第50話

 朝の学校の廊下。開け放たれた窓から入る爽やかな風が心地良かった。教室の扉からガヤガヤとにぎやかな声が聞こえてきていた。一人の女生徒が教室の扉をくぐる。

「おはよ」

 ショートヘアーの女子が挨拶をすると、挨拶が複数返ってきた。

「めがね、どうしたの?」

 とひとりがショートヘアーの女子に聞いた。

「コンタクトにしてみた。つけるとき怖くてさーまばたき止まんなくて」

「それは入らないって」

「目の裏側に入って取れなくなったら嫌だなーとか思ったり」

「裏側には入らないと思うよ」

 などと笑われていた。

 このショートヘアーでコンタクトにした女子が楓である。

 楓はあの日から髪を切って、クラスメイトと普通に会話をするようになった。最初は驚いていた同級生たちだったが、慣れてきたら普通に接してくれるようになっていた。

「オンユアマーク」

 手が叩かれた。

 走りだす。

 部活は陸上部に入った。

 もともと、小さい頃は良く動き回っていたから身体を動かすのは得意だった。

 ただ、これまでずっと動くことを避けてきたから、最初は体力が追いつかなかった。これから遅れた分を取り戻さないといけない。自分には伸びしろしかないんだという気持ちで部活に取り組んだ。日に日についていく体力が嬉しかった。昨日よりも走れるようになっているのが嬉しかった。

「ただいまー」

「おかえり」

 親と以前よりも話すようになった。何故だか親のほうが生き生きしてきなような感じがするのは気のせいなのだろうか?

 ご飯も前より食べられるようになった。部活で動くようになったからお腹が空くのだ。食べても食べてもまだ足りない気がする。ご飯を食べたあとでもまたお腹がすいてしまうのである。お腹が減って、夜寝たあとに、夜中起きだして冷蔵庫の中身を漁ったりしている。自分でもどれだけ食べれば気が済むんだと言いたい。体重が増えてきたのは気になるところだったが、まあよしとする。

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