【狂気ミステリーBL】6話【あらすじ動画あり】
◆お忙しい方のための冒頭動画はこちら↓
https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ
車椅子が、〇六号室の前を通り過ぎた。中で〝さかさま〟が、壁に向かって大声でペチャクチャと話しかけていた。
「あっちは……?」
向かいの部屋を指さすと、〝笑い犬〟が苦々しげな声を出した。
「あそこは、〇二号室。〝王様〟の部屋です」
「〝王様〟って……さっき叫んでいた?」
「えぇ。ちなみに〝王様〟と呼び始めたのは、〝さかさま〟なんです。彼は〝王様〟のことを慕っていますからね。曰く、〝王様〟こそ、この閉鎖病棟の王、つまり狂人の王だとね」
「狂人の王……?」
「はい。〝王様〟は、この閉鎖病棟の中で一番深刻な重病患者なのです。彼は多くの精神病を抱えている。中でも最もやっかいなのは、あの癇性と凶暴性です。〝王様〟は、ほんの些細なことがきっかけで暴れだし、意味不明なことを叫んでは、手辺り次第物を壊す。スタッフに手を上げたこともあります。彼が一度そうゆう状態になってしまうと、もう止めようがありません。疲れ果てるまで、ただ狂ったように暴れ続ける。〝さかさま〟に意図はないかもしれませんが、〝王様〟とは、よくつけたものです。王に獣がとりつけば、狂となりますから」
〝笑い犬〟は、固い表情で念を押す。
「いいですか? 〝王様〟は、大変危険です。絶対に、彼には近づかないで下さい。もし、そのような状況になってしまったら、すぐに呼んで下さい。私が、貴方を守ります」
※
初夏の風にのって、甘やかな薫香が舞う。
一通り病院内を見て回った私は、最後に庭に出てみることにした。
玄関を一歩出て、驚く。ロータリーの向こうには、見渡す限りのバラ園が広がっていた。
「この病院では、患者の心を癒すという目的で、千株以上のバラが植えられているんです」
〝笑い犬〟が、花の間をぬって車椅子を押す。
赤、白、黄、ピンク、絞り、限りなく青に近いラベンダー色。バラ園には、様々な色と形のバラが午前の光を受けて、今を盛りにとばかりに咲いていた。
まるで夢のような光景だった。ただし、バラ園の向こうに見える厳重な門や有棘鉄線がなければの話だが。
「どうです、見事でしょう? 病院(ここ)は、このバラ園があるために『外』でも有名なんですよ」
〝笑い犬〟の口調は、どこか他人事だった。
「確かに、キレイだね」
私は頷く。だが、内心は違っていた。どれだけ多くの花を見ようと、何も思うことはない。私の心は美しいとも、懐かしいとも感じることがなかった。
考えてみれば、おかしな話だ。ここに来るまで、病院内は一通り廻ってみた。が、何一つピンとくる場所はなかった。
私はこう思わずには、いられない。
——本当に、自分は、ここに住んでいたのか……?
「あら」
その時、ガサリと音がしたかと思うと、バラの茂みの中から一人の少女が現れた。長い黒髪に、黒い瞳。セーラー服がバラの新芽のようなしなやかな体を包んでいた。
「こんにちは、〝笑い犬〟さん。〝人形〟さん」
こちらに気がついた少女が、茂みをかき分けやってくる。棘のことなど一切気にしていない大胆な足取りだ。案の定、彼女の剥き出しの手足には、いくつもの傷ができる。だが本人は気にする様子もなく、にこやかに近づいてくる。
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