第44話 謁見

 人さらいたちに起きたことを説明するために、俺は国王やその他の偉そうな貴族様がたくさんいるところで事前に教えられたように膝をついて頭を下げていた。


「本当なのかね、それは。人間が獣人になるなんてとてもだが信じられん。もしそんな薬があるのだとしても、人間であるのに自ら獣人になるなんてことをするなんて考えられん。それに貴様は下賤な使用人であるからして、関心を買うためにそんな戯言を申しておるのではないか?」


 顔や体が丸々としており、高そうな金属のネックレスや指輪などを身に着けている男の人がいちゃもんをつけてきた。

 確か……、名前はモージス・ブランドン様。

 クローディアさんから教えてもらった話だと、この人は選民思考が特に強いらしく、さらに言えば人種差別も激しい王国の典型的な貴族らしい。

 状況を打開するために獣人化する薬を飲むという行為はそこまでおかしなことではないとは思うのだが、人族であることに誇りを持っている、モージス・ブランドン様にとっては考えられないことなんだろう。


「ブランドン殿、それならばどうしてあの喋るモグラのような奇怪な生き物がいるのですかな」


「それは新種の魔物なのだろう」


「ほほ。いくら盗賊団であろうと魔物を仲間、もしくはペットとして引き入れはしないであろう。人族でそんなのを受け入れるのは、人種を問わないとうたっている帝国ぐらいであろうからな。そもそもの話、元々が人間であったという発想に至ることが難しい嘘をつくわけがなかろう」


「それは……」


 モージス・ブランドン様は言い返す言葉がないのか、言い淀む。

 この俺たちに有利な発言をしてくれたのはケネス・グラフトン様。

 中老は過ぎており、人のよさそうなおじさんのように見える。こっちをアシストしてくれる発言してくれたから、そう見えるだけなのかもしれないけど。

 ただ、クローディアさんから聞いた話だと要注意人物らしい。なんでも、王国を裏で操っているのはこのおじさんなのだとか。

 王様とか貴族がいる前でこんなに余裕を持って発言できることから、普通でないことは確かだろう。


「マクウィルアムズ殿は、どう思いますかな?」


「ふん、どっちでもいい」


 マクウィリアムズと呼ばれた人は興味なさそうに答えた。


 あれ、何かこっち見た?まあ、状況的に俺たちのことを見るのはおかしいことではないか。


「これ以上は時間の無駄のようだな。帰らせてもらう」


 そう言うと、すたすたと歩きだし部屋から出ていく。・

 いいのかよと思ったが、眉をひそめるような人はいるが誰も咎めるようなことはしなかったので本当に部屋から出て行ってしまった。

 マクウィリアムズと呼ばれた人が去った後、あの生意気な若造が、とか、調子に乗り追って、みたいな声がひそひそと聞こえて来る。


 ジェローム・マクウィルアムズ。

 なんでも王国で一番の実力がある人間が付く職業である騎士団長よりも実力があるのではないかと噂されている人らしい。二十五とまだ若く、金髪のイケメンだ。


「マクウィリアムズ殿も帰ってしまったようですし、これでお開きでもよろしいのではないでしょうかローランド陛下」


「……そうだな」


 え、終わるの?結局話が付いていなくない?

 ……俺としてはもう終わってほしいからちょうどよくはあるけど。





 あの後はすぐお開きになり、王都で特にやることはないらしかったのでもう学園に帰って来ていた。

 こっちが説明しても納得していたように見えなかったし、なんであんなところに呼んだんだと言いたくなる。

 種族が変わってしまうというのは結構な大ごとだろうから、当事者である俺とクローディアさんが呼ばれるのは当然ではあるんだけど。


「セオドアさん、王都に行ってみてどうでしたか?」


 何で呼んだんだという愚痴と、呼ばれることは当然なんだけどさ、という納得をしていたところでポールさんに話しかけられる。

 ポールさんとグループで一緒になった後、授業で二人組むときとかペアになったり、魔法について教えてくださいと話しかけられたり、そういう理由があるわけじゃなくても最近暑いですよね、みたいな世間話ぐらいはするような関係になっていた。

 

「うーん……。あまり長く滞在していたわけじゃなかったし、王様に謁見するってことで緊張していたからあんまりどんなところだったかという記憶がないんですよね。ただなんか、古風というか趣があるというか、……そういう雰囲気はあったような気がします」


 王都と呼ばれるだけあって大きい町だなとは思ったけど、アリの魔物と戦った場所であるミーゼルも同じぐらいだったから、そこまでおお!!みたいなことにはならなかったな。

 そもそも前世でもっとすごい大都会に住んでいたから、ただ大きかったり人が多いだけじゃ驚いたりはしないというのがあるんだろうけど。


「セオドアさまはオズボーン家の使用人でしたわよね。となると、ミーゼルにはいったことがおありで?」


「まあ、はい」


「となるとその感想になるのは当り前ですわね。ミーゼルは王都よりも経済的に潤っておりますから。王都にいっても古臭いだけという印象になるのも仕方ありませんわ」


 いきなり話に参戦してきたのは、お嬢様口調であくが強いカーリンさんだ。

 興味がある話題だからなのか、たまーにこうやって話に入ってくる。


「……そうですよね」


 ポールさんは少し寂しげな表情をしていた。


「皆さん、おはようございます」


 ガラガラと教室の扉があく音が聞こえてきたところ、自分たちよりも年下にしか見えない少年が教壇に立ち挨拶をする。

 この少年はクラス担任であるヤードリー先生だ。

 化け物レベルの魔法使いだと自分の容姿でさえいじれるらしいから、見た目だけだと年下と言えないような世界ではあるけれど、教師として精一杯に頑張ろうとして姿を見る限りそこまで年上な魔法師ではないと思う。


「少し前にあった課外学習で、自分の弱点や克服すべき点というのが見つかったと思います。ただ、だからといって克服できる方法を見つけた方はあまりいないでしょう。僕たち教師陣が懇切丁寧に皆さんにアドバイスしたいのですが、残念ながらそういった時間を取れないということなので、一人一人、上級生の方々に指導してもらえることになりました」


「先生。それって、強制参加なの?」


 明らかに先生が話している途中だったのに、割り込むようにして発言をしたのは盗賊に襲われた時に俺を生贄にしようとした金髪の少女――エリンさんだった。


「はい。さぼったりしたら、進級できないのでしっかり教えを受けてくださいね」


 まじか。普通こういうのって、自主的にやるようなもんだと思ったけど。

 そうなると貴族クラスの上級生は嫌だな。まあ向こうも嫌だろうし、学校側も問題が起きるのは分かりきっているだろうから、そういった人が教える側になることはないか。


「この課題での評価点はどうなるのでしょうか?」


 委員長という役職をほうふつとさせる容姿をした少年――ウォルトさんの質問だ。


「出席さえしていればとくに減点されるようなことはありません。そういう方式でないと、上級生の個人的偏見で成績が決まってしまいますからね」


 成績とかどうでもいいから気づかなかったけど……。

 この学校での成績によっては、貴族にお抱えになれるかとか魔導師団に入団するときにかなり影響があるらしいから、ここに通っている人にとっては気になる点なんだろう。


「指導する人はどうやって決まるんですか?」


「学校側が決める手はずとなっています」


 クラスでリーダー的な立ち位置にいる少年はなるほどと納得したような様子を見せる。


 一瞬、ん?っとなったが、そうなるか。 

 誰に指導してほしいか選べと言われても、上級生のことなんて知らないからな。

 それでも、俺たちとしては選べるのが一番いいだろうけど、上級生たちの中で人気の差が出ちゃうと、ペアを決めること自体に時間が掛かっちゃうし、不人気だった人のモチベーションも関わってきちゃうだろうからな。


「指導するって、具体的に何をやらされるんだ?」


「具体的な内容は何も決まっていません。上級生の方たちには出来るだけ皆さんのアドバイスをするような指導をしてほしいという風には伝えています」

 

 それって、選ばれる人によっては凄いむちゃぶりをしてくるみたいなことがあり得るってことだよな……。いいのかそれで。

 向上心のある人とかが、適当に課題だけ振って終わりみたいな人の担当になるってこともあるわけだから、俺みたいなやる気がない人以外にも影響が出てきちゃうんじゃないか?


「もう質問はなさそうですね。皆さんの指導をしてくれる上級生と対面は一週間後となります」


 一週間か……。

 変な奴とやる気に溢れているような人は来ないでください。俺みたいにやる気のない人をお願いします。

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