第3話 海の神にして合法ロリ枠にしてロリババア


「おつかれー」

「ほら、早く釣り行こうぜ」

「今日はめっちゃデカいの釣れる気するわ」

 

 そんなやりとりを聞きながら丈一も帰路に着こうとしたところを詩歌に捕まってしまう。

 

「待ちなって」

「な、何だよ」

「せっかくだし一緒に帰ろうよ」

「何がせっかくなんだよ」

 

 丈一は振り返って「まあ……別に良いけど、新しい友達が出来るまでの間だけだからな」と髪をガシガシと掻きながら答える。

 

「それで良いよ」

「じゃあ、そんなに長くないな。もしかしたら明日には終わるかもだし」

「そんなに!?」

「大丈夫だろ、姫崎なら」

 

 見てくれは悪くない。

 きっとクラスメイトも放っておかないだろうから。男子も、女子もきっとそれぞれの理由で。

 

「さっさと友達作れよ」

「丈一くんも友達だけどね?」

「……俺以外の、だよ。文脈で分かれよ」

 

 歩き出そうとして、丈一はふと気になった事を尋ねる。

 

「なあ、姫崎」

「ん?」

「お前、家どこだよ」

「え? 思ったより積極的なの、丈一くん?」

「そういうことじゃないんだよ。一緒に帰ろうとか言っといて、別方向だったらどうすんだよ」

「良いじゃん良いじゃん。その時はちゃんと言うから」

 

 背中を押されて彼は仕方なく歩き始める。中学校の頃までとは少し違う道。だからといって目新しいものはない。

 

「あ、ここのお刺身美味しかったんだよね」

「たしかに、ここの美味しいよな」

 

 道中、詩歌は立ち並ぶ店の感想を挙げていく。校舎から歩くこと十分。家まで半分ほどの距離まで来ていた。

 

「あれ?」

 

 二百メートル先に丈一の見知った顔が立っている。何をしにここまで来たのか。

 

「浬?」

「え、なになに? 知り合い?」

 

 浬の方も丈一たちを見つけたらしい。

 笑顔を浮かべて駆け足で近づいてくる。

 

「おーい、丈一ー!」

 

 隣に立っている詩歌は「すっご可愛い」と何やら悶えているが、丈一は特に何も言わず触れないことにした。

 そんな事よりも、だ。

 

「おまっ、何でここに!」

「迎えに来てやったのだ。感謝してほしいくらいものだが……必要なかったか」

 

 彼女は見慣れない少女を見て、思案顔をして呟く。

 入学式を終えてすぐにつがい候補を連れてくるとは神をしても見抜けなかったのだ。

 

「攻略早すぎんか?」

「お前の頭の残念さはどうなってんだ」

「まるでギャルゲーみたいだ」

「一旦ゲーム禁止にした方が良くないか!?」

 

 何よりも、突然に番候補だのと呼んでしまっては失礼が過ぎる。

 

「あー……悪かったな、姫崎。コイツは穂波浬。頭がゲームで支配されてる残念なヤツなんだ」

 

 丈一は浬の隣に立って紹介すれば、ムッとした顔をされてしまう。

 

「こっちは姫崎詩歌。島外から来たんだと」

 

 浬は詩歌と顔を向き合わせる。

 

「浬……ちゃん?」

「ちゃんは止さんか。私はお前より年上だぞ」

「え……?」

 

 浬の見た目年齢は丈一が初めて見た時から変化していない。

 だと言うのに彼の両親は『成長期が止まったんだろう』と全く気にも止めていなかった。

 

「浬さんと呼べ」

「え? え? 本当に言ってるの? ねえ、丈一くん」

「……まあ、事実だよ」

 

 実際、伊南島の島民に浬よりも歳上はいない。何せ神様だ。

 

「合法ロリ枠……?」

 

 いや、合法ロリであるかもしれないが、実際はロリババアでもあるのだ。

 などと、丈一は脳内で訂正しておく。

 

「おい。果てしなく失礼な言い方をするな、小娘。まあ、だが……お前、話が分かるようだな」

 

 浬にとって合法ロリという呼び方は気に入らなかった。

 だが、その語彙はゲームやアニメなどサブカルチャーにどハマりしている神の興味を惹く。

 

「そうだ、漫画の最新刊を買ったのだ。興味はないか?」

「ちなみにどんな漫画ですか?」

「『神婚しんこん夫婦ふうふ』という漫画でな……」

 

 漫画談義で盛り上がってるなか「なあ帰ろうぜ」と止まっていた足を動かす事を求めれば、三人は歩き出す。

 

「全巻読んでも良いぞ!」

「おい、何で家まで連れて来てんだ」

 

 そしてなぜか、穂波家に詩歌が居るという事態になっていた。




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