第6話 ジャージに仮面男、現る


 その動きを合図に、迷うことなく私たちは駆け出す。

 敏捷性に優れるシオンが先行。私はその後ろで、万が一に備える。


 それは戦闘の常識から外れた、普通ならありえないコンビネーション。


 まずはタンク役が敵を引きつけるところから始めるのがダンジョンでの戦闘におけるセオリー。探索者講習で初めに習うことだ。


 だけど私たちはその常識を覆す作戦で、《アークエンジェル》を倒すと決めた。


 前を駆けるシオンが《アークエンジェル》に迫る。

 その距離、あと数メートル。

 詠唱が開始されてまだ約1秒。


 ――いける。間に合う。


 ――《アークエンジェルの弱点は、背中の首の下。ちょうどうなじのあたりにある。詠唱中は隙だらけだから、その間に攻撃を叩き込もう》


 背中に回り込む時間が惜しい。

 そう考えた私たちは、もう一つ作戦を立てた。

 シオンが振り向き、私にアイコンタクトを飛ばす。


「いっ……けええええっ!」


 それを合図に、私はシオンを空中へ


 勢いのまま、シオンが空中で弧を描く。

 そして半回転ひねりをしながら、《アークエンジェル》を飛び越える。


 弱点のある背中側に回り込むことに成功。

 そのまま、シオンが構えた刀を横に薙ぐ。

 空気を切り裂くような、シィっという音。


『ァ、ガァァアアアッ……」

 

 その剣戟は、的確に弱点を捉えたようだ。

 苦しみ出した《アークエンジェル》は、そのまま光の粒子となって消えていく。


「や、やった……の?」


 粒子が完全に消滅するのを見届け、私は呟く。

 その場には、見たことのないくらい大きな魔力結晶が転がっていた。


「はぁっ……はぁっ……」


 シオンは肩を上下に揺らしながら荒い息をついている。ここまで消耗したシオンは初めてみたかもしれない。


《す、すげえ……》

《マジか》

《早すぎて見えなかった件》

《もしかして俺たちはすごいものを見せられてる……?》

《ていうかマジであのブログの通りだったくね?》

《それな。もしかして本当なのかあれ》

《つか、あの魔力結晶でかすぎない……?》


 私たちのチームワークにコメントは大盛り上がり。


 確かに、あのブログの情報通りだった。

 現れるモンスターも、その行動パターンも。

 あのブログの攻略情報は完璧だった。もしそれがなければ私たちは《アークエンジェル》を倒せなかっただろう。

 それに加え、ソロで倒すとなると……その難しさは想像がつかない。


「……ふぅ。ね、カナデ、やっぱり本当だったでしょ?」

「う、うん」


 刀を納めながらシオンが笑う。

 そして魔力結晶を拾い上げ、「うわぁ、でっかぁ……」と感嘆の声を上げている。


《デカすぎィ!》

《5万DPくらいはありそうだな》

《えっど》

《シオンたん、もう一回!》


 魔力結晶を拾ったシオンに、なにやらコメントが盛り上がっている。確かに見たことないくらい大きいけれど、そんなことは正直どうでもよかった。


 私たちは確信した。

 あのブログはだと。   


 そして、それはつまり――。

 

 このダンジョンを、までクリアしている人間がいるということを意味していた。


 ――それも……で。


「さて、それじゃ帰りますか」

「う、うん」

 

 一息ついて、撤退しようとしたときだった。私は別の気配が近寄ってくるのを感じた。


「っ……!」

「……こりゃまずいかな」


 私たちの目の前に現れたのは、2の《アークエンジェル》。


 同時に手を振り上げる。攻撃の合図だ。

 まずい。一体だけなら対処できるけど、二体同時は……!

 

《二体はやべえよ》

《逃げてーー》

《ひぃぃ》

 

「っ……! 逃げるよカナデ!」

「わ、分かった!」


 シオンの迅速な判断で、私たちはダンジョンの出口に向かって駆け出す。


 しかし、間に合いそうにない。

 と、そこでシオンが立ち止まる。


「な、なにしてるのシオンッ!?」

「ここは私が引きつける! カナデは逃げて!」

「ダメだよシオン!」

「いいから!」


 どうやら囮になるつもりらしい。

 ここに私を連れてきた責任を感じているのだろうか? そんなもの、シオンが背負う必要はないのに――!


 振り返ると、《アークエンジェル》は詠唱を終えたところだった。

 

 その腕から雷光が放たれる――!


 ――ギイイィンッ!


「きゃあっ!」

「え、なにっ!?」


 何かがぶつかり合うような、鋭い金属音。

 今まさに私たちを攻撃しようとしていた《アークエンジェル》は、光の粒子となって消えていく。


 ――いったい、なにが……!?


「え……」

 

 私の目に、謎の人影が映る。

 シオンも驚いたように、その人物を見つめていた。


 真っ黒のジャージに、謎の仮面。

 そして、サンダル。


「…………」

「あ、ちょっと!」


 突然の出来事に固まってしまった私たちを置いて、その人影は何も言わず立ち去ってしまった。


《だ、だれ》

《なにもみえなかったぞ》

《二体いたよな?》

《同時に倒されたように見えたけど……》


「間違いない、あの人だ」

「……もしかして、あのブログの?」

「うん。きっとそうだよ」


 確かに、私たちが二人がかりでやっと倒せたモンスターを同時に倒すなんて芸当、できる人はあのブログの管理人以外に思いつかない。


「……見つけた」


 ――ポツリと呟かれたシオンのその言葉が、私の耳に残った。

 


──

つ、ついに見つかった……!?

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