目に盗賊、2回目に盗賊(蘇生後)だとする。


 しかし、盗賊は鍵を託せてしまうだろう?

 戦士・僧侶だけでも託された鍵で3枚目の扉を開けてしまえるんだ」


「なるほど……!」


「だから戦士を2枚目の扉で始末する必要があったんだ」


「感服いたしました! 魔王様!!

 なんて狡猾! なんて冷酷! なんて賢いんでしょう!!」


「当然だ!! われは魔王ぞ!!

 叡智万能を誇る最強の魔物である!!

 さあ、魔王のお披露目だ! 祝賀パーティと行こうじゃないか!!」


魔王は冒険者を退けた達成感にひたり、

最後の扉を華々しく開け放った。





「ま、魔王様ーー!!!」



致命の扉が自分にも有効だとも知らずに。

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