第16話 町の現状1

「ディア、セオドアさん。私とハロルドさんが前線を張るので援護をお願いします」


「後ろは任せる」


「はい」


「……分かりました」

 

 俺とクローディアさんが頷くのを見ると、フィリス様とハロルドさんは二足歩行の身長百六十センチほどのアリに似た魔物へと向かっていく。

 フィリス様がいち早くアリの魔物へと近づき、瞬く間に頭と胴体を切り離す。

 やっぱりこの人には援護は必要ないんだなと思いながら、ハロルドさんと戦っている魔物に火の魔法を放ち援護する。


 そうしていたら突然、フィリス様が切り捨てたアリの魔物の頭が目の前まで飛んできて、ペチャっと音を立てて透明な体液みたいなのが出ながら潰れた。


「おぇ~」


 俺の隣にいる顔色を真っ青にしたクローディアさんがえずいていた。


 クローディアさん、アリの魔物を目にした時から顔色が悪かったからね。

 クローディアさんってステゴロだから、援護するのは向いてないのにフィリス様に後方支援してくれって言われたのも調子悪そうに見えたのが原因だろうし。

 俺たちと同じぐらいの大きさのアリは顔とか体とか足がよく見えてきもいから、もし虫が苦手なら相当きついだろうな。

 俺も近づいてとか絶対に嫌だし、透明な液体みたいのを出して倒れている姿を見て、若干鳥肌が立っているから気持ちはよくわかる。

 ハロルドさんは長いこと冒険者をやっているからこういう魔物に耐性があるのは分かるんだけど、フィリス様はそんな近くに寄って平気に戦えるよな。


「一通りは片付きましたね」


 衣服に汚れが一切ついてないフィリス様がそう言って、こっちに近づいてくる。

 街中には血が地面には付いてはいるが、俺の予想に反して死体とかは転がっていないためか、フィリス様は普段と変わった様子はない。


 それにしても、俺はあんまり魔物の方を見たくないのでハロルドさんの援護だけを意識して戦っていたけど、もう片付けていたのか。

 ハロルドさんがアリの魔物を足止めしてくれている間に俺が魔法をぶち込むだけで倒せるぐらいだから、見た目のえぐさの割に大した強さではなかったからな。


「あの、大丈夫ですか?」


「……大丈夫よ」


 クローディアさんは全然大丈夫そうに見えない顔色で口元を抑えながら食い気味に答える。


 ……触れないでおくか。

 

「なあ、あんたたち。もういないのか?」


 果物屋の看板の裏から、街中で歩くというよりも動きやすさを重視した恰好の男が出てきて、何かを警戒するかのように辺りをきょろきょろと見回しながらこっちに声を掛けてきた。


「はい。ここら周辺にいる魔物は討伐し終えました」


「そうか。……ありがとう」


「いえ。……他に人はいないんですか?」


 フィリス様は辺りを見回す。


「……ああ。何匹かは道連れにして俺以外はやられちまった」


 男は表情を暗くする。よく見たら目元が赤い。


「……すみません」


「いや、いい。それにしてもあんたたちは何もんだ?見回り係じゃねえだろ?」


「はい。私たちは中の様子を見に来た冒険者です。……気を落としているところ申し訳ないのですが、今の状況を教えてもらえませんか?」


「分かった、と言いたいところだが、こんなところじゃなくて冒険者ギルドで話さないか?まだ何十匹もの魔物が街中をうろついていたことギルドに報告しなきゃいけないから、俺としてはそうしてもらえると都合がいいんだが」


「分かりました」


 口ぶりからして、ギルドは安全なのか。

 それなら、最悪の事態ってわけではなさそうだな。


 



 男の提案に受け入れた俺たちは、腕の立ちそうに見える三人の冒険者が扉の前に立っている冒険者ギルドに着いた。

 辺りにはアリの魔物の死体が転がっている。


「ニ―レムだ。中に入れてくれ」


 先ほどの男の人――ニーレムさんは冒険者カードを扉に立っている冒険者へと見せる。

 体格がしっかりとしている冒険者はそのカードを見て頷くと、ギルドの扉の前から立ち退く。

 ギルドの扉を開くと、冒険者という荒事をこなすのに適してない服装をした人たちがかなりの数いた。

 なんか人がいっぱいいるなぁとか思いながら、受付カウンターに向かうニーレムさんについて行く。


 受付カウンターには声を荒げながら必死に自分の息子を助けてほしいと懇願する夫婦、いつ収束するのかとヒステリックな声を上げる中年の女性などが大きく目立っており、どうにも近寄りづらい雰囲気がある。

 ヒステリックな声を上げているのはあれだけど、助けてほしいと言っている夫婦は悪いことはしていないから、近寄りづらいという表現をするのはちょっと感じが悪いか。


「あ、ニーレムさんですよね」


 関係者以外立ち入り禁止と書かれている扉からギルド受付嬢の制服を着た女性が出てきて、こっちに向かってきながら声を掛けてくる。


「ああ」


「……ミ―スさんとエイルさんはどちらに?」


「突然、魔物が現れてな……」


 ニーレムさんは頭をたらし、肩を震わせながら握りこぶしを作る。


「……そうですか。ニーレムさん、帰って来て早々申し訳ないのですが、奥にある会議室で外の様子を報告していただいてもよろしいですか?」


「ああ」


 哀愁漂う背中を見せながら、受付の人が出てきた扉に向かっていく。

 しかし、何歩か動いたらニーレムさんは思い出したようにこっちに振り向き、


「すまない。先に報告しなきゃいけないみたいだ。少し時間が掛かると思うが待ってほしい。……いや、セリーナさん。俺の後ろについて来ていた恩人たちに、今の状況について説明してくれないか」


「分かりました」


 受付であるセリーナさんは、こちらを一瞥した後に頷く。そしてニーレムさんはその返答を聞き、また立ち入り禁止の部屋へと向かっていった。

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