第34話
町をさまよっていると後ろから声をかけられた。
「おい」
びっくりしてふり向く。
闇の中からぼうっと顔が現れた。
自分の顔だった。
息が止まった。
同じ目鼻立ち、口、顎、眉毛。髪型が違う。それとほくろが別の場所にある。
しばらく自分の顔とじーと目を合わせていた。
「楽朗?」
「龍太郎だな?」
二人は双子だった。10年前、病気で楽朗は死んでしまった。そして、最近龍太郎も同じ病気になった。
「会えるなんて思ってもみなかった」
「そうだな」
「ずっとここにいるの?」
「ああ」
「いいね、ここ。今、僕楽朗と同じ病気なんだけど、ここだと自由に動けるよ」
龍太郎は嬉しそうに喋っていた。
龍太郎の話を聞きながら楽朗は思い出していた。生きていたときの苦しかった日々を。
身体が言うことを聞かなくて辛かった日々を。身体が弱っていって、それに引っぱられるように心も弱っていった。衰弱していく自分を見るのが辛かった。嘔吐を繰り返し、助けを求めた。周りの大人に助けを求めた。助けを求めても苦しみは癒えてくれなかった。泣きそうになって見つめる龍太郎を思い出した。背中をさすってくれたことを思い出した。そばにいてくれたことを思い出した。体力がなくて、息をするのが難しくて死にたいと思ったことを思い出した。それでも生きたいと思ったことを思い出した。痛み止めを飲み続けていたら、病気が治ってくれるんじゃないかと本気で思っていたことを思い出した。
なんで俺だけ……
死にたくない。
龍太郎には俺の分まで生きて欲しいと願った。
最後に握った手を思い出した。
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