第39話 人さらいたちとの激闘4
「あなたには人の心というものがないのですか!?もし失敗していたら、人質の命はなかったかもしれないんですよ!」
どこか怯えが混じっているような様子で褐色のおっさんは俺のことを見てきた。
犯罪集団の一員であるくせして、俺のことを人でなしと言いたげに。
人の心か……。ここで要求を飲むよりも今の行動を取ったほうが、俺とクローディアさんと人質にされた人たちすべてが救われる可能性が高い方法だと思ったんだけど。
人質にされた人が傷つくリスクがありはするが、まあそこらへんはしょうがないよね。
……自分で言っていて、確かに良心がある人間が取る行動ではないとは思ったけど。
「クローディアさん。また面倒なことにならないように今のうちに倒しちゃいましょう」
「……そうね」
もう二人しかいないから人質で脅すようなことは出来にくいだろうし、あの少年にクローディアさんが勝てるということ考えるとこっちがかなり優勢だろうからね。
「チェスター君!あれを飲みますよ!」
「あれ?あれってなんだっけ?」
「これですよこれ!」
褐色のおっさんは紫色の体に悪そうな液体が入った瓶を取り出し、少年に向けて見せつける。
……これ、俺たちのこと見てなさそうだな?
「これ助けられそうじゃないですか?」
向こうにいる二人に聞かれないような小声で話しかけた。それに対して、クローディアさんはこっちを向いて頷く。
少年がこんな怪しい奴を飲みたくないと言い、おっさんがそんなわがままを言うんじゃない、みたいな言い争いをしている間、俺たちは足音を立てないことを意識しながら人質がとらわれているところに近づく。
クローディアさんは良く知らない人を、俺はウォルトさんの縄に短剣で切る。
魔法を使わないのは向こうの土魔法使いに探知されないためだ。
少し切るだけじゃ簡単に解けないような縛り方をされているので、縄をほどきながら詰まったところを短剣で切るというのを繰り返して、ウォルトさんが体を自由に動かせる状態にまでもっていけた。
「ありがとう」
ウォルトさんは小声で礼を言うと、他にとらわれている人たちの縄をほどいていく。
「えー、ほんとに飲みたくないんだけど」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
すべての人質を救出し逃げたのを確認できたところで二人の様子を見たら、体に悪そうなピンク色の液体が入った瓶を唇につけていた。
すると突如、少年はチーターの獣人といった見た目に、褐色のおっさんは身長が縮み体全体に毛が生え丸みを帯びた生物、まんまモグラになっていた。
「な、何なんですかこの体は!?」
「うーん、なんか体が軽い感じするな」
元褐色のおっさんが驚いているってことは、どうなるかとかは知らなかったのかな?
少年の方はチーターみたいな見た目になってなんか強そうな感じがするけど、モグラになったのって弱体化だろ。
「こんな体になってしまってはいろいろと楽しめなくなっちゃうじゃないですか!?」
「あー、オーガストって性欲魔人だもんね」
「そ、そんなことないですけど。……それにしても、いいですよねあなたは。ただの獣人ですしちょっとかっこいいですし。私は完全に動物になっちゃったから、絶対に相手されなくなっちゃったじゃないですか!」
この元褐色のおっさん、そういうキャラだったのかよ。悪くない顔立ちをしているからそういうのを気にするタイプじゃないと思っていたのに。
……というかもっと気にするところがあるだろ。人の営みにはもう戻れないとかさ。
こっちをそっちのけで漫才を繰り広げている二匹?のもとに、クローディアさんが無言で近づいて行く。
少し卑怯ではあるとは思ったが楽に行くならそれでいいので黙って様子見する。
崩れた岩壁で身を隠しながら、言い合っている二人にあともう少しで届くといったところで、
「見えていますよ」
「……!?」
元褐色のおっさんモグラにクローディアさんが近づいていたことがばれただけでなく、現れた岩の壁を砕くことが出来てなかった。
「こんななりにはなりましたが、どうやら土の精が今まで以上に力を貸してくれるみたいなので。先ほどまでのようにいくとは思わないでください」
「イグニッションバレット」
俺はどの程度なのかを確かめるために魔弾を放つと、防ぐために現れた岩の壁を一枚しか壊せない。
「だから今言ったでしょ。それにこういうこともできますよ」
俺とクローディアさんの足場が盛り上がり、いたるところから地面から生えてくる岩の柱がこっちに向かってくる。
クローディアさんは曲芸のように襲ってくる岩を飛び乗って避けていた。
「イグニッションバレット」
俺は防御壁で防ごうとしていたが、思った以上にダメージが入るので強度を上げ岩の柱を壊すために複数の火力重視した魔弾を上から打ち下ろす形で放った。
岩の柱はそこまで強度がないのか、壊すことに成功する。
「チェスターさん、追撃をお願いしますよ」
「おーけー」
獣人になった少年は、爆速で宙にいるクローディアさんがいる方へと向かっていく。
クローディアさんは着地地点で待ち構えていた少年に蹴りを入れようとしたが避けられてしまい、逆に蹴り飛ばされる。
大丈夫なのかと心配したが、空中で一回転しながらもクローディアさんはしっかり着地できていた。
あの少年、獣人になったことによってクローディアさんともやり合えるようになったぽいけど、魔法が効かないわけなんだから俺を狙って数を減らした方がいいはずだよね。
まあ、クローディアさんの方を狙ってくれる方がありがたいけど。
「ち、才なしのくせに」
「その才なしにあんたはさっきまで負けていたわけだけど」
才なし?話の流れ的に、クローディアさんのことを指しているように聞こえるな。
俺と歳が近いのに、化け物じみた格闘術と身体能力を持ったクローディアさんには似合わない言葉な気がするけど、クローディアさんも認めているみたいだ。
「いや、負けてないし」
「言い方が悪かったわね。味方の支援がなかったら今ここで立っていられなかったという方が正しいかしらね」
すげえ言い合いしてるな。
クローディアさんってこういう生意気なのは嫌いそうではあるし負けず嫌いなところがあるからそこまで不自然だとは思わないけど。
ただ、むこうもクローディアさんもお互いのことを知っているぽいし、因縁でもあるのかな?
「よそ見している場合ですか?」
なんとなく気取っているように感じる声色で俺に問いかけてくると、岩の柱が真正面から襲ってくる。
岩の柱は前方だけではなかったようで、前からだけではなく後ろからも衝撃が来た。
「よく防ぎましたね。うまくいくと思ったんですけど」
このモグラ、結構狡猾だな。
俺が攻撃を察知するなんてことが出来ないから、いつも全方位に防御壁を張るようにしているから防げたけど。
「オーガスト!一対一でやらしてくれ!」
獣人となった少年の言葉にオーガストと呼ばれたモグラはため息をつく。
そして俺とモグラのペア、クローディアさんと獣人となった少年のペアを遮るような岩の壁が現れた。
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