第32話 クローディアとのお出かけ1
「ふあぁぁぁ」
起きた時特有の気持ちよさ感じながらも、熱さと眩しさから目を手で覆った。ただ手で覆っていると何も見えないため、少し隙間を作り状況を確認する。
そしてこの眩しさと熱さは太陽によるものだろうと回ってきた頭で判断し、なるべく眩しくないように手の隙間を調節しながら、体を斜め横に倒し使ってない左手を地面につけ足に力を入れることによって起き上がり、窓に近づいてカーテンを閉めた。
……そういえば今日は自由時間だったよな。
あくびをしながら伸びをして、昨日のクローディアさんが指示していたことを思い出す。
ポールさんとエリザベスさんがあまりにもアレだったので、昨日の夜にクローディアさんが二人に明日、明後日はクエストを受けるのではなく自主練をするように指示されていた。
ただ、俺には特に何も言ってこなかったので自由時間ということでいいのだろう。
何をしようか?とりあえず、散歩でもしてみるか。
引きこもっていたらクローディアさんに部屋に篭って何していたのかと言われ、下手したら体を鍛えるように言われるということもありそうだしな。
「起きてるでしょ。開けるわよ」
トントンと扉をたたく音がしたと思ったら、俺の返答も聞かずに木製の扉が開く。
いきなり自分のテリトリーに人が入り込んできたことで、心地よくてぼんやりとしていた頭が急に冴えてくる。
「あの、せめて自分が返事してから開けてほしいんですけど」
「……悪いわね。でもどうせ、聞こえないふりとか寝たふりとかしてきて、あんたに開けさせるとなると無駄に時間がかけるでしょ」
「いや、そんなことはないですけど……」
今日の気分だったら普通に扉を開けていたと思うけど、日によってはクローディアさんが言っていたようなことをする可能性があるので少し濁した言い方になる。
ただ、だとしても、俺の主張は間違ってないと思うのだが。
「……こんな時間に何の用事ですか?」
そうは思っても自分の正当性を主張しても面倒なだけなので、せめてもの抵抗として、朝っぱらから部屋の主に確認も取らないで入ってくるのは非常識ではないのかという嫌味を込めて質問をした。
「ちょっと、一緒に外に出ない?」
その嫌味が伝わったかどうかは分からないが、クローディアさんは特に意に介しているようには見えない。
別に反応が欲しかったわけじゃないからいいが。
それにしても、クローディアさんがこっちに判断をゆだねる聞き方をしてくるのは珍しいな……。だからと言って遊びとかデートの誘いというわけでもないだろうし。なにかしらの目的があるんだろうけど。
……なんかめんどそうだな。
「あー、朝ごはんとかまだ食べてないですし、そのあととかでもいいですかね?」
「別々に朝食を取ってからってこと?」
「はい」
この宿にはご飯とかついてないので、お互いにどこか外で食べることということになるだろうから。
これなら時間稼ぎになるし、もしかしたらなあなあになってくれるなんてことも起こりえるかもだし。
「それだと、また集まらないといけなくなっちゃうってことよね。……だったら、朝食も一緒に取ることにしない?」
「え?」
なんとなくだが、クローディアさんは仕方なく俺と付き合いをしている――もっといえば好かれてないと思っていたので、食事を誘われたことに驚く。
クローディアさんの方を見てみるが、特に冗談という雰囲気でもない。
「分かりました」
一人の方が気楽だという気持ちがありながらも、俺にわざわざ食事に誘ってまで付き合ってほしいことは何なんだろうという興味が出てきて、ちょっとだけ乗り気になりながら返事をした。
俺とクローディアさんは宿の近くにある所で食事を取った。
味は可もなく不可もなくで、値段は安いので腹を満たすためだったら悪くないと感じるところだった。
あとなぜかは知らないが、食事中にクローディアさんから欲しいものを聞かれて、あまり思いつかなかったので特にないと答えたら眉をひそめられた。
俺が答えたやつでも買ってくれたのかな?そんなわけないか。
「そういえば、昨日はエリザベスさんとポールくんに魔法を教えていたわよね」
「はい。……でも、なんで知ってるんですか?」
店から出た後の数十分の間、きょろきょろと辺りを見回しているクローディアさんと一緒に歩いていたら、突然話題を振られる。
魔法を教えると約束していたわけじゃなかったし、あの二人がクローディアさんと話をするような機会が昨日の間にあったようには思えないし。
……早朝に偶然会って、みたいなことがあったのかな?
「そりゃ、隣の部屋だからね。あの宿の壁、結構薄いみたいだから丸聞こえだったわよ」
「ああ、なるほど」
そういえば、クローディアさんとは隣の部屋だったな。
俺も隣から生活音とかしていたし、あんな声も抑えずに教えていたら聞こえているか。
だとしたら、少なくとも宿であの二人に教えるのとかはやめておいた方が良さそうだな。
「それにしてもあんた、思ったよりもしっかりと教えていたじゃない?どうして?」
「どうしてって言われても……」
「だって、あんたのことだし面倒くさがって適当に済ませると思っていたから」
俺のことをどう思っているかよくわかる発言だな。
間違った認識じゃないから、文句はないけど。
「自分はわりかし真面目なので」
クローディアさんは怪しげな霊媒師でも見るような目を向けてきた。
確かに面倒くさがり屋でやる気とかほぼ皆無だが、別に真面目っていうのも嘘じゃないんだけどなと思いつつ、そう言っても納得してくれそうにないので具体的な理由を口にすることにした。
「あの二人がしっかり強くなってくれないと学園からの課題がこなせないですからね。それに適当に教えても、どうせクローディアさんにはばれちゃいますからね。だったら、適当に対応するよりも最初からしっかりとやった方がいいと思っただけです」
「……なんか、誉めにくい理由ね」
クローディアさんは呆れているように見えた。
俺が二人のことを思って、みたいなことを言っても信用しないだろうし、じゃあ何て言うのが正解だったのか。
……まあ、性格とか生活態度とかをそういう根本的なことを見直してから、みんなのためになりたいから、みたいな誠実なことを言うのが正解なんだろうけど。
そんなどうでもいいことを考えていたら、数十分前に見た覚えがある店や看板、そして少し進むと自分たちが泊っている宿が視界に入る。
「あの、もうそろそろここら辺をぶらぶら歩いている理由を聞いてもいいですかね?」
目的地でもあるのかなと思っていたんだけど、どうやらそういうわけでもなさそうだからと本題に入るように促した。
すると、クローディアさんは髪の毛をいじりながらそわそわしだす。
「……ほら、あんたはさ……、ミーゼルでは結構頑張ってくれたじゃない。だから、その、今回はそのお礼のつもりだったのよ」
最初は少し声が小さくて、たどたどしかったのが、喋るにつれいつも通りの喋り方になっていく。
「あー、なるほど」
「……なるほどって何よ?」
「いや、特に理由もないのに自分のことを誘って来たり、好きなものを聞いてきたり、妙に辺りをきょろきょろ見回していた理由の納得がいきまして」
「……そう。なんか悪い?」
クローディアさんは俺をにらみつけてくるがテレが混ざっているように見えるので、いつものような怖さがない。
「いや別に、特に何も悪くはないです」
「ならいいけど」
早朝に無理やり入ってきたことは悪い部分だろとは思ったが、そういう余計なことを口にしなかったおかげかクローディアさんは機嫌を直してくれたみたいだ。
「じゃあ要件はこれで終わりって感じですか?」
「まだよ。あんたに何もお礼は出来てないじゃない」
「いや、もう朝食はおごってもらいましたから」
なんかもらってもどう扱えばいいか分からないし、自分の整理整頓のできなさ具合だとどっかにやってしまって申し訳ないことになりそうなのが嫌なんだよな。
「それだと足りてないわよ。だって、お嬢様から聞いた限りだとあんた、かなりの活躍をしていたみたいじゃない」
「……まあ、自分にしては頑張ったとは思いますけど。でも仕事ですから」
「だとしてもよ。……そういえば、あたしとあんたの関係って、上司と部下よね?」
「……そういう関係だったかもしれませんね」
「なら、上司が頑張った部下に褒美を与えるっていうのは、おかしなことじゃないわよね?」
「……まあ」
これ、向こうが納得してくれないと終わらなさそうだな。
そんな風に思いどこか良さそうなところはないかなと辺りを見回していたら、退屈そうにレジカウンターに肘をつけたおばさんが店番をしている武器屋が視界に入る。
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