第48話 担当者
いよいよ担当となる上級生が決まる日になってしまった。
この国は義務教育とか言う文化がないため、うちのクラスメイトはわざわざこの学校に通っている。つまりは前世の学生のような授業だるーといった感じはなく、クラスメイト達のモチベーションが高い。
だから、不真面目そうに見える生徒でさえ授業はしっかりと受けている。まあ、見えるだけで真面目だというだけなのかもしれないけど……。
そんなことはどうでもいいとして、とにかくみんなやる気があるのだ。
ということは、必然的に担当となる上級生も意識とか熱意が高い可能性がある。指導することに熱意がないということもあり得るが。
まあ何が言いたいのかというと、気を引き締めたような姿勢を見せておかないと印象が悪くなりそうな人が担当になると考えてしまい気が重い。
「セオドアさん」
「はい」
今、クラスメイト達は担任の先生に名前順で呼ばれており、呼ばれた生徒は今回教えてもらうことになる上級生の所に先導されている。
そして、とうとう俺の番みたいだ。
同姓でなおかつあんまり個性がなさそうな人がいいなと思いながら、先生に指示されたところに行くと一昨日みた黒髪の少女がいた。
「君が拙者の教え子でござるか。よろしく頼むでござる」
「はい。よろしくお願いします」
この国では珍しい黒髪と、特徴的な口調。間違いなくこの前の休日でフィリス様に卓球に勝った人で間違いない。
とりあえずの第一印象は、悪い人じゃないんだろうけどなんとなく堅苦しくて真面目そうだし、異性なのが接しづらそうだというものだった。
「……君はもしや、一昨日に台を譲ってくれた方でござるか?」
「あ、そうです」
「あの時はありがとうでござるな。……む、そのような恩人であるのにもかかわらずまだ名を名乗っていないでござったか。拙者は桜花、気軽にオウカと呼んで下され」
「分かりました。オウカさんと呼ばせてもらいます。自分はセオドアです」
「……別に拙者が上級生であるなどは気にせず、呼び捨てで構わないでござるよ」
「いえ、そんな恐れ多いことは……」
本当は恐れ多いなんていう殊勝な心はないがそう口にした。
呼び捨てでいいと言われて気難しい人ではなさそうだという印象を受けたけど、とりあえず相手にあんまり調子に乗ってないと思ってもらうために。
「気にしなくともいいのでござるのだが……。まず、セオドア君は拙者に教わる気があるのか聞いておきたいのでござる。いかがでござるか?」
「えっと……、ありますよ」
「そうでござるか。拙者はセオドア君よりも一学年上であるだけであるからして、教わる気がないと言われたらどうしようかと思っていたところでござったから」
ここで教わる気がないとかいう奴いないでしょと思ったのだが、相当プライドが高い人とか貴族だったら拒否する可能性は確かにあるか。
教わる気がないと言わないまでも、自分を教えられる実力があるのか見せてくださいとか言う生意気な奴はいてもおかしくないだろうし。
ただここでやる気があるアピールをすると、さぼりづらいのが……。いや、さぼる気はないんだけど、そういう逃げ道がなくなるのが心の余裕というか、逃げ道みたいなのがなくなってしまうのがちょっとね。
「凄く素直そうなセオドア君が教え子になってくれたのはありがたいでござるな。これからよろしくござるよ」
オウカさんはそう言いながら手を差し出した。
「ええっと……、よろしくお願いします」
女性の手を握ることに少し躊躇を覚えながら、でもここでしないわけもいかないしと思い握手した。
そして、素直そうだと言って屈託のない笑みを浮かべる人のよさそうなオウカさんに、俺のようなすぐに逃げ道を求めてしまう人間を担当させてしまうことに少しの申し訳なさを覚えた。
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