ぼっち探索者は、SSS級ダンジョンをソロで攻略しているようです。
モツゴロウ
第1話 ぼっち探索者の日常
「はぁ……楽しそうだなぁ……」
俺、佐藤太一はスマホに映る配信画面を見つめながら呟いた。
そこには、二人の女の子が楽しそうにダンジョンを攻略している姿が映っている。
彼女たちは大人気ダンジョン配信者グループ、【ルナスターズ】。
彗星のように現れた彼女たちはすぐさま世間の話題をかっさらい、今ではアイドルのような人気を誇っていた。
今ではテレビで見ない日はない大スターだ。そんな彼女たちの配信を、俺は昔から追いかけ続けてきた。
右下の同時接続者数を表す数字は、5万人を突破している。相変わらずものすごい人気である。
画面に映るのは、リーダーのシオン。
明るく染められた髪に、インナーカラーが入っていて、元気な印象を抱かせるムードメーカーだ。
女性としては最年少のS級探索者。実力も折り紙つきだ。
彼女が的確に指示を飛ばし、もう一人のメンバーであるカナデとスムーズな連携でモンスターたちを倒していく。
カナデはシオンと違い、クール系美人。特にキリッとした目は、俺の目を惹きつけて離さない。
彼女はまだA級だけど、その実力はシオンに負けていない。
その華麗なチームワークにコメントが湧きたつ。
特にタンク役のカナデの活躍はめざましく、コメントも絶賛の嵐だ。
ちなみに、俺の推しはシオン。
綺麗な髪を靡かせ、華麗に敵を倒していく姿は、まさに戦場に咲く花のよう。もちろんカナデのことも好きだけどね。
――
《さすがシオン》
《カナデ、今日はめちゃくちゃ調子いいな》
《今日も、だろ?》
《美しい……》
《ああ、カナデ様に守られたい……》
――
「さすがはシオン。安心して観れるな」
うんうん、と頷きながら呟く。
そんな後方彼氏ヅラを気取った独り言は、誰にも聞かれることはない。
なぜなら、ここは圧倒的
周りには誰もいない。
こんなクソダンジョンに潜ろうと思う奇特な人間は、俺くらいなもの。
それもソロで、となると、正気を疑われるだろう。
ダンジョンにソロで潜ることは、いうまでもなく非常に危険である。そんな危険を冒してまで、ソロで潜っている理由は単純。
ただ、人見知りなのである。
『それじゃ、今日はこの辺で配信終わりまーす! みんな、観にきてくれてありがとー!』
配信画面を見ると、カナデがカメラに向かって手を振っている。その隣ではシオンが優しく微笑んでいた。
どうやら配信が終わったらしい。
うむ、今日も素晴らしい配信だった。
俺は最後に大量のスパチャとサブスクギフトを送る。
《きたああああ》
《赤スパ連打マン、またきたのか》
《石油王か何か?》
《ギフトあざす》
「今日の配信も最高だったな」
彼女たちの配信からエネルギーを受け取った俺は、スマホをポケットにしまう。
そして、目の前には
「……まだいたのか。全部倒したと思ったのになぁ」
黒い衣装に、黒い羽。
その漆黒のモンスターは、禍々しくもどこか美しさもある。
そいつは片手を上げ、詠唱を始めた。
あたりの空気がバチバチと鳴動し、その手に向かってエネルギーが凝縮されていく。
「それはさっきも見たよ……っと」
そのエネルギーが解放されるまで、ほんの数瞬。時間にして約0.1秒――。
俺はそいつに向かって駆け出す。
モンスターの目が俺を捉え、その手を振り下ろした。
凝縮されていたエネルギーが、俺に向かって迸る。
雷光のような速度。
俺はそれを、握りしめた短剣で弾く。
ギィン、と耳障りな金属音が鳴り響き、雷のようなエネルギーは明後日の方向へ飛んでいった。
それは壁にぶつかり、堅牢な壁を大きく抉りとる。もし当たれば、ひとたまりもないだろう。
まぁ、当たらなければどうということはない。
それに何度も見たからな。対処法はもう分かってる。
そのまま攻撃の反動で動けずにいるモンスターに迫り、俺は短剣を振り抜く。
背中側の首の下。
そこにヤツの弱点はある。これもさっき知った。
弱点を大きく切り裂かれたモンスターは、そのまま光の粒子となって消えていく。
ふぅ。俺の楽しみの邪魔をしないで欲しい。
「お、ラッキー。魔力結晶ゲット〜」
魔力結晶とは、モンスターが稀に落とすアイテム。
これを探索者協会に持っていくと、DP(ダンジョンポイント)というものに変換してくれる。
DPは探索者カードに保存され、電子マネーのように色んなところで使うことができるだけでなく、集めた量に応じて探索者ランクが上がっていく。
その場に残された魔力結晶は、今まで見た中でもかなりの大きさがあった。これなら100万DPくらいになりそうだ。
ちなみに俺はそのほとんどをスパチャに溶かしていた。だって欲しいものとか特にないんだもん。
そして、詳しくは知らないが、魔力結晶にはものすごいエネルギーが秘められているらしい。
だけど、そのエネルギーはダンジョン内でしか使えない。さっき配信を見るために使っていたデバイスも、魔力結晶から得られたエネルギーで動いているのである。人類の発明はすごい。
本当ならこのサイズの魔力結晶がドロップしたら、大喜びするところなんだろうけど……あいにく俺は一人だ。その喜びを分かち合う仲間はいない。
なぜなら、俺はソロ。
言いかえればぼっち。
「……寂しくなんてないんだからね」
そんな強がりを呟きながら俺はそれを拾い上げ、ダンジョンを後にした。
◇◇◇
「さて、今日もブログを書きますかっと」
帰宅した俺はすぐさまパソコンの電源をつけ、今日手に入れたダンジョンの情報をメモを見ながら打ち込んでいく。
手に入れた魔力結晶は、いつものように押し入れにしまう。
「【神々の庭園】5階層。このフロアは今までとは一味違う。現れるモンスターの傾向が大きく変わるのだ。主に現れるのは天使型のモンスターで――」
俺が運営するブログ、『ぼっちのダンジョン攻略記』。ここには俺がこれまでに手に入れたダンジョンの攻略情報が書かれている。
初めは備忘録と日記を兼ねたような感じで、気楽に書いていたこのブログも、気づけば開設から1年が経っていた。
だけど、相変わらずアクセスはほとんどゼロ。
一日に二人か三人くれば良い方の過疎具合だ。
でも俺は、めげずに毎日更新を続けていた。というか、この作業はすっかりルーティンの一部になっていて、更新しないと逆に気持ち悪いくらいだ。
継続は力なり。その言葉を信じて、今日の攻略記事を打ち込んでいく。
「……よし。こんなものかな」
記事を書き終えた俺は一つ伸びをする。気付けばかなりの時間が経っていた。
今日の記事は会心の出来だ。
見出しは、【神々の庭園に出現する、天使型モンスターの弱点と対処法について】。
「これで、誰か来てくれたらいいなぁ」
この記事を見て興味を持った人が、【神々の庭園】にきてくれたらいいな……そしてあわよくば、俺とパーティを組んでくれたら……なんて。
要するに、俺は仲間が欲しいのだ。
……そのくらい自分で探せというのは禁止ワード。そんなことができたらとっくにぼっちを卒業しているだろう。
「オナカスイタ、オナカスイタ!」
長時間の作業で凝り固まった体を伸ばしていると、俺の飼っているインコのフゥちゃんが可愛い鳴き声でご飯を催促し始めた。
「もうそんな時間か。……よーしよし、今ご飯持ってくるからね〜」
俺の唯一の友達でもあるフゥちゃんは、鳥かごの中で元気よく羽ばたきながら、期待を込めたまなざしで俺をじっと見つめている。
俺は今日の成果を噛み締めながら、上機嫌でフゥちゃんにエサをあげるのだった。
◇◇◇
「ねぇカナデ。このサイト、知ってる?」
今日も無事にダンジョン配信を終え、次回の配信の打ち合わせを行っている時だった。
隣に座るシオンが、スマホを片手に話しかけてきたのは。
ちょうどおやつのチョコを食べていたところだったので、私は否定の意味を込めて首を振る。
「最近、【エバーライト】のマサルが話題にしてたサイトなんだけどさ」
私が首を振ったのを見たシオンは、私にスマホの画面を見せてくれる。
画面には、『ぼっちのダンジョン攻略記』というサイトが映し出されていた。無駄に装飾されたバナーが、右に左と忙しなく動いている。
「……なにこれ。ただの個人ブログにしか見えないけど」
「まぁまぁ、続きを見てみなって」
手渡されたスマホを改めて眺める。
見た感じ、ただの個人ブログにしか見えない。
ぼっちの、という部分が気になったけど、それ以外は特段変わったところはなさそうだ。
「…………ん?」
そう思って視線を下げていくと、一つの見出しが目に入った。
――【神々の庭園に出現する、天使型モンスターの弱点と対処法について】
「……え? 神々の庭園?」
「ね、ヤバいでしょ?」
神々の庭園といえば、探索者なら誰でも知っている超有名ダンジョンだ。
その理由は簡単――。
とにかく理不尽なくらい難易度が高いのだ。
さっき名前の上がったS級クラン【エバーライト】ですら、攻略を諦めたと聞く。……というか、第一階層で断念したらしい。
このことは一部の探索者しか知らない事実。リーダーのマサルが、パーティの沽券に関わるとかなんとかで口止めしたとか。
私は興味本位でその記事をタップしてみる。
そして、画面に表示された文章を読んで、思わず息を呑んだ。
「えっ……?」
なんとそこには、S級クランが第一階層で攻略を断念したダンジョンの、第五階層についての情報が書かれていたのだ。
画面をスクロールしていくと、そこに現れるモンスターの特徴と、さらにはその弱点までもが書かれていた。
信じられない気持ちで、画面をスクロールしていく。
気付けば私はその記事に夢中になっていた。
「カナデはさ、どう思う?」
「どう思うって……」
記事を読み終え、スマホをシオンに返すと、彼女は真剣な表情で私に問いかける。
その問いに、私は答えあぐねた。
記事に書かれていたことが嘘とは思えなかったからだ。
なぜなら、嘘と言うには、それはあまりにも
モンスターの生態から弱点まで、そしてそれをどうやって倒したか。そのリアリティは真に迫っていた。
しかし、信じられない気持ちもある。
あの神々の庭園を、ソロで攻略する……。探索者をしているから分かる。それがどれだけ困難なことか。
「うーん……。本当だとしたらすごいけど、さすがに嘘なんじゃないかな。だってあの【神々の庭園】だよ? 一人で攻略できるとは思えないし」
そう言ったものの、私の心は揺れていた。
この記事に込められた熱量は普通じゃない。真偽はともかく、この記事を書いた人はどんな人なのだろうと興味が湧いてしまった。
もし、【神々の庭園】をソロで攻略できる探索者がいるなら……会ってみたい。話を聞いてみたい。
その気持ちが顔に出ていたのだろうか。
シオンがニヤリと笑って口を開く。
「私は、本当だと思う」
「……へ?」
「マサルは『嘘に決まってる』って言ってたけど、私はそうは思えない」
シオンが自信に満ちた顔で放った言葉に、思わず変な声が出てしまった。
「ど、どうしてそう思うの?」
問いかけると、シオンは「……内緒だよ?」と前置きしてからこう続けた。
「……実は私、カナデに会う前に【神々の庭園】に行ったことがあるんだよね」
「は、はぁぁっ!?」
「まぁ、若気の至りですよはっはっは」
「いや、今も若いでしょ……」
まぁ……シオンらしいといえばらしい。
今ではすっかりアイドルみたいな扱いをされているけど、出会った時はなかなかのぶっ飛び具合だったし。
「で、本題なんだけどさ」
スマホをポケットに仕舞いながらシオンが言う。
私はその顔を見て強烈にイヤな予感がした。
「……まさか」
「そのまさか、だよ。……カナデも気になるでしょ?
──
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