ANNIHILATOR

@Manbou_Sashimi

序章『ジャンクヤード』

「――――HQ 本部、こちらシルバーバレット! 支援要請! 繰り返す、支援要請! 奴だ、『血塗れ人形ブラッディー・マリー』が……現……ッギャ」


 響き渡る銃声。


 人々の怒号。


 肉が切り裂かれ、飛び散る音。


 爆発音と建物が崩壊する音。


 それら全てが混ざり合う、混沌とした戦場。


「……応答せよ!シルバーバレット、応答せよ! ……クソッ!どうなっている……? 何故いきなり、何の予兆もなくこんな」


 血と硝煙の臭いが充満する廊下。


 電気は落ち、暗闇に窓から入り込む街のネオンが色とりどりの光で廊下を照らす。


 照らし出されるは惨状。


 深々と床や壁に刻まれた切断跡。


 その傷に沿うように派手に飛び散り、廊下全体を赤に染める血と肉。


 そして、その中に立つ異様な人影。


 もう誰も応える事のない無線機を踏み割ったその人物は。


 赤に染め上げられた廊下に一人、純白のウェディングドレスを纏い立つ女。


 窓からの光はカラフルであるにも関わらずその白は失われること無く。


 純白のベールに隠れた顔は、どこか穏やかな笑みを浮かべでいる。


 血の海と化した廊下をゆっくりと進む。


 歩を進める度に、血溜まりに小さな波紋が広がっていく。


「……ココかしら?」


 女が呟く。


 美しく透き通った印象を受ける、不自然に反響するどこか異質さを感じさせるような声で。


 彼女の眼前には扉、恐らくはそれなりの広さのある会議室の入口だろう両扉だ。


 よく磨き上げられた真鍮のドアノブを血に染まった赤い指先が掴みゆっくりと回し開ける。


 開かれた扉の先、美しく整えられた洋室の中心大きな会議用円卓が女の目に入る。


 木造でありながら光が眩しく照り返す程に滑らかな円卓の上には、同じように輝く銀色のジュラルミンケースが置いてある。


 そして。


「やッと来やがッたか……随分派手に暴れたみてェじゃァねェか」


 ジュラルミンケースの隣、同じく卓上に足を組み気怠げに腰掛ける女。


 ビビットカラーが派手な緑の髪、鋭い視線が特徴的なヘーゼルカラーの三白眼に鋭く凶暴な印象を与える歯。


 そして、顔以外のほぼ全て指先や首に至るまで刻まれた入れ墨、所謂タトゥーが特徴的な人物。


 ニヤリと不敵に笑った彼女は円卓から降りるとその鋭い瞳で眼の前に立つ白い女を睨み。


「……相変わらず不思議なもんだなァ、血の一滴すらテメェの体に着いちゃねェたァ……戦わずにココまで来たわけじゃァねェもンな?」


「ふふ……どうでしょう、それはここから出て確認すれば良い話では無いでしょうか……ジャネット・ダルカニア」


 ジャネットと呼ばれた女は、眉を上げて少し驚いたような反応を見せるがすぐに先程の不敵な笑みに戻る。


「意外だな、ここにアタシが居ることは知られてねェと思ッたんだが」


「知っていたわけではありませんよ、でも私は……いえ、この街にいるものでアナタの噂を聞かぬ者は居ないでしょう」


 白い女は一歩踏み出しジャネットへと近付く。


 それに呼応するように、ジャネットも円卓から降りて立つ。


 純白に輝くヒールの底を彩る血の赤が、床に足跡を描いていく。


 女の血に染まった指が、滑らかに動く。


「……ッ!」


 金属を断つような高く響く異音。


 そして、ジャネットの目に瞬きほどの一瞬だけ写った僅かな光。


「……実際、私もアナタのことは都市伝説程度の存在に考えていたのですが……こうして実在しているんですもの、それ相応の態勢で迎え撃つのが筋というものですわ」


 何かを引っ張るように、女の手が高く掲げられる。


 次の瞬間、会議室の床と天井が弾け飛びジャネットの周辺が何かに切り裂かれ粉々になっていく。


 不可視の斬撃。


 目に映ることがなく、壁中の鉄筋すら断絶する正体不明の刃の嵐。


 予測不可能の攻撃がジャネットを襲う。


 そして。


 斬撃がジャネットを包み込む。


 巻き込まれれば人間など一瞬にして肉塊と化す恐ろしい攻撃の中心。


 破壊の渦の中から楽しげな笑い声が響く。


「…………ご期待に沿えたようですわね。」


 その笑い声を聞いた白い女は呟き。


 ジャネットを包み込む斬撃によって切り裂かれ舞い上がった粉塵が吹き散らされる。


 金属を断ち、何もかもを切り刻む斬撃の嵐が打ち消され。


「成程なァかよ、そりゃァ表のクズ共も殺られちまう訳だ」


「……だがなァ」


 右手には釘バット、左手には大口径のリボルバー式拳銃。


 楽しそうに、心底楽しそうに笑ったジャネットは。


 一歩踏み出し。


「ンな程度でアタシが死ぬなんて思っちゃァねェだろ?」


「……夜は長げェんだ、じッくり楽しもうぜ……『お人形ドールさん』よォ」


 右手に携えた凶器の先端を女へと向け。


 戦いの火蓋が切って落とされる。


 夜は長い。


 街は眠らず、煌々と光を放ち続ける。


 これは一つの『覚悟』で進み始めた物語。


 そして、血に塗れた『非日常』の一幕である。






*1






『ジャンクヤード』


 総面積8476km2余り、人口約600万人、アメリカ合衆国フロリダ州モンロー郡に属し、アメリカ合衆国48州の最南端に位置するキーウェスト島から高速艇で東へ3時間の位置に存在する巨大人工島で、同時に世界でも有数の無法地帯の名称である。


 世界的近未来都市『セントラル・シティ』を中心に、東西南北に4つの区画に分割されたこの島では強盗、殺人、薬物売買に人身売買などありとあらゆる犯罪が横行している。


 中でも治安が最悪だと評される区画『ウェスタン・ストリート』。


 島内に組織された行政機関が運営する治安維持組織ですら一切の権限を持てず、区画内に組織された犯罪者紛いの自警団組織やギャング、マフィアが支配権を巡って争う危険地帯である。


 その中心街『バッド・ゲートウェイ』、食品や日用品は勿論のこと薬物や銃火器、果ては人間まで様々な商品が取引される露天商が立ち並ぶ、正に『ウェスタン・ストリート』の様子を象徴するような混沌とした大通り。


 そこから少し外れ、アリの巣のように複雑に伸び続く路地を入り込んだ奥の奥。


 混沌とした大通りとは打って変わって、何が潜んでいるか分からない深い闇が広がるその場所に、ひっそりと開かれた小さな自動車整備店『エクスオートモーティブ』。


 周囲に深く響き渡り、聴く者の心を震わせる音楽、所謂プログレッシブ・メタルと言われるジャンルの音楽が流れるガレージには、客が持ち込んだのか今流行りの最新車から昔を思い出させる旧式車まで様々な車両が止まっている。


「……On the edge of paradice……Poison burning In my veins……♪」


 数々の名車が並ぶ内の一台の元で作業を行う人物。


 その人物はガレージに流れる音楽に合わせ、鼻歌交じりに車両の整備を行っている。


 現在は丁度、エンジンルームの整備を行っており床には大量の工具と作業中に飛び散ったオイルで汚れている。


「クソッタレが……サビてんじゃァねェか、ンなことになるまで放置しやがッて……整備する身にもなッて欲しいもんだぜ」


 相当にガタが来ている車両なのか、持ち込んだ客への愚痴を垂れながら作業を進めるその人物はエンジンルームから目を離すこと無くノールックで近くに置いている工具を交換して修理を続ける。


 すると、ガレージに併設された事務所兼住居に当たる建物から誰かが歩いてくる音が聞こえてくる。


あねさんっ! あねさ~ん! ちょっといいっすかぁ?」


 事務所からガレージに顔を出したのはいかにもチャラそうな顔立ちの良い金髪の青年。


 高い身長に鍛えているのかガッシリとした身体、そしてハワイアンシャツに短パンという軽薄そうな格好とは裏腹に優しげな目元が特徴的な人物である。


 そんな彼はガレージを見回し、先程から『あねさん』と呼ばれていた人物を見つけるとそこへ近付いていき。


あねさん、ちょっと来てもらいたいことがあるんスけどいいすか?」


 そうしてエンジン修理を行う『あねさん』へと近付いた男は、距離が近いにも関わらずやたらと大きな声で呼びかける。


 すると、今まで黙々と作業を進めていた『あねさん』は身体を起こすことはないものの一旦作業の手を止めて。


「るせェなァ……テメェはよォ!! ンなクソデケェ声で言わなくたッて聞こえてらァ! ボケ!」


 突然凄まじい怒声を上げると手に持っていた工具スパナを全力で左側に立っていた男へ投げ付ける。


「うぇっ……ちょ、ちょっと!!! っゔっ!!」


 投げられた工具は、凄まじい速度で宙を舞い男の元へと到達すると額にクリーンヒット、男はその衝撃で背中から床へ倒れ込む。


 そのまま額から工具の当たったであろう部分がパックリと割れ血を流すこととなった男は、少しの間目を回したもののすぐに頭を振って起き上がり。


「なっ……何するんスか!! あねさん、ひでぇっスよこんないきなり!」


 起き上がった男は、痛みに目から軽く涙を流しつつ額を押さえて工具を投げた相手に抗議するように叫ぶ。


 その叫びに応えるように、ゆっくりとエンジンルームから顔を上げた人物は、手に持っていたもう一つの工具を置き。


「アタシが集中して作業してるとこに話しかけてきたからじゃァねェかクソッタレ、いつも言ッてンだろうがよ仕事中はちッたァ声のボリューム抑えろッてよォ……この距離でンなデケェ声出すバカがどこに居ンだ?」


 額に青筋を浮かべつつ、金髪の男に向き直った『あねさん』と呼ばれた人物。


 鋭い三白眼に、サメのようなギザギザとした歯、オイルと煤に汚れてはいるものの目立つ白い肌。


 そして、特徴的なビビットカラーの鮮やかな緑髪。


 服装はカラフルなグラフィティが印象的なスポーツタイプの腹部が露出した女性用タンクトップに、カーキ色のミリタリーパンツといったパンクな物だ。


 そんな明らかに柄が悪く非常に凶悪な顔つきの人物は、それなりに良い体型やその整った顔立ちから女性であると判別できる。


「ンで? アタシの仕事を邪魔ァしてまで来て貰いてェッてンだ……余ッ程大事な用事なんだろうなァ」


 作業を邪魔されたことで非常に不機嫌なのか、普段からこうなのかどちらにしろその凶悪な顔が更に恐ろしく見えそうな怒りの表情で、金髪の男の要件を聴く。


「……大事っすよ! マジで大事、なんせ久々の新規顧客ですよ! 最近常連さんばっかだったんで、大事でしょう!」


 金髪の男は相手に伝えようとしていた要件の重要性を強調しつつ伝えると、ゆっくりと立ち上がって先程投げつけられた工具を拾い上げる。


 対して、金髪の男の要件を聞いた緑髪の女はゆっくりと近くに置いていたウエスで手や顔、腕についたオイルを拭き取るとそれを男の顔面へと放り投げ。


「うわっ……ぷ」


 オイルで真っ黒に汚れたウエスが顔面に直撃した金髪の男は反射的に少し仰け反るものの、布を顔から取る。


 そうした相手の様子を眺めつつ、緑髪の女はポケットから紙タバコとライターを取り出し、一本口に加えて火を付ける。


「……ソイツは男か? 女か?」


 口に加えたタバコを上下に揺らしながら、口から吸った煙を吐いて喋る彼女は金髪の男の言う『新規顧客』が男なのか女なのかという質問を掛ける。


「女性です、それもちょ~可愛い娘っすよ!! だから大事でしょ、あねさん!」


 その言葉を聞いた途端、緑髪の女の眉が僅かに動き明らかに反応している様子だ。


「どういう可愛さだ、清楚か? ギャルか? それとも美魔女か?」


 そうして吸っていたタバコを口から離し、まだ吸い始めにも関わらず地面に落として足で踏んで火を始末した彼女は金髪の男に極めて冷静を装った様子でその『新規顧客』の女性がどんな印象の人物か、特にどういった可愛さかを問い質す。


 そうした質問に、金髪の男は顎に手を当ててゆっくりと考え込むと答えが決まったのか口を開く。


「清楚……っすかね、薄めの茶髪のロングでちょっとやんちゃそうに見えるんスけど、雰囲気はめっちゃ落ち着いてるってかオドオドしてて可愛いっていうか」


 彼は、その『新規顧客』を『清楚』と評した。


 その言葉を聞いた緑髪の女は、床に散らばった工具をしゃがみ込んで適当に工具箱へ放り込み片付けを始める。


「ソレを早く言やァいいじゃァねェかよリョータァ、これだからジャパニーズは話が遠回りし過ぎて何が言いたいのか見えやしねェ」


『リョータ』と呼ばれた金髪の男は、相手の物言いにちょっと思うところがあるのか眉を顰めて言い返す。


「日本人かどうかとか関係無いでしょ! っつーか、あねさんがスパナなんか投げなけりゃもっと早く伝えれてました……よっ!」


 日本人であることをイジられたのが気に入らないのか、少しズレたツッコミを加えつつ先程投げつけられた工具スパナを緑髪の女へと投げ返す。


 それなりに勢いづいて跳ぶ工具は、それなりの重さがある上に形状的にも当たったら先程の金髪の男のようにただでは済まないだろう。


 だが、そんな凶器を軽々と一瞥もせずキャッチした緑髪の女は工具箱に仕舞い、ゆっくりと立ち上がる。


 そのまま金髪の男へと近付いた彼女は、お返しと言わんばかりに腹部へと拳をお見舞いする。


「グふッ……!」


『ごスッ』っとかなり重めの音を鳴らした打撃が鳩尾へと直撃した男は、情けない声を上げて腹部を押さえてへたり込む。


 そんな相手に、ガレージ備え付けの洗面台で手や腕を洗った緑髪の女は足で金髪が特徴的な後頭部を小突いて言う。


「お客様が来てンだろ? 適当に飲みモン持って来いや、冷蔵庫に入ってんだろコーラとか、ジンジャーエールとかよォ」


 女は、未だに腹の痛みで蹲る相手に容赦なく飲み物を持って来いと命令するが、金髪の男は痛みに咳き込みつつも小声で応える。


「ゴホッ、ガハッ……いや……コーラ、とか……飲まない、でしょ……清楚系、っすよ」


 清楚系の女性は、コーラやジンジャーエールなんてジャンキーな飲み物は飲まないだろうという半ば妄想が入ったような男の応えに、緑髪の女は『それもそうか』といった顔をして。


「ンじゃァよ、炭酸水とかで問題ねェだろ とにかく行って来いや!」


 一通り手や腕に着いた汚れを水と洗剤で落とした彼女は、水を払い落としつつ金髪の男に再度飲み物を持ってくるよう命令しつつ蹲った相手の尻を蹴り上げて事務所に続く廊下へと消えていく。


 男の方はと言うと、散々だといった様子で痛む腹と尻を気に掛けつつ冷蔵庫のあるキッチンへと向かい。




*2




「……ホントに大丈夫だったのかな、こんな時間に来て……」


『ジャンクヤード』の西区画『ウェスタン・ストリート』の路地にある自動車整備店『エクスオートモーティブ』。


 その事務所、と言う名の住居の一部。


 PCに書類やウィスキーの空き瓶、偽物なのか本物なのか分からない拳銃と幾つかの弾丸などの物騒なものまで様々なものが入り乱れごちゃごちゃとした印象を受ける部屋。


 その中で唯一整えられたソファとテーブルが置かれた一角、恐らくは来客者と話をするために設けられたであろう場所に女性は座っていた。


 ソファに浅く座り、居心地悪そうに辺りへ視線を彷徨わせる薄い茶髪の彼女は、何処となく不安気で気弱そうな印象を受ける以外はベージュ色で薄手のコートやシンプルなデザインのバッグを携え、一般的に『清楚系』と呼ばれるタイプの落ち着いた雰囲気を纏っている。


 そして何より、女優顔負けの非常に整った顔立ちとまだ少し幼さの残る少女的な振る舞いがその『清楚感』と非常に良くマッチしている。


「……あの人遅いなぁ、やっぱり揉めてるのかな」


 そんな女性は、現在、先刻ほど金髪の男『リョータ』に【店長呼んでくるんで、ここで待っててください!】と言われ大人しく待っているわけなのだが。


 先程から女性が気にしているように、現在は深夜11時42分の真夜中であり、開店の札がまだ店頭に下がっていたとはいえもしかすると閉店ギリギリの最悪なタイミングで来たのではないかと心配する。


 そうして、不安な気持ちが募る中待たされて既に半刻程経っている訳なのだが未だに『店長』はおろかここで待つように指示した金髪の男すら現れず彼女の心配は更に大きく膨れていく。


 すると、事務所の扉が音を立てて開き、女性はそちらの方に視線を向ける。


 入ってきたのは一人の女、鋭い三白眼にサメのようなギザ歯の非常に整っていながら凶暴さが先に立つ顔立ち、派手な緑色の癖のついた髪、全体的にパンクなデザインのラフな服装、そして何より特徴的なのは肌の露出した部分から見える場所全てに刻まれたタトゥーの数々。


 顔以外全て、指先から足先に至るまで描かれ、悪魔や弾丸は勿論なにかの女神や龍、刺々しいフォントのアルファベットなどなど様々なデザイン入り乱れるその入れ墨は女性の凶悪な雰囲気を更に加速させている。


「お、いたいたァ すみませんねェ長げェこと待たしちまッたみてェで……」


 男のような口調で30分以上も待たせたことを謝罪する女は、事務所内に置かれた金属製の棚から恐らくは菓子なのだろう袋を取り出しそれを持って女性の対面へと座る。


 女性はと言うと、入ってきた相手の柄の悪さに緊張した様子で固まっていたが、すぐに先程まで悶々としていた心配と相手の見た目の恐さが相まって急いで謝罪の言葉を口にする。


「い、いえ……こちらこそこんな時間にすみません! ご迷惑お掛けしてるみたいで……」


 焦ってブンブンと首を振りながら謝る女性に、緑髪の女は彼女なりに優しく笑うと相手へ先程棚から取り出した菓子を来客用の菓子皿に移して差し出す。


 その中には安物の個包装されたチョコやミニサイズのバームクーヘンなどが入っており、意外にも普通のラインナップが少し安心感を覚えさせる。


「ンなこと気にしてませんよ、アナタみたいな可愛いらしいお客さんはいつでも大歓迎ですからね……それよりあのバカは何か迷惑を掛けませんでしたか?」


 口は悪いが予想外に物腰柔らかで丁寧な物言いに、女性は少し驚きつつ相手の言う『バカ』が誰か少し考え、恐らくは自分にここで待つように言った金髪の男のことであると気付き応える。


「いえいえ……! 大丈夫です!  それどころか、大通りで襲われそうになったところを助けていただいたんです!」


 店員であろう金髪の男に迷惑を掛けられなかったか? という問いに、それどころか危険な状況から救ってもらったと応える女性。


 そんな返答に、緑髪の女は【相変わらずお人好しな野郎だぜ……】といつもの事ではあると思うも多少金髪の男に感心したような様子を見せつつ、話を続ける。


「そりゃァどうも……アイツはどうも抜けてるんで、何か失礼なことを言ッてねェか心配になッちまッて」


「それで、今日はどういッたご要件で? 見たところお嬢さん……車両整備ッてクチじゃァなさそうですが」


 ある程度女の見せた優しげな態度に、多少先程までの緊張が和らいだ女性に今回訪ねてきた理由を問う。


 あくまでもここは『自動車整備店』だ、通常であればここに訪ねてくる客は車やバイクなどの車両整備の話を持ち込んでくる。


 だが、女性はそんな様子ではない。


 そもそもこんな治安最悪な無法地帯の自動車整備店にわざわざ尋ねる必要もないくらいに身なりが整っている。


 そうした要因から、どういった要件でここを訪ねてきたのかを緑髪の女は女性へ問う。


「あ……えっと、あの……実は」


 丁寧に理由を問う女へ多少吃りつつ、要件を伝えようとする女性だったがそれを遮るように事務所からガレージにつながる扉が音を立てて開き金髪の男が入ってくる。


 額には、先程緑髪の女にスパナをぶつけられて出来た傷を庇うために絆創膏が貼られている。


「飲み物持ってきましたよ~、お姉さん炭酸水しかないんだけど大丈夫? あねさんはウィスキーで良かったっすか?」


 金髪の男は、手に持った飲み物の瓶とグラスを来客用のテーブルに配置しつつしゃがみ込むと女性に炭酸水で良かったかと聞き、女性が小さく頷くのを見ると栓抜きで爽快な音を鳴らしながら瓶を開け中に入った炭酸水をグラスへと注ぐ。


 そうして女性への飲み物を注ぎ終わった男は、次は緑髪の女の飲み物を注ごうと丸氷の入ったガラス製のタンブラーを用意しウィスキーのボトルを開けて注ごうとするが、それを緑髪の女が制す。


「……オマエ、アホか? どォこォに、客人の前で酒ェ飲むヤツがいンだクソボケがァ」


 そのまま、金髪の男の首根っこを掴んだ女は客人の前だからか笑顔は保ちつつも額には青筋を浮かべて歯を食いしばり、大声は出さないものの口汚く男へ怒りを露わにするが。


 女性が自分たちのやり取りを見て焦った様子を見せ始めたため、すぐに男の首根っこから手を離し、軽くため息を付きつつ男へとウィスキーを注げと言わんばかりにタンブラーを眼の前へと突き出す。


 男の方はと言うと、女に殴られなかったことを安堵しつつ突き出されたタンブラーに琥珀色の液体を注ぎ、急いで瓶を片付けて立ち上がって緑髪の女が座るソファの脇へと控える。


「……ハァ、すいませんね……」


 女はそんな男の様子に、更に深くため息を吐いて呆れるが気持ちを切り替えたのか女性に小さく謝罪をしつつタンブラーに入ったウィスキーを軽く口に含んで味わうと先程の質問の続きを聞く。


「さて、要件を聞きましょうか」


 そうして、一連のやり取りが一段落したことで女性は【結局お酒飲むんだ……】と相手の行動に少しばかりの疑問を覚えつつ先程伝えようとした『要件』の続きを話す。


「えっと、実は店長さんに頼みたいことがあるんです……」


 女性の話す『要件』を聞いていた女は、突然何かに気付いたように相手の話を手で制す。


「そういやァ、自己紹介がまだでしたね 話をするならまず先に名乗ッた方が色々楽でしょう」

 

 女は、女性の『要件』を聞く前に名乗りだけしておこうと言いつつ自己紹介を行う。


「アタシは、ジャネット ジャネット・ダルカニアです、よろしく」


 そうして彼女は、自らの名を『ジャネット』と名乗り脇に控えていた金髪の男にも自己紹介を促すように視線を向ける。


 その視線に気付いた男は、急いで名乗る。


「あっ! えっと、俺はリョウタ リョウタ・オザワです!日本人っス!」


『リョウタ』と名乗った男は、名前だけでなく出身まで明かす。


 男の自己紹介に、【出身はどうでも良いだろうが】と小声で指摘する女だったが、女性の方が口を開いたためすぐに黙り。


「えっと、私はリーナ・ムーアです! 出身はアメリカで、ニ……NY。最近イースタン・ヒルズに引っ越してきました!」


 女性は『リーナ』と名乗り、男が出身地を明かしたため自分も明かしたほうがいいのかとニューヨーク出身でかつ最近この『ジャンクヤード』の東地区、比較的治安が良い区画の『イースタン・ヒルズ』に住んでいると話す。


 相手の余計な出身地と居住地の開示に、オマエのせいだぞと言わんばかりにリョウタの方を睨んだジャネットだったが、成る程確かにこの整った身なりは世界的な大都市であるニューヨーク出身者ならよく分かると納得する。


「よろしく、リーナさん……さて、何度も話を遮ッてすみませんね……続きをお願いします」


 一通り自己紹介を終えたことで女性の『要件』も聞く態勢が整ったと言わんばかりに2度も話を遮ったことを謝りつつ続きを促す。


「はい! ……えっと、実はジャネットさんに頼みたいことがあるんです」


 リーナは、相手に促されやっとここに尋ねてきた理由を話し始める。


 そして、次のリーナの言葉を聞いたジャネットは先程までの物腰柔らかな態度をやめることとなる。


「……自動車整備『じゃない』ほうの仕事を頼みたいんです」


 前述した通り、ここは自動車整備店であり大半の客は自分の愛車を持ち込み修理や改造を依頼する。


 しかし、リーナの言う『要件』は自動車関係の依頼ではないと言う。


 その言葉に、ジャネットは何かしらの心当たりがあるのかゆっくりとソファに背を預け体重を掛ける。


「……久々のご新規さんかと思ったんだがなァ……アンタその言葉の意味がよォく分かッてここに来てンのか?」


 唐突な態度の変化と女性へと投げかけられる質問。


 先程までの口悪くも丁寧な物言いではない。


 敬語ではなくタメ口で放たれた言葉。


 ジャネットは極めて冷静な様子でリーナへと問い掛ける、その声色は重く部屋の中に空気に緊張感を生む。


 ソファの横に控えるリョウタはそんな二人のやり取りを静かに見守るものの、少し身構えるように成り行きを注視する。


「……は、はい……よく分かってます……!」


 リーナは唐突な相手の様子の変化に一瞬【何のことか】と戸惑う様子を見せるものの、とりあえず言葉を詰まらせながらも答える。


 彼女の返答を聞いた、ジャネットは再びソファから背を離して先程までの優しげな様子を取り戻す。


 だが、敬語はやめた上その目には先程にはなかった真剣な様子が見て取れる。


「ンじゃァ、詳細を聞きこう……『何を』して欲しいンで? リーナさん」


 ジャネットは、相手の目を見据えるように目線を合わせ『要件』の詳細を求める。


 詳細を求められたリーナは、未だ真剣なジャネットの様子に緊張しつつ話を続ける。


「……私の父の、形見を取り戻して欲しいんです」


 リーナの言葉に、ジャネットは片眉を上げて反応する。


「形見?」


【父親の形見を取り戻して欲しい】というリーナの言葉に、どういうことかと疑問を持った彼女は疑問を口にする。


 そんなジャネットの疑問に、軽く頷きつつリーナは答える。


「はい……私の父が遺したペンダント、それを取り戻して欲しいんです」


「私の家族は私を含めて父と母、姉の四人なんですが……三人共私の小さい頃に事故で居なくなってしまいまして」


 過去を思い出し、悲しげな様子でリーナは語る。


「それで、父が遺したのが件のペンダントなんです」


 幼少期に事故死した家族の中で、唯一父親のみが彼女に遺した『形見』。


 それが今回ジャネットに何者かから取り戻して欲しいという物だという。


「……取り戻して欲しいッてェのはどういうことだ、奪われたのか?」


 敬語を忘れ、抱いた疑問を言葉にするジャネット。


 相手が口にした疑問に頷きつつ答えるリーナ。


「はい、金隆會こんりゅうかいという人達に……」


金隆會こんりゅうかい』。


 その名前を聞いたジャネットは何故自分の元に相手が話を持ってきたのかを納得する。


「その人達は、最初父の仕事仲間を名乗っていて……仕事に必要だとかで、ペンダントを渡すよう要求してきたんです」


「でも、その……宝石とか貴重な金属とか何も使われてないような本当に普通のペンダントなので、ちょっと怪しいし、大切なものですから最初は断ってたんですけど……」


 話を続けるリーナは、左腕をゆっくりとさすりながら説明する。


「先日、突然私の家に押しかけてきて……そのペンダントを奪っていったんです」


 一人の女性を、複数人で襲い何かを強奪する。


 どう考えても強盗である。


 横で話を聞いていたリョウタは、強盗ならば警察にでも届け出ればいいのでは?と疑問に感じ会話に割って入る。


「あのー、それなら警察とかに話しつけたほうがいいんじゃないスか? 明らかに強盗事件じゃないすか」


 会話に入ってきたリョウタの疑問に、リーナは当然の質問だと言った様子で頷きつつもそう単純な事でも無いと話す。


「私も最初は、警察の方にお話を持ち込んだんですが……『金隆會こんりゅうかい』の話をすると、急に態度が変わって相手にされなくなってしまって……」


 警察とグルなのか、それともそれだけ危険な組織なのかどちらにしろ警察の異常な対応に届け出が出来なかったと語るリーナにリョウタは『そういうことかぁ』と複雑な表情を見せつつ納得すると、勝手に会話に入ったことをジャネットへと軽く頭を下げて謝るとすぐにソファの横へと控え。


「……まァ、そりゃそうだろうなァ……『金隆會こんりゅうかい』はウェスタンがホームのヤクザ気取りのファッ◯ンチャイニーズ共だ、極力警察も関わりたくねェんだろ」


「しかも個人規模の強盗事件なんざこの島じゃァ日常茶飯事だしよ」


『ウェスタン・ストリート』は警察などの治安維持組織が機能しない無法地帯だ。


 そのため、他区画ならともかくそこを本拠地とするようなマフィアなどの犯罪組織は高い資金力と武装で他の地区で活動する警察ですら気軽に手を出すことができないのだとジャネットは語る。


「え、姉さん……その『金隆會こんりゅうかい』っての知ってるんスか?」


 ソファの横に控えていたリョウタだったが、ジャネットのあたかもリーナの言う『金隆會こんりゅうかい』を知っているかのような物言いに思わず話し掛けてしまう。


「最近盛り返してきた奴等で、ジャパンのヤクザの真似事をしてるが構成員の殆どがチャイニーズらしい」


「ウェスタンの中じゃァ新参だが、規模で言えば色々と他の組織を取り込んで勢い付いてるみてェだな……ゲートウェイでよく金ェ巻き上げてんのをよく見るじゃねェか」


 ジャネットの話では、最近になって台頭してきた新参の犯罪組織でありながら規模はそれなりに大きく最近では表通りの『バッド・ゲートウェイ』で露天商や通行人、他のマフィアへみかじめ料と称して強請りを行っているのをよく見掛けると話す。


 相手の説明に、【確かにそんな連中が最近増えてるな】と思い出しジャネットがその『金隆會こんりゅうかい』を知っていることに納得する。


「まァ、ンなことはどうでもいいだろが それよりリーナさん……警察に届け出れなかったのは分かるが、なンでウチにその話を持ッて来たンだ?」


 リョウタの疑問に応え終わったジャネットは、話をリーナの『要件』へと戻し、改めて何故奪われた『形見』を取り戻すという依頼を自分の元へ持ってきたのかを問う。


「それは……私の担当をしてくださった警察の方が」


【この件に関して、我々は何も出来ませんが……もし本気でお父様の形見を取り戻したいのなら、非常に不本意ではありますがこの住所にいる人を訪ねてみてください ただし、そうなればリーナさん……貴女に何があっても我々警察は手助けすることができませんのでそこはご理解いただきたい】


「……とここを紹介してくれたんです」


 警察から紹介を受けたと話すリーナは、ジャネットの自動車整備店の住所が走り書きされた小さな紙切れを取り出して見せる。


 その紙を見たジャネットは、再び大きくため息を吐くとグラスに入ったウィスキーを一気に飲み干し。


「クソサツ野郎が、テメェで片付けれねぇ案件を回すんじゃァねェよ……」


 そうして、勢いよくグラスをテーブルへ置いた彼女はゆっくりと顔を上げ。


「事情は分かった……だがもう一度聞くぜ、リーナさん……アンタはアタシに依頼するッてのがどういうことか分かッてんのか?」


「アンタは今、犯罪に片足突ッ込んでるッてンだ……それをよーく分かッてンなら話を先に進めようぜ」


 ジャネットが口にした『犯罪』という言葉に、身体を強張らせるリーナ。


 先程のジャネットの【意味がわかっているのか?】という質問に取り敢えず【分かっている】と答えた彼女だったが、想像以上に複雑なことになっていることに今更気づいたのか視線を彷徨わせ始める。


「は……犯罪って、確かに相手は危ない人達……ですけどなんとか話し合いとかで取り返すとか……」


 予想の斜め上のジャネットの言葉に、焦ったリーナは『話し合い』での解決を望んでいることを伝えるが、それに被せるようにジャネットが言う。


「そりゃァ無理だな、話し合いッつ~のはマトモな人間同士がやる茶番みてェなもんだ……そこには互いに利害が一致する必要がある」


「だが、今回は違ェよな……アンタは『金隆會こんりゅうかい』に利のあるだけの交渉材料を用意できンのか? そもそも強盗をするようなクズどもが話に応じるはずもねェ……つまりは、取り返すなら穏便には済まねェンだ少なくとも奪い合いになるこたァ避けられねェだろうな」


「しかも、アンタはただのペンダントだッて言ッてたが……ンなモンをわざわざ奴等が強盗してまで奪おうなんて思わねェだろ? つまりはその『形見』には『何か』がある……明らかに面倒なことになるぜ」


『話し合い』とは即ち『交渉』。


 互いに利害が一致し、譲歩し会えるだけの対等な関係と交渉材料があってこそ成り立つものだとジャネットは言う。


 リーナに『形見』を取り戻すだけの強力な交渉に使えるカードがあるならばまだしも、強盗をする必要があるほど重要な『形見』を話し合いで取り戻せる可能性は一切無く、もし取り戻すならば『奪い合い』つまりは相手方が行った強盗と同じように『暴力』に頼る必要があると話す。


「……それは…………そんな、それこそ非現実的じゃないですか だって相手は大人数だし、強盗してきた時には銃も持ってて……そんな人達に暴力で解決なんて……」


 自分が考えていた展開とは異なる状況に進みつつある現在に困惑を隠せないリーナは、話し合いよりも暴力に寄る強行突破の方が無理難題であると少しばかりズレた反論を行う。


 そんな反論にジャネットは、淡々と答える。


「……少なくともリーナさんアンタの言う『話し合い』よか現実的だぜ、というかアタシはソッチのが得意分野だ」


「サツも言ッてたンだろ? 『非常に不本意』だッてよ……アタシが『話し合い』で解決するような奴ならンなことは言わねぇし、そもそもサツがアンタの頼みを断る理由もねェ」


 さらっと犯罪行為が得意分野であることを明かしたジャネットは、リーナの『形見』を取り返すにはもう『話し合い』でなく『暴力』を使うしか無いことを諭すように伝える。


 その言葉に、リーナは萎縮したように俯き自分が今眼の前の相手に何を頼んでいたのかを理解して考え込む。


「やッぱり分かッてなかッたじゃァねェか……リーナさん悪いことは言わねェこのまま帰ッて日常に戻りな、アンタにとッてその『形見』ッてェやつがどれだけ大切かは知らねェ……だが間接的にでも犯罪に関わりゃァもう後戻りは出来ねェぞ」


「……それでもッてンなら引き受けてやる、面倒事にゃァ慣れてるからな、だがその時は『覚悟』してもらうぜ今までの日々には戻れねェ『覚悟』ッてヤツをな」


 ジャネットへの依頼するということは即ち『強盗』やそれに近い『犯罪』の代行依頼だ。


 間接的にでもそういった仕事を依頼するということは、リーナ自身もその手を黒く染めることを意味する。


 そうなればもう普通の日々に戻ることは出来ない。


 どれだけ痕跡を残さずジャネットが無事に依頼を終わらせたとしても、犯罪に加担したという事実は依頼主であるリーナについて回り、報復か、はたまた別の案件か、とにかく何かしらの犯罪に再び巻き込まれる危険性がある。


 だからこそ、ジャネットは自分に依頼するならば『覚悟』を決めろと伝える。


 対面するジャネットの鋭く真剣な表情と、厳しい言葉にリーナは俯いてしばらく考え込んでいたが気持ちが決まったのか顔を上げ。


「…………あのペンダントは、家族の居ない私に唯一残された希望なんです……私が今まで生きてこられたのはあのペンダントが……『形見』がいつも家族を思い出させてくれていたからなんです」


「あれが無いと私に『日常』はありません……だから、もし犯罪に手を染めることになったとしても私は!」


 自らの想いを口にするリーナ。


 たとえ犯罪に手を染めることになっても、自分の家族の代わりとも言える唯一の『形見』を取り戻して欲しいと伝えようとした彼女だったが、唐突にその言葉の続きをドアの激しいノック音が遮る。


(―――― 来やがッたか。)


 激しく叩かれたドアは、事務所から廊下を挟んだ場所にある玄関でありこの自動車整備店に客が尋ねてくる場合に使われる所謂来客用の扉。


 だが、客人が尋ねてきたにしては強く何かしらの敵意を感じるほどに激しいノック音に事務所内の空気に緊張が走る。


 そうしていきなりの出来事に困惑したリーナを残し、ジャネットはソファから立ち上がり横に控えて立つリョウタに対し目線で何かを合図するとリョウタは小さく頷きリーナの元へ近づく。


「リーナさん、アンタの気持ちは良ォく分かッた……だがな、『覚悟』がまだ足りねェと見える」


「今から起きること……アンタが今からどんな世界に足を踏み入れようとしているのか、よォく目に焼き付けてまだその『形見』ッてェのを取り戻す手伝いをして欲しいッてンなら……いくらでも協力してやるよ」


 立ち上がり、玄関の方を向いたジャネットは困惑した表情を見せるリーナへと顔だけ軽く向けて話す。


『覚悟』を問う。


 今から起きる出来事を見届けてなお、彼女が自分達への協力を求めるならばそれを無下にするつもりはないと言い、笑う。


 ただし、リーナへと最初に見せた優しげな笑みではなく――何とも愉しげでありながら、凶悪さを感じさせる恐ろしい笑顔だ。


 その笑顔を見たリーナは、思わず小さく声を漏らすがすぐに気持ちを整え今から起きることへと意識を集中させる。


「リーナさん、自分の側から離れないでくださいね あねさん……毎度ちょっとやり過ぎるんで」


 リーナの側へとついたリョウタは、自分の側から離れないようにと忠告する。


 そして、これから起こることを見届けようとする彼女へと言葉を掛ける。


「正直俺は……止めといたほうが良いと思います。でも、リーナさんも気持ちも分かるんスよね……俺も親も兄弟もガキの頃に亡くしてるから」


「家族は大事っスよね、人生を支える大事な柱みたいなもんだ……だからまぁ、俺にはアナタを止める資格はない」


「姉さんも多分……同じ気持ちなんだと思います、だからしっかり考えて選んでください……姉さんの言う『覚悟』が決まったなら協力は惜しみませんから」


【ヘヘッ】と気恥ずかしそうに笑いつつ、横で二人の話を聞いていたリョウタは自らの想いを伝え。


 後悔の無い選択をするよう彼なりの言葉で伝える。




*3




「……言うじゃねェかリョータの野郎」


 一方玄関へ向かうジャネットは、後ろでリーナへと励ましの言葉を伝えるリョウタに対して感心しつつ眼の前に迫る扉を睨む。


 愉しげながらもどこか狂気を感じさせる笑みを浮かべ、これから起こることへの高揚感を抱いて一歩一歩と足を進める。


 血腥い『予感』がする。


 よく知っている感覚だ、この街にいればいつでも感じる『死』の予感。


 眼の前のドアの向こうからはそんな雰囲気が強く感じられる。


「ただしそれはよ……アタシの『死』じゃァねェがな」


 扉を開ける。


 そこに居たのは、明らかに一般人ではないガラの悪い男達。


 ざっと6、7人程だろうかそれぞれの手には鉈やバットなどの近接用の凶器から拳銃や小銃などの明らかに脅迫する気マンマンですといった武器が握られている。


 先頭に立つスキンヘッドの強面で大柄なスーツの男が口を開く。


「オマエが、ジャネット・ダルカニアか? ちょっと聞きてぇんだがよ、この女がテメェのとこに来てねぇか?」


 男は懐から一枚の写真を取り出すとジャネットの眼の前に突き出す。


 そこには、どこかで盗撮でもしたのか穏やかそうな笑顔を浮かべ友人と談笑するリーナの姿が映されている。


 その写真を見たジャネットは、何のことか分からないといったような少し相手を小馬鹿にしたような顔を浮かべ。


「知らねェなァ~、誰だァソイツ? ンでなんだテメェらは、物騒なモン持ち出しやがッてそれが人様に物を尋ねる態度かよ」


 煽るように、相手を軽蔑した目で見つつわざと語尾を伸ばしてバカにしたような喋り方で『知らない』と答えるジャネット。


 男たちは彼女のそんな態度が鼻につき、顔を顰めて威圧的な態度を強める。


「……俺達が誰だか分かってんのか? 『金隆會こんりゅうかい』だ『金隆會こんりゅうかい』。最近この辺を締めさせてもらっててよぉ、適当言わねぇ方がいいぜ? 痛い目に合いたくねぇならよぉ」


 高圧的に語る男は、額に青筋を浮かべているものの組織としての体裁を保つためか、直ぐに手は出さず『金隆會こんりゅうかい』の名前を出し脅迫を始める。


 そうして凄む男に、ジャネットは一ミリも怯むこと無くヘラヘラと笑い。


「テメェらがどこのどいつだとか知らねェよボケが、痛い目に遭いたくねェだァ? ンの言葉ァソックリそのまま返してやるぜ、さッさと後ろのグズども連れて消え失せろ 死にたくねェならな」


 挑発的な態度とセリフ。


 傍から見れば、女一人対男七人の圧倒的に不利に状況。


 そんな危険な状況でも少しも臆すること無く相手を馬鹿にしたような態度を取るジャネットの瞳には、一抹の狂気。


 軽薄そうであるにも関わらず、重くのしかかるような殺意が感じられる彼女の声と表情に、男は少したじろぐ。


 しかし、相手に愚弄されたことへの怒りが勝る。


「舐めやがって、クソ野郎がぁ!! 上等だぜ、女一人で何ができるってんだぁ!?  ブッ殺してやるよ!」


 響き渡る男の怒声。


 手に持った写真を怒りのあまり握りつぶし、取り出した拳銃をジャネットの額目掛けて発砲する。


 野太い怒声に続いて響く乾いた銃声。


 この『ジャンク・ヤード』では幾らでも聞くことのできるチープな効果音。


 火を吹く銃口から放たれた鉛玉は、ジャネットの眉間目掛けて音の壁を越えて撃ち出される。


 この絶望的な状況に、ジャネットは心底楽しそうに笑うと舌先が割れた所謂スプリットタンを見せて舌なめずりをすると彼女の目は撃ち出された銃弾をハッキリ捉え。


「舐めてンのはテメェだろうがよォ、ビスケット小さい銃程度でアタシが死ぬわけねェだろうが」


 銃弾はジャネットの額を貫通することはなく、彼女の派手な緑色の髪を掠め床へと突き刺さる。


 至近距離で撃ち出された弾丸を避ける離れ業、最高速に到達していないとはいえほんの一瞬にして音速を優に超える鉛玉を首を軽く傾げることで回避した彼女は、未だどこに着弾したかも理解できてない男の懐に人間離れした踏み込みで近づくと拳を握り込み。


「まァ安心して死んどけや、お仲間もすぐに送ッてやるからよォ」


 右フック。


 常人に当たれば内蔵ごと叩き潰すことができるのではないかと思えるような一撃が、男の左脇腹へと放たれる。


 見事に肋骨や本来守られているはずの肝臓や腎臓、腸などの内蔵までを突き潰し、横方向へと男の大柄な身体を殴り飛ばす。


 殴り飛ばされた男は、口と鼻から尋常ではない血を吐き散らし10mもの距離を吹き飛ぶと頭から激しく身体を打ち付けピクリとも動かなくなる。


「ンだよクッソ雑魚じゃァねェか……これじゃァ楽しむモンも楽しめねェぞ」


 殴打一撃での絶命、恐らくは殴られた瞬間の衝撃でショック死でもしたのだろう力なく投げ出された男の手足と地面に流れ出る鮮血を見た他の男達は、一瞬事態を理解できないといった驚愕の表情を浮かべるが。


「なっ……何しやがるクソ女ぁ!!!」


 仲間が殺されたことを理解した男達は叫び、仲間が殺されたことに対する怒り半分眼前の人間離れした一撃に対する恐怖半分といった様子で、ジャネットへと襲い掛かる。


 一人は手に持ったナタで、一人はバットで、一人は拳銃で、一人は小銃で、様々な武器を構えると。


 男たちそれぞれが彼女へと攻撃を開始するが。


「遅ェよ、喚く暇ァあンならアタシの頭ァブチ抜きに来いやァマヌケ」


 すでに目の前から相手が姿を消していることに気付いた時にはもう遅く。


 武器の関係から一番後方に控えていた小銃を携えた男の近くから声が聞こえたかと思うと男の視界が真っ赤に染まる。


 身体にかかる凄まじい力に膝をつく。


 次いで襲い来る激痛、頭を圧迫されているような――否頭を握りつぶされるような激痛が襲い。


 男の頭が弾け飛ぶ。


 ジャネットの両手に掴まれ、まるで風船でも潰し割るかのように握りつぶされた男の頭は粉々に砕けて飛び散り、大量の血液と脳漿が辺りへ飛び散る。


 それは当たり前にジャネットの顔や腕、服にも飛び散りべったりと血と肉を浴びる。


 そして彼女は、頭の上半分が無くなりダランと投げ出された男の手から小銃を奪い取ると血に塗れた顔に狂悪な笑みを貼り付けて間髪入れずに他の男達に向かって撃ち放つ。


「HK433たァいい銃を使ッてるじゃァねェかァクズ共ォッ!!」


 心底楽しそうな笑い声を響かせながら、フルオートで大量の弾丸を男たちに浴びせる。


 壁に、地面にそして男達を貫いて引き裂き、土埃と大量の血液を撒き散らしながら展開される凶弾の嵐は一部、玄関の開け放たれた扉を通って廊下の向こう、事務所へと数発の流れ弾が飛ぶ。


 その鉛玉達は、事の成り行きを見守るリーナやリョウタの至近距離に着弾し、その中の一発はリーナの頬を掠めその白い柔肌に一筋の赤い傷を付ける。


 一瞬何が起きたのか理解出来ず固まるリーナだったが、震える手で頬を触り血と痛みを感じると一気に恐怖が湧き上がる。


 先程まで対面し、話をしていた人物が巻き起こす尋常でない凶行。


 確かに殺人現場や、恐喝、恫喝をする現場はこの街に住んでいれば幾つか見てきた。


 それだけこの街は危険な場所であり、彼女もソレは理解していた。


 だが、眼の前で繰り広げられる殺戮としか形容できない惨状とその中で楽しそうに笑い上げるジャネットの様子に自分が一体誰に、何を頼もうとしていたのかを、その真の意味を理解する。


「ちょっ……姉さん! マジで危ねぇですよ!! 弾ぁ当たったらどうすんスか!?」


 側に着いていてくれたリョウタは、ジャネットが放った流れ弾に驚き声を上げて抗議はしているもののその様子は別に恐怖や焦りからくるものはなく、いつもの事のように慣れたやり取りでもするかのような口調で。


 そんな彼の様子を見たリーナは、ジャネットだけではなくこの側にいる男でさえも――いや、ここにいる自分以外の全員が、強盗や殺人が当たり前暴力で塗れた世界で生きていることを痛感する。


 そして、世界は紛れもなく自分が先程踏み入ろうとしていた世界なのだ。


「るせェなァ、だからテメェをソッチに残したんじゃァねェか……しッかり守れよォ、まだそのお嬢さんの『答えアンサー』を聞けてねェからな」


 1マガジン分全てを撃ち切ったジャネットは、残っていた男たちが全員動かなくなっていることを確認するとリョウタからの抗議に言葉を返しつつ、ポケットから取り出したタバコに火を付けて一服する。


 だが、休む暇もなく銃声を聞きつけたのか今はもうピクリとも動かない肉塊とかした男達の仲間が援軍として武装し、大勢で向かってくる音が路地に響く。


「結構な大所帯で来たモンだなァ……一服する暇もねェ」


 大勢が全力で走り向かってくる音を聞いたジャネットは、恐れるどころか更にまだ遊べるのかと言わんばかりに愉しげに笑って口に加えたタバコを一気に吸い上げる。


 一気にフィルター近くまで吸いきった彼女は口から大量の煙を吐き、使い物にならなくなったタバコを捨てると玄関の方へと視線を向け、真っ直ぐにリーナの目を見る。


 恐怖で固まっていたリーナは、その鋭く凶暴な目と目が合い息を呑む。


「しッかり目ェ焼き付けたかよリーナさん……いや、お嬢ちゃん」


「テメェが頼もうとしたのはこういう事だ、踏み入れようとした世界はこういうモンだ」


 笑いながらジャネットは続ける。


「人の命なんざゴミ以下で、強えやつが雑魚を轢き潰すのが当たり前のクソッタレな地獄……そういう場所にアンタは来たんだぜ?」


「今ここで決めろ、進むか? 退くか? アンタ自身で決めろ、リーナ・ムーア!!家族との『思い出』か、今ある『日常』か、進むも退くも失う物はあるンだぜ!!」


「『心』を決めろ!!」


 選択を迫る。


 自分の人生を支えた家族との温かな『過去』か、その過去を奪われ路頭に迷う『現在』か。


 そしてその問いに、リーナは。


(――お母さん、お姉ちゃん……お父さん、どこ……)


 思い出す、痛みに呻く身体を引きずり炎に包まれていく家族を消えかかった意識で見つめるしかなかった悲惨な過去の記憶を。


 そして思い出す。


(――やめてっ! 離し……あぐっ……!だめ……奪わないで、私から……父さんを、みんなを……)


 力でねじ伏せられ、自分の人生を支えていた唯一つ残る家族の『痕跡思い出』すら奪われていく無力さに血をにじませて嘆いた現在いまの記憶を。


 悔しい。


 何も出来なかった自分に腹が立つ。


 そして、自分が唯一安息を覚えることのできた『日常』を奪っていった『ヤツら金隆會』が憎い。


 その怒りが、悔しさが、彼女を叫ばせる。


『覚悟』は決まった。


「お願いしますッ!! あれは私の最後の希望なんですッ、私の日常を支えた大きな『柱』なんだッ! だから、だから……『日常』なんて幾らでもくれてやるッ! 『覚悟』なんて幾らでも決めてやるッ! だからお願いします! アイツらを倒して、私の『思い出』を取り戻してッ!!」


 少女は叫ぶ。


 目に涙を浮かべ、頬の痛みも眼の前の恐怖も全部忘れてただ自分のいちばん大切なものを決めて、それを奪い返すために。


「…………ハッ、いい返事だ」


 答えは得た。


『覚悟』は伝わった。


「リョウタぁッ!!」


 リーナの叫びを聞いたジャネットは先程までの戦いを楽しむ凶悪な笑いではなく。


 純粋にリーナの選択を喜ぶような、そんな明るい笑みを見せ。


「いい女連れてきたじゃァねェか、お手柄だな」


 戦いに一歩踏み出す。


 リーナの『覚悟』に応えるように。


 路地の向こうから現れた大勢のスーツ姿の男達に正面から対峙する。


 ざっと30人以上は居るだろうか、様々な武器を装備した屈強な男たちはジャネットとその周りに広がる仲間たちだった肉塊を見て怒りを露わにする。


「テメェ……クソビ◯チが、俺達の仲間を殺しやがったなぁ! これが何を意味するか分かってんのかぁ?」


『金隆會』率いる武装集団の内の一人、所謂若頭と思われる小綺麗なスーツに身を包みオールバックが特徴的な男がジャネットに怒声をぶつける。


 中国人特有の堀の少ない顔に小さい目が特徴的なその男は、顔全体で怒りを表現しつつ右手に持った拳銃を相手へ向け。


「ブチ殺してやるよ!! 俺達を敵に回したらどうなるか、教えてやるぜクソ女ァ!」


 唾を散らして怒鳴る若頭にジャネットは、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべると玄関の方、正しくはリョウタに向かって右手を突き出し何かを投げ渡すよう指示を出す。


「……! うっす、わかりました姉さん!」


 その指示で意図を理解したリョウタは、事務所内のデスクに立てかけてある薄汚れた包帯や落書きでめちゃくちゃな見た目の釘バットを掴むと全力でジャネットに向かって投擲する。


 勢いよく回転して真っ直ぐジャネットへと飛んだバットは、彼女の手の中にピッタリ収まり。


 釘バットを掴んだジャネットは、先程斥候に来ていた『金隆會こんりゅうかい』の構成員との戦闘で見せていた凶笑を深めると右手に掴んだバットをグルグルと回して左手へ移す。


 そして、ゆっくりと男たちに対してバットを真っ直ぐに突き出す所謂『ホームラン宣言』を行うと、肩へ担ぐ。


「ギャーギャーうるせェなァ……男が寄ッて集ッてあンないい女ァ泣かせやがッてよォ」


「ンなフニャ◯ン野郎のクソッタレ共にゃァ……殺戮劇スプラッタームービーがお似合いだぜ、気持ちィ程ド派手なヤツがよォ」


 衝撃が走る。


 ジャネットが放った凄まじい力の踏み込みで、路地やそこに立ち並ぶ建物が大きく震える。


 足元の地面は割れ潰れる。


 捲れ上がったコンクリートの破片が、ジャネットの周囲へと垂直に浮き上がる。


 あまりの衝撃に男たちは少しばかりバランスを崩してよろめくものの、すぐに態勢を整え一斉に武器を構え、近接武器を携えた者は走り出し、銃を持ったものは味方に誤射しないようにサイドへ広がり射撃を開始する。


「ブッ飛ぶぜ、気をつけろよ?」


 バットを振り抜き浮き上がった無数のコンクリートを乱打で打ち出すジャネット。


 打ち出された瓦礫たちはまるで弾丸のような速度で突き進む。


 そんな石の弾丸を打ち出すと同時に規格外の脚力で走り出したジャネットは、男たちが乱射したであろう銃弾に正面から迫るが。


 その全てが彼女の打ち出した礫に撃ち落とされ相殺されていく。


 そして、凄まじい速度で真っ直ぐに突き進むジャネットは近接武器を携え襲い掛かる男達と激突する。


「なッ……何がっ起きて……!?」


 次の瞬間には、最前線を走っていたバットを持った男の上半身が派手に弾け飛び周囲へと大量の血液と内臓であった肉片が散らばっていく。


 仲間の惨状にその場に居た殆どの人間が、一切気付いていない中若頭だけが先頭の男の無惨な死を目の当たりにしたのだが。


 気付いたときにはもう遅く、鼻先に迫るのは高速で振り抜かれる凶器。


 血に塗れ肉片のこびり付いた釘バット。


 そして、先頭の男を殺し跳び上がったジャネットの怪物の如き愉しげな狂気の笑顔。


 若頭の視界が黒に染まる。


 抉り取られるように頭の上半分が粉々になり空中を舞う。


「次ィッ!!」


 若頭の平べったい顔面を吹き飛ばした彼女は、地面に着地するとコンクリートに深々と足跡が残らんばかりの跳躍を見せると手に持ったバットを銃を携えた男たちへと全力で投擲する。


 電動ノコギリのような速度で回転し目にも止まらぬ速度で飛来すると数人の頭を轢き潰す。


 ジャネットの方はというと、路地の壁を強く蹴って地面へと跳ぶと投げつけたバットへと追い付き掴む。


 そのまま、跳躍した延長線上に居た男二人に突き進む勢いのまま蹴りを放つ。


 高速で飛来するバットに追い付ける速度により放たれた蹴りは、二人の男を穿つ。


 そうして、一気に三人もの人間を鏖殺したジャネットは、低い姿勢で着地し一息つくようにゆっくりと息を吐く。


 男達は、瞬く間に行われた蹂躙にようやく感覚が追い付き空中を舞う血や内蔵、頭や上半身が無くなった若頭や仲間達の死体、そしてそれを行ったであろう血に塗れ真っ赤に染まった化け物に目線を移し呆然とする。


「次だ」


 そう呟き、睨むだけで人を殺せそうな目線と笑みを眼の前の呆然とした様子の小男に向けると左手に担いだバットを一回転させ低く落とした姿勢のまま走り出す。


「ヒッ……」


 狙われた男は、我に返って小さく声を上げて武器を捨て逃げ出そうとするがもう遅く。


 気付けば既に逃げるための両足は無く、意識とは裏腹に視界は地面に向かって落ちていく。


 次に感じたのは、身体が上下に引き裂かれるような高熱にも似た激痛。


 そうした痛みに灼かれた男は、そのまま意識を失いショック死を迎える。


「歯ごたえがねェなァ……テメェらやる気あンのか?」


 小柄な男を上下に引き裂き、その遺体を道端へ放り投げて地面に落としていたバットを拾い上げつつ少しばかり退屈そうに男達へ問い掛けるジャネット。


 血塗れで、身体のあちこちに付着した筋繊維や脳髄、胃や腸のであったはずの破片が狂悪さを加速させる彼女の様子に男達は未だ圧倒的な人数差があるにも関わらず完全に戦う意思を砕かれてしまう。


 だが、逃げるにもジャネットが見せた規格外の瞬発力の前では確実に死ぬこととなるだろう。


 そう考えた男達は、せめてもの抵抗として各々の持てる力全てでジャネットへと襲い掛かっていく。


「クソっタレがぁぁぁぁ!!!!」


 雄叫びを上げ、めちゃくちゃにナタやバットを振り上げ、銃を向け乱射を始める男達の気迫は眼前に迫った明確な『死』の影響からか戦い始めよりも見違えるほど強くなる。


 男達の必死な様子を見たジャネットは、再び心底愉しそうにイカれた笑い声を路地へ響かせ。


「その調子だぜェ、それでこそ男だぜクズ共」


 バットを高く放り投げ拳を構える。


 弾丸が飛来する。


 男達の『必死』の思いで乱れ放たれた銃弾がジャネットの元へ。


 その鉛玉の数々を見て、まるで玩具を前にした子供のように笑う彼女は軽快にその場で何度かジャンプするとそのまま前方へ走り出す。


 先程までの力強い踏み込みとは異なる軽々としたステップで、走り銃弾と肉薄し。


 その無数とも言える凶弾の数々を身を捻り、翻し、跳び、弾幕の中に生まれる僅かな隙間を縫うように紙一重で回避する。


「ヒュウっ! ダメじゃねェかしッかり狙ッて撃たねェと」


 そうして弾幕を余裕の表情で切り抜けたジャネットは、左右から手に持った凶器で殴り、斬りかかろうとする二人の男へと意識を向ける。


 左手を頭上へ掲げる。


 先程放り投げたバットがその手に掴まれる。


 一発、二発。


 目にも止まらぬ速さの打撃が飛ぶ。


 一人はナタで、一人は金属バットでジャネットにせめて傷だけでもと玉砕する男達は、その特攻も虚しく文字通り砕け散る。


 まるで水風船のように、大量の赤と肉を散らして胸や腹といった急所がジャネットの規格外の膂力による打撃で抉り飛ぶ。


「ハハッ! マジで殺戮劇スプラッタームービーみてェだなァ!」


 次々と敵を屠り、血の雨を降らせたジャネットは次なる犠牲者を決めその破壊兵器とも言えるほどの力を振りかざす。




*4




「――凄い…………あの人ならきっと……」


 一方、自動車整備店の玄関から出てすぐの場所からジャネットの見せる虐殺を側に付き添うリョウタと眺めるリーナは呟く。


 これまでの日常を全て打ち壊すほどに衝撃的な景色が広がっていく。


 瞬きほどの速度で次々と壊されていく男達、舞い散り雨の如く降り落ちる鮮血、壁をカラフルにそしてグロテスクに彩る内臓の数々がリーナの過ごしてきた穏やかな人生を破壊し染め上げていく。


 彼女にはもう恐怖は無く、心の内に湧き上がるのは眼の前の凄惨でありながら美しくもあるスプラッター劇に対する感動。


「ウチの店長姉さんはスゲェでしょ、久々の『仕事』だからってあんな張り切っちゃって」


 リーナの隣で同じように戦いを見ていたリョウタは、嬉しそうに笑う。


「リーナさん、アナタの大切な『形見』は必ず俺達が取り戻してみせますよ! どんなヤツが来ようと、姉さんが敗けることはねぇですから」


 腕組みをして『フンッ』と自慢げに鼻から息を吐くと自分のことのように興奮してリーナへ心配はないと声を掛け。




*5




「さァてと……そろそろお終ェか? 随分エキストラが安ッぺェ茶番だッたが、派手にブチ殺されるモブ役としちゃァ悪くなかッたぜ?」


 全身にべったりと血を浴び、釘バットには腸の切れ端や敵だった者達の肉片をこびりつかせ愉しげにそう話すジャネットは、残り5人足らずとなった男達へと言葉を掛ける。


「……なんなんだよぉオマエ……化けモンが、マジでなんなんだよ!! クソビ◯チがぁ!!」


 一瞬にして武装した屈強な男達数十人を鏖殺し、息切れ一つ見せないジャネットを『化け物』と評し今にも失禁しそうな腰抜け状態で睨む男達は、逃げることも叶わない今の状況に絶望しつつも最後に僅かばかり残ったプライドに縋り付き震える手で武器を構える。


 そんな男達の様子にジャネットは、特徴的な先が割れた舌を見せて口元に付いた血を舐め。


「ここで逃げねェたァ中々根性あるじゃァねェかよ、それとももう諦めたかァ? まァ、どッちにしろ死ぬことに変わりはねェがな」


「何者なんだよテメェは……あの女のなんなんだよ!」


 絶望的な状況の中でガタガタと足を震わせて恐怖する男達の内の一人は、離れた場所で戦いを見るリーナを指差しジャネットにどんな関係なのかを問う。


 その質問に当のジャネットは、顎に手を当てつつ少しの間考え答える。


「客でもあるし、アタシが認めた女さ……ンないい女に手ェ貸さねェ訳にゃァ行かねェだろ?」


 ニヤッと歯を見せて笑う彼女は、チラッとリーナの方を見やり『いい女』だと言う。


 そうしてゆっくりと左手の釘バットを回しつつゆっくりと残りの男達に向かって歩いていくジャネットは、右手で【かかってこい】という意味のハンドサインを出し。


 相手の挑発に呼応するように男達は再び攻撃を開始する。


 そのうちナイフを突き出して攻撃したパーマヘアーが特徴的な男の右手首を掴んだジャネットは、指先に力を込め男の手首の関節を外す。


「グァっ……クソッ!」


 情けない声と共に手放されたナイフを男から手を放して掴むとそのまま男の喉元へと投げ放つ。


 投げ放たれたナイフは、関節を外され激しい痛みに苛まれる右手首を抑える男の喉仏に深々と突き立つと口からは噴水のように痰と血の混じった液体が吹き出される。


「一気にいくぜェ~?」


 自分が投げ放ったナイフに続くように地面を蹴って進んだジャネットは、喉に突き刺さったナイフの柄を握り込むと真上に引き上げ男の首から顎、頭の先まで一直線に裂いて引き抜く。


 そして、引き抜いたナイフを逆手に持つと残りの四人の内二人へと近い順に切り裂く。


 一人は脚を、もう一人は口から刃を入れて後頭部まで一気に引き切って殺す。


 だが、頭蓋骨を鋭く切り裂いたナイフは流石に刃毀れを起こしそれに気付いたジャネットはナイフを捨てて、左手の釘バットを振り。


「これで終わりだな」


 先頭の終了を余裕に告げると構えた銃ごと残り二人の男を同時に巻き込みながら殴り飛ばす。


 殴り飛ばされた男達の身体は、真っ二つに折れ曲がり派手に吹き飛ぶと一発で絶命したのか動くことはなく。


「……ふゥ、数ばッか多くて弱えェ連中だッたなァ……まァ、逃げ無かッたのは評価できるがねェ」


 短く息を吐き、血塗れの手でポケットから紙タバコの箱を取り出したジャネットは一本タバコを咥えると丁度最後の一本だったのか箱を握りつぶすと放り捨て。


 そのままライターで咥えているタバコに火を付け一服する。


 そうして煙を吐きながらゆるりと自らの手で殺し散らした敵の死体を見回すと先程最後に、両脚の腱を全てナイフで切り裂いたドレッドヘアーの派手めなストライプが入ったスーツの黒人男が、大量の出血と痛みで呻き泣いているのが目に入る。


「グッ……ゥう、クソ……クソッタレが血が止まらねぇ、痛ぇよぉ……」


 もう立って逃げることも叶わず、だからといって最後の反抗に出ることも出来ず、極度の恐怖でプライドも何もかもがズタズタに傷付けられた男にジャネットはゆっくりと近付いていき。


 男の首根っこを捕まえると壁へ投げ飛ばす。


 投げ飛ばされた男は、情けない声を上げて背中から壁へと激突し、衝撃で口からは血を吐き出して地面へとへたり込む。


「……テメェを生かしておいたのは、まァ分かッてるたァ思うが、聞きてェことがあるからだ」


「チャイニーズは狡くて頭のワリィクズばッかだが……意外と身内同士の結束は固くてよォ、命が掛かッた場面でも仲間を売るような事はしねェンだな」


「オマエみてェなブラックが居るのは珍しいンだよなァ……まァ、つまりはテメェなら色々聞きやすいンじゃァねェかと思ッた訳だ」


 壁に寄りかかり、へたり込んだ男の顔の真横に左足を置き顔を覗き込んだジャネット。


「……ッ……お……俺がそう簡単にべらべら話す、と思うのかよ……っがぁっ!」


 深く殺意の籠もった視線を浴びせ、脅すような形で尋問を行う相手にせめてもの反抗なのか痛みに呻きながらも情報提供を拒む黒人男だったが、ジャネットがそんな男の脚の傷に左手から右手に移した釘バットを押し当て力を込める。


 じわじわと掛かる力に、激痛を覚え血を吐きながら叫んだ男は大量の脂汗を流して。


「ンなクズ共の為に身体ァ張るこたァねェだろ?」


「まァテメェが喋られねェならこうして長ァ~く痛めつけて、じわじわ殺してやッてもいいンだが……」


「アタシも短気でなァ、それにオマエ……コイツらの身内ッて訳じゃァねェだろ」


 男の脚に当てたバットの力を弱めること無く、タバコの煙を吐きながら話をするジャネットは黒人男が今では路地にこびりつくシミに成り果てた『金隆會』の面々の正式な仲間では無いのではないかと指摘する。


「今回襲ッて来たのは殆どがチャイニーズだッたが、ちらほらオマエみたいな欧米顔も見えたんだよなァ……人数合わせかどうか知らねェが、多人種を見下して排除するのが大~好きな猿共がそうそう簡単にアタシら西洋人を受け入れる訳がねェ」


 男は、相手の物言いに疑問を抱く。


「……何が、いいてぇんだ…? ぐっぅ……」


 ジャネットの推理を聞いた黒人男は、偏見塗れで明確な根拠という根拠は存在しない意見ではあるものの、あながち間違いでもないのか少し目を伏せる。


「図星か? まァ、何が言いてェのかッてェ~とだなァ……オマエの知ッてる『金隆會こんりゅうかい』の情報を全部教えろ、代わりにテメェを自由にしてやるよ」


 突然放たれたジャネットの言葉に男は眉を顰める。


「自由……だと? い、意味が分からねぇ……マジで何が、ッあぐ……言いてぇんだテメェ」


 痛みに呻きながらも、本気で眼の前の女が何を言いたいのか分からないといった様子の男にジャネットは。


「……チャイニーズに限らねぇが……マフィアッてのはたとえ人数合わせ程度の駒でも逃げた野郎にゃァ容赦しねェ」


「つまりテメェは今、アタシに殺されるか、ここで逃げて『金隆會こんりゅうかい』のクズ共に追われてブチ殺されるかの二択しかねェ」


「分かるか? 逃げ出せてもオマエは詰んでんだよ……そ・こ・で・だ、アタシにテメェの知ッてる情報を教えりゃァ、当然オマエのその傷の面倒も見てやるし、自由になッた後も、どッち道『金隆會こんりゅうかい』はアタシが消すんだ、追われることもねェッて訳よ」


 マフィアは逃亡者と裏切り者には容赦しない。


 そう語るジャネットは、黒人男がこれからどんな悲惨な目に遭うかを伝えつつ新しい道を提示することで情報を引き出そうとしているようで。


「どうだァ? 悪くねェ話だろ? 金に困ッてたのか、脅されてたのかは知らねェがオマエもあんなチャイニーズの猿どもにゃァ従いたくなかッただろ? ちょォっと知ッてる事、話しゃァ良いんだよ……例えば、『金隆會こんりゅうかい』のアジトの位置とか幹部の名前とか」


「マジでちょッとしたことで構わねェ、正直アタシはあのクソッタレ共の情報をまだ一ッつも持ッちゃァねェンだ……オマエが少しでも情報を渡してくれりゃァそッから幾らでもコッチで調べるさ」


「大した情報持ッてねェッて殺ッたりもしねェからよ、話すのが重要だぜ? 分かるか? 損はねェだろ、どうだ?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながらそう語るジャネットは、男と目を合わせて返答を待つ。


 そうして、相手の話を聞いた黒人男は目を伏せて。


「…………クソッ、テメェの……ッ……言う通りだ、金が欲しくて俺はあのクソッタレ中国人共に……協力したさ」


「確かに、このまま逃げりゃオマエに殺されなくても……いずれかは、っうぐ……ハァ、ハァ……アイツらに殺されるだろうさ」


「……それに、オマエの言葉がウソでも……どッち道俺は今のまんまじゃぁ……っつ……早く死ぬか遅く死ぬか、それしかねぇ」


 口に溜まった血で上手く喋れないなかでも、ジャネットの言う通り自分はこのまま行けばどうあがいても『死ぬ』しかないのだろうと同意する。


 そして、目を閉じて少し考えた男は軽く頷くと。


「……『ノースタン・ハーバー』だ」


「『ノースタン・ハーバー』のベイブリッジ……その丁度真下にあるオフィスビル……そこにっ、ぐぅ……奴等の事務所がある」


「本拠地かどうかは……っ……知らねぇが、確かにそこには『金隆會こんりゅうかい』の人間が集まる建物がある、そこがもし本拠地じゃなくても……もっと詳しい情報は確実に、得られるだろうな」


 ジャネットの提案を受け入れ知っている情報を明け渡すことを決意した黒人男は、息も絶え絶えになりつつも『金隆會こんりゅうかい』の事務所の情報を相手へと伝える。


 そうして、一時的にも協力することを選んだ男に対してジャネットは傷口に押し当てていたバットを引き離すと再度肩に担ぎ吸いきったタバコを捨てる。


「……賢い選択をしたぜアンタ、安心しなアタシは約束は守る」


 男は、ジャネットの返答に安心したように微笑み目を瞑る。


 一瞬【死んだか?】と目を閉じた黒人男を注視したジャネットだったが、僅かに胸が動いているのを見て息があるのを確認する。


 生存が確認できた彼女は、男を担ぎ上げリーナ達の元へと向かう。


 そして、血塗れの状態でリーナの眼の前に立ったジャネットは問う。


「揺らいでねェか? アンタの『覚悟』は」


 リーナは答える。


「はい、もう決めましたから」


 ジャネットたちを尋ねてきた当初のオドオドとした迷いの感じられる瞳ではない。


 ハッキリと全てを見届け、裏社会へと踏み入れる『覚悟』が出来たリーナにジャネットは、嬉しそうな笑みを返すと。


「よしッ! ンじゃァ掃除だ掃除! アンタも手伝えよ?」


 気分を切り替え、担いでいた男をリョウタへと任せたジャネットは両手を叩いて鳴らす。


 いきなり出てきた『掃除』という単語に何事かと思ったリーナは思わず聞く。


「掃除……ってどういう?」


 その疑問に、ジャネットはニヤッと笑い掛けると。


 後ろに広がる血の海を親指で指すと。


「なァに言ッてんだ、アレをそのまんまにゃァできねェだろ? 幾らこのゴミ溜めみてェな街でも流石にああも派手なのは目立ッてしょうがねェからな」


「掃除だよ、床から壁までしッかりキレイになァ! まァ『仕事』の詳細詰めンのはその後だ、シャワーも浴びてェしな……リョウタ、ソイツの手当が終わッたら掃除道具持ッて来い」


 任された男を担いで、手当を行うために事務所に運び込もうとしているリョウタへ手当が終わった後に掃除道具を持ってくるよう頼み。


 そして、既に決定事項のように自分も掃除する流れになっていることに驚いたリーナはジャネットを見て抗議し始める。


「ちょ、ちょっと待って下さい! し……死体清掃なんて私やったことないですよ!?」


 彼女の抗議を聞いたジャネットはニヤニヤとした笑みを崩すこと無く返す。


「普通の掃除と変わらねェよ、まァちッとばかし服に臭いが着いて面倒だが……貴重な体験だぜ? 無駄にしねェようにな」


 グッとサムズアップしたジャネットに信じられないといった様子の表情を浮かべるリーナだったが、すぐに諦めてため息を吐くとリョウタが掃除道具を持ってくるのを待つために男を担ぎ込む彼に付いて事務所へと入っていき。


【大丈夫、俺が肉とか骨とかは運ぶから! 壁とか床に付いてるの拭き取ってくれるだけでいいですから、頑張りましょうよリーナさん!】とかなりズレた励ましと気遣いをするリョウタに少しだけ後悔するリーナだったが、直ぐに気持ちを切り替えてリョウタを手伝い始める。


 そして、残されたジャネットは。


「『金隆會こんりゅうかい』に狙われるような『形見』のペンダントねェ……」


「……全くきな臭ェことになッてきたな」


 事務所の中へと入っていき二人が見えなくなると、彼女は一人呟く。


「まァ、面白くなッて来たッてとこか……」


 笑う。


 ただ楽しそうに。


 これから起きるであろう波乱に満ちた未来に、そしてこの荒んだ街を包む混沌に。


 闇も光も、善も悪も関係なく。


 この物語は、進み始める。


 一人の『日常』を奪われた少女の『覚悟』を発端として。


 転がり始めたストーリーは、激しく血飛沫を上げて少女の『日常』を『非日常』へと塗り替えて行く。


 これは、そんな少女が目撃する『非日常』の一幕であり。


殲滅者ANNNIHILATOR』と呼ばれた女の生きた証となる物語。




(序章 終幕)

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