第3話 ぼっち、初配信す


「うおおおっ、なんかめちゃくちゃアクセスが増えてる……!?」


 次の日。

 いつものようにブログをチェックした俺は、感動に打ちひしがれていた。

 なんと昨日までほとんどゼロだったブログのアクセス数が、爆増していたのである。


 その数、5000万PV。……正直言って意味がわからない。一体何が……?


 心当たりは……特にない。

 強いていえば、昨日はなかなかいい記事が書けたとは思うが……。


 とにかくラッキーと言わざるを得ない。

 これで広告収入が増えれば、フゥちゃんのエサが豪華になる。最高級のエサにしよう。


「良かったね、フゥちゃん」

「オナカスイタ、オナカスイタ!」

「はいはい。今エサをあげまちゅよ〜」


 

 ◇◇◇

 


「ふぃ〜〜。今日も頑張りますかっと」


 俺はいつものように【神々の庭園】に潜る。


 今日はついに、第六階層に行ってみるつもりだ。

 第五階層のマップとモンスター情報はもう集め終えたし、もう用はない。


 まぁ準備運動くらいにはなるけど、それくらい。

 そんなわけでさっさとダンジョンを駆け上がり、俺は未知のエリアへと足を踏み入れた。


 ちなみにこのダンジョン、階層が一つ進むたびに敵の強さが跳ね上がる。


 第一階層に現れる《アークエンジェル》(俺命名)の強さが100だとすると、第五階層に現れる《ダークエンジェル》(もちろん俺命名)は、5000くらいの強さはあるだろうか。


 そんなこんなで、新しいエリアに入る時はしっかりと準備をしていくことにしている。


「えっと、ハンカチに、お弁当に、水筒に……って遠足とちゃうんやから!」


 俺の声が虚しくダンジョンに響く。

 ……はぁ。ぼっちだとボケても誰もツッコんでくれない。虚しい。


「あ、そういえば」


 そうそう、ぼっちを卒業するいい方法を思いついたんだった。

 俺はリュックから秘密兵器を取り出す。


「ええと、どうやって使うんだこれ……?」


 それは、押し入れに突っ込まれたまま埃をかぶっていた配信用ドローン。

 かなりの旧式だから使えるか分からないけど、とりあえず電源を入れてみる。


「ここが電源ボタン……これは……緊急停止ボタンか」

 

 説明書片手に、いろいろ試してみる。

 するとブウウン……という低い唸り声と共にドローンが起動した。

 

 手を離すと、ドローンは自動的に空中に浮かぶ。

 試しにウロウロ歩いてみると、ドローンは追従してついてきてくれた。


 ほほう、なかなか可愛いやつじゃないか。

 ドロちゃんと名付けよう。

 

 俺はDデバイスを取り出し、無線で繋がったドロちゃんの設定を進めていく。

 配信するには、D tubeのアカウントと、あとはなにがいるんだっけ……? 探索者IDだったかな?


 あれこれ言いながら、設定すること数分。

 ついに準備が整った。


 俺のぼっち脱出計画、それは――。


 ――《配信をしてリスナーと交流すれば、それはぼっちじゃないのでは説》だ。


 最悪、誰も来なくてもV logみたいに映像は残せる。まさに一石二鳥の作戦である。


 さて、配信タイトルはどうしようかな。

 ちょうどブログのアクセスも増えていたことだし、【神々の庭園 第六階層を攻略してみた。#友達希望】とかでいいかな。


 アプリから配信タイトルを打ち込み、あとはボタンを押せば配信が始まる。


 あ、そうだ。忘れていた。

 俺はリュックからもう一つのアイテムを取り出す。


「ふっふっふ。身バレは危険だと聞くからな。ちゃんと顔は隠さないと」


 これまた押し入れに眠っていた仮装グッズ。

 その名も、【なんかいい感じの仮面】だ。


 埃を払ってから、俺はそれを付けてみる。

 ……視界にちょっと影響があるけど、まぁ問題ないか。慣れれば大丈夫そう。


「どれどれ……」

 

 ドロちゃんを通して姿をチェックしてみると、そこにはジャージに怪しげな仮面を被った不審者が映っていた。


 ……よし。

 いやよしじゃないが、一旦これでいこう。

 明日、もっといい仮面を買わないとな。


 俺はDデバイスからD tubeにアクセスし、配信開始ボタンをタップする。


 すると、ドロちゃんのカメラの上についたライトが赤く光り、配信が正常に行われていることを示した。


「…………」


 しばらく、ハラハラしながらリスナーが来るのを待つ。

 そういえば挨拶を考えていなかった。ルナスターズはたしか『おはルナ〜』だったよな。


 ……うーん。さてどうしよう。


 ――ポロンっ。


 そんなことを考えていると、Dデバイスが通知音を鳴らす。

 慌てて画面を見ると、同時接続数が0から1になっていた。つまり、初めての視聴者が来たということだ。


 ――ポロンっ。


《なにこの配信タイトル。釣り?》


 さっそくコメントが流れる。


「つ、釣りじゃないですよ……」


 俺はそのコメントに答える。


《え、なんて? 声ちっちゃくて聞こえない》


 だが、どうやら聞こえなかったようだ。

 ……マジか。ドロちゃんは旧式だからもしかしたらマイクの性能が良くないのかもしれない。


 そしていまさら緊張してきた。

 ぼっちは解消されたけど、なんだこの気まずい感じ。


《ていうかその仮面なに? ダサすぎでしょ》


 辛辣なコメントが心を抉る。……早くも心が折れかけてきた。

 いやまて、攻略しているところを見せれば見直してくれるかもしれない。


「今から、【神々の庭園】第六階層に行きたいと思います」


 さっきよりかなり大きめの声でしゃべる。

 するとやっと声が届いたようで、《え、マジ?》という反応があった。


「あ、挨拶がまだでしたね。……おはぼっち〜! ぼっち系配信者の……」


 言ってから、そういえば名前を決めていなかったことに気付く。まずい、どうしよう。


「ええと……ボチダンです。よろしくお願いします〜」


 ボチダン。

 ぼっちとダンジョンを合わせた名前だ。正直言ってダサいが、まぁいい。どうせ一人しか見ていないし、後からもっといい名前を考えよう。


「そ、それじゃ早速、攻略を進めていこうと思います……」

 

 開始早々グダグダだけど、まぁ初めての配信だし仕方ない。練習だと思って気楽にやろう。


 俺は階段を登り、第六階層に向かう。

 ここからは未知のエリア。気を引き締めていこう。


 扉を開くと、そこはこれまでのエリアとは全く違う雰囲気だった。


《え、なにここは。見たことないダンジョンなんだけど》


「……ええと、一応【神々の庭園】ってダンジョンっス」


《またそれ? 釣りでしょ》


「つ、釣りじゃないっスよ」


 初めてのリスナーとそんなやりとりをしていると、目の前に漆黒の天使型のモンスターが現れた。


「ああ、《ダークエンジェル》ですね。あれは第五階層にも現れるモンスターで――」


 説明していると、《ダークエンジェル》が手を振り上げるのが見えた。せっかちさんめ。説明できないじゃないか。


 俺は駆け出し、いつものようにそいつを倒す。


「ええと、こいつはこうやって倒します。先手必勝ってやつっスね」


《……なんも見えんかったけど》


「え、マジすか? ドロちゃん、旧式だからなぁ。すんません、映らなかったみたいで」


《なんだよ、やっぱり釣りじゃん》


「え、ちょっ……」


 そのコメントを最後に、視聴者数は1から0に逆戻りしてしまった。


 せっかく来てくれたのになぁ。

 配信ドローン、最新のに買い換えないといけないか……? めんどくさいなぁ……。


 ――ポロンっ。

 

 腕を組みながらそんなことを考えていると、デバイスが通知音を鳴らした。


 どうやらシオンたちの配信が始まったようだ。

 画面を見なくても分かる。ぼっちの俺の通知音なんて、ルナスターズの配信開始の通知しかないからだ。言ってて辛くなってきた。


 落ち着いて配信を見るために一旦引き返し、セーフポイントで配信を開く。


 するとちょうどシオンとカナデが挨拶をしているところだった。


『おはルナー! 今日はなんと、今話題の【神々の庭園】に来ています〜!』


 ……

 …………

 ……………………えっ?


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る