第23話

 地震? 

 いったいなんだろう。

 屋上の床が割れた。

 落ちる。

「きゃ」 

 楓は手を伸ばした。

 律が楓の手を取った。

 二人は見つめ合う。

「しっかり掴まってて」

「うん」  

「今度は離さないね」

「うん……」

 楓がぶら下がっている下の方に、渦潮のようなものが現れていた。

 律はその渦潮に目をやる。

「あー、やっぱ無理かも」

 律の目線につられ楓も下を見やった。

「どうゆうこと?」

「あそこに入れば帰れるよ、元の世界に」

 楓は握っていた手をもっと強く握った。

「嫌だ……、私、残る! りっちゃんと一緒にいる!」

「ばか言わないの、帰りなよ」

 律の顔は嬉しそうな泣いているような顔だった。

「りっちゃんも」

「無理だよ、あたし、死んでるもん」

「嫌だ、嫌だ!」

 律は大きく息を吸い込んだ。

「あたしの分も生きろ!」

 楓はボロボロと涙を零した。

 握られていた手が離れる。

 落ちてゆく。

 離れていく。

 会いたかった人と離れていく。

 せっかく会えたのに。

 近かったのが遠くなる。

「バイバイ、会えて嬉しかった」

「りっちゃん!」

 楓は渦に飲み込まれた。


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