第12話 早すぎる再会


 ドーモ、ジャパニーズニンジャです。

 気を取り直して今日も元気にダンジョンを探索していこうと思います。


 カレンさんについては結局、水瀬さんの姉だという情報しか得られなかった。


 だけどなぜか、また会いそうな気する。

 もし会えたなら、そのときにちゃんと誤解を解かないとな。

 

 今日は引き続き、第七階層の探索をしていく。ナイフがないから素手だけど、探索を辞めるわけにはいかない。ダンジョンを放置しすぎるのは危険だからな。

 

 国も探索者を優遇して、定期的にダンジョンに潜ってもらうように促しているくらいだ。


 魔力結晶の換金システムもその一部で、ほかにも、国から依頼を受けてダンジョンを探索すると報酬が貰えたり、探索者の資格を持っているだけでいろんなお店で優遇されたり、公共交通機関がタダで利用できたりと、至れり尽くせり。


 だけどこれだけの政策をして、やっと探索者になろうという人間が増え始めたらしい。

 まぁ、探索者は常に危険と隣り合わせだからな。仕方ないことだろう。


 俺が神々の庭園を定期的に探索しているのも、国からの依頼だ。


 いや……正確には、ここの探索は俺のから引き継いだ依頼。


 そういえば最近、師匠にあってないな。

 今どこにいるんだろう。数ヶ月前、アメリカにいると聞いてから音沙汰がない。まぁ、あの師匠のことだし上手いことやってるんだろうけど。


「はい終わり、っと」


 そんなこんなで、この階層から現れるようになった死神型モンスターをばっさばっさと倒していく。

 

 こいつらの攻撃は大したことがない。こっちから攻めにくいだけで、脅威はほとんどない。


 さすがに百体くらい同時に来られたらマズイだろうが、そんなことにならないようしっかりと気配を探るのも怠らない。


 そういえば、昨日ブログにこのモンスターの対処法を掲載したところ、アクセスがかなり増えていた。

 

 まぁ、【霧化】は対処法を知らないとなかなか面倒な特性だからなぁ。この情報でみんなの攻略が楽に、そして安全になってくれたらなによりだ。


「一体……二体……三体っと」


 それにしても七階層は敵が多いな。

 強さ自体はそうでもないが、数が多いと進むのがどうしても遅くなってしまう。


 まぁ、もうマップはだいたい分かったから、次の階層に行っちゃってもいいんだけど、なんとなく全部をしっかり探索してからじゃないと気持ちが悪いというか。


 モンスターをバッサバッサと薙ぎ倒し、ちょこちょこ休憩を挟みながらしばらく探索を続ける。


 そしてやっと第七階層の全部を踏破して、俺は探索を切り上げることにした。まだ体力的には余裕があったが、あまり無理をするのも良くない。


 第八階層は、新しい武器が出来上がってからにしようかな。鳳凰院さんは仕事が早いから、すぐに造ってくれるはずだ。


 武器の依頼料となる魔力結晶をたんまりと集めつつ、俺は下の階層に降りていく。


 このダンジョンの構造はなかなかに複雑だ。俺は通い慣れているからさっと進めるが、初見だとかなり迷うことになるだろう。


 そのためにしっかりと情報を集めて記録している。

 こういう地道な作業が大事だと、俺の師匠も口を酸っぱくして言っていたっけ。


『ダンジョンでは油断した者から命を落とす。どんなことがあっても、決して気を緩めるなよ』


 何度聞いたか分からない師匠の言葉。

 この言葉は俺の胸に深く刻まれている。

 ブログを始めたのもその一環。その日に得た情報を整理することで、自分の身を守ることにも繋がる。


 特にダンジョンの情報の共有は軽視されがちだ。

 なぜなら、探索者はダンジョンをしたがるからだ。


 占有することのメリットは多い。

 国から安定して支援を受けられたり、魔力結晶を独占できたり、更にはその情報を売るものまでいる。


 師匠はその現状を嘆かわしく思っていたようで、日本のダンジョン管理協会に何度も占有を止めるように直訴していたらしいが、結局その訴えは聞き届けられることはなかったらしい。


 そしていつも俺は師匠の愚痴を聞かされることになった。酒癖の悪い師匠を何度介抱したか。


 それが原因かどうかは知らないが、師匠はあまり日本にいない。まぁ探索者が足りないのはどこの国も同じだから、お金に困ることはないだろう。


 その中でも日本は特にダンジョン関連の法律の整備が遅れていると聞く。古いまま運用され続けている法律はダンジョンの占有を可能にしているし、情報の取り扱いに関しても不備が多いと師匠は愚痴っていた。

 

 ダンジョンについての誤った情報にはやたらと厳しいが、その正誤を判定する組織が存在していないのである。そりゃ、あんまり意味がないよな。


 本来なら国がダンジョンの情報を管理すべきところを、探索者たちの一存で決めさせすぎているから歪みが生まれてしまう。


 まぁ文句を言っても仕方ない。

 俺は俺の仕事をするだけだ。


「――ハアアアッ! 忍法、【風凪】ッ!」

「……ん?」


 一階層に到達したとき、やたらと気合の入った声が聞こえた。

 

 声の方を見ると、そこにはさっき出会ったばかりのカレンさんがアークエンジェルと戦っている姿があった。

 どうやらもう一度出会いそうだという俺の予感は的中したらしい。思っていた5倍は早いけれど。


 彼女は素早い身のこなしでヤツの背後に回り込んだかと思うと、詠唱中でスキだらけの弱点に攻撃を叩き込んだ。

 

 ――疾い。なにより動きに無駄がない。かなりの実力者だ。


 光の粒子が舞う。

 その光を背に、カレンさんは両手をクロスさせて決めポーズ。


「……決まりましたわ」


 その手に握られているのはクナイだろうか? ……ゴスロリにクナイ?


「やっぱり、あのブログの情報は完璧なようですわね。ここまで詳細に分析をしているなんて……」


 ドロップした魔力結晶を見つめながらカレンさんが呟く。


 あれほどの実力があれば第一階層で苦戦することはなさそうだ。


 と、カレンさんは何かに気付いたように辺りをキョロキョロしだした。


「……っ! この気配、サトウさんが近くにいますわ!」

「なっ……!?」


 どうしてバレたんだ。

 エレナさんもだけど、俺を見つける能力にやたら長けてないか?

 

 まずい、目が合った。その目がギラっと光ったような気がする。


「サトウさーんっ! 会いたかったですわぁぁぁ〜〜!」

「ちょっ……!?」


 ダダダっと駆け寄ってきたカレンさん。

 スカートを翻しながら、そのまま俺に向かって勢いよくダイブ!


「またお会いできましたわねっ! これって運命でしょうか!? 運命に決まってますわ〜っ!」


 そのまま抱きつかれそうになったところを寸前で回避!


「ぺぎゃっ」


 カレンさんはそのままベシャリと転んでしまった。


「ご、ごめんなさいつい条件反射で」

「い、痛いですわぁ……」

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