第38話 人さらいたちとの激闘3

「大丈夫?」


「……はい、ありがとうございます。助かりました」


 心臓がバクバクと鳴るのを鮮明に感じながら放心状態になっていたところで、クローディアさんに声を掛けられ正気に戻る。


「痛ってえ!」


 あの少年、クローディアさんの蹴りがもろに入ったように見えたんだけど、立ち上がるのか。

 右腕を抑えているからダメージは入っているんだろうけど……。

 

「こいつの相手はあたしがするから、あんたはあそこにいる魔術師の方をお願い」

 

 クローディアさんは俺の返答を待たずに、チェスターと呼ばれていた少年の方に向かっていく。

 何とか攻撃は防げていたけど、俺が勝つ未来はなかっただろうからあの少年の相手をしてくれるのはありがたい。 


 恐らく魔法が効かないとかいう相性最悪な性質をもった奴を相手にしなくていいんだという安堵を覚えながら、さっきクローディアさんが指さしていた方を向く。

 すると、何かに殴られてくり抜かれたような形をしている岩の壁が複数も並んでいる先に褐色の肌をしたおっさんがいた。


「イグニッションバレット」


 俺の相手はこのおっさんか、と思いながら火力重視の魔法の弾丸を飛ばす。

 すると地面からいくつもの岩の壁が現れた。発射した魔弾は何枚かの壁をぶち破ることが出来たが、すべてを壊すにはいたらず褐色の肌をしたおっさんまでには届かない。


 ……無詠唱か小さくつぶやいただけなのかは分からないけど、これだけの岩の壁を予兆なしに出現されられるのは厄介だな。


 どうしようかと作戦を練っていたところに地面から岩の柱が襲って来たが、事前に展開していた防御壁のおかげで特になんともない。


 崩されることはなさそうだけど崩すのも難しそうだと思って、クローディアさんが勝ってくれるのなら楽に物事が進みそうだと思い様子を見てみた。

 クローディアさんとあの少年同士の戦いだとクローディアさんに分があるように見えるが、土壁が現れて邪魔されているせいで上手く詰め切れていない。


 土魔法を使ってくるおっさん自体の攻撃はたいしたことないけど、倒すのが面倒だしクローディアさんにちょっかいを掛けてくるのも面倒だな。

 向こうからは俺に何もできないはずだから、クローディアさんの支援をするのが一番良さそうではあるか。 

 それなら、土魔法使いに岩の壁を使わせることが出来るから負荷がかかるし、もし防ぎきれなかったら少年にダメージを与えられるっていう、こっちに有利な戦い方が出来るはず。

 ……ただ、俺が魔法を使ったら石壁で防いでくるだろうから、狙った魔法を当てるのが難しそうだし、 視覚的にも岩が邪魔で狙いをつけづらくなるだろうからクローディアさんに誤射しやすくなっちゃいそうか。

 ……変な事故が起きる要素を増やすよりも、打ち合いでは負けそうにないし、素直に土魔法使いを狙ったほうがいいな。


「イグニッションバレット」


 火力重視の魔法の弾丸を打ち込みながら、身体強化魔法を掛けて土魔法を使ってくるおっさんに向かっていく。

 続々と目の前に現れる岩の壁を魔法で壊しながら近づこうとするが、向こうも逃げながら魔法を打って来るので距離が縮まらない。

 これじゃラチが明かないと焦りが生まれたところで、目の前に岩壁が現れて激突してしまう。

 しかし、身体能力が上がっているおかげか顔を守るためにとっさに前に出した腕が少し痛いだけで岩壁を突破することが出来た。


 ……意外となんともないな。これなら、突っ込めばよくないか?


 土魔法使いの攻略法に気づいた俺は、顔だけは守ろうと腕をクロスさせながら次々と現れる岩の壁を気にせずに突っ込む。


「なんですかそれは!君といい、君のパートナーと言い、なんで私のロックウォールを軽々と破ってくるんですか!」


 ヒステリックに叫ぶ褐色の肌のおっさんを見て、逆の立場だったら同じ悲鳴を上げていただろうなと少し可哀そうだと思いながらも、容赦なく距離を詰めていく。


「お、お前ら二人止まれ!」


 突然、血だらけの片腕をぶらりと垂らしている取り巻きっぽい奴が、縄で縛られている人たちにナイフを突きつけながら叫ぶ。


 ……人質を使って来たか。

 これ、良くないな。


「クイックバレット」


「させませんよ!」


 厄介なことになる前に片付けようとしたが、岩の壁に阻まれてしまう。


「な、なんてことをしてくるんだ。こいつらがどうなってもいいのか!」


 俺としては別にたいして知らない人が死んだところでどうでもよかったが、クローディアさんの印象とかクラスメイトを見捨てるのはこれからにかかわってきそうだなと思い、ちらりとクローディアさんの様子を伺う。

 チェスターと呼ばれた少年は右腕を抑えながら息も絶え絶えといった感じで、クローディアさんは外傷を追っているようには見えないが攻撃の手を止めていた。

 

 もうほぼ決着がつきそうなところで止められた感じか。

 クローディアさんは脅しを無視して動く様子はないし、確かにこれからのこととか考えるとあんまり手を出しづらいな……。


「よし、じゃあこの手かせをつけろ」


 俺とクローディアさんが動きを止めたことで要求を飲んだと思ったのか、取り巻きっぽい奴が手錠を投げてきた。


 ……この手錠を付けちゃったら対等じゃなくなって、一方的に向こうの要求を飲まされる状況になるよな?

 俺は魔法を使えるから両手を使えなくなったところでどうということはないけど、魔法を封じる手かせがあるって聞いたことがあるし。

 それに人質が解放されたとしても目的は俺なはずだから、向こうに従ったらひどい目に合うよな、これ。


「イグニッションバレット、クイックバレット」


 先に火力のある魔法を褐色のおっさんの方に、そして弾速の速い魔法を人質にナイフを向けている取り巻きに放った。

 そうしたら、俺の予想していた通り褐色のおっさん土魔法を張ってきて通らなかったが、取り巻きの頭に魔法の弾丸を打ち込むことには成功して地面に倒れる。

 人質にされていた人たちから悲鳴が聞こえてきたが気にする時間がもったいないので無視をした。

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