第2話 久しぶりの被害
私はあまり痴漢には合わない方だと思う。でも人並みには被害に遭うこともある。高校生の時はよくやられた。女性専用車両で女の人にスカートの中に手を入れられた時は本当に泣きそうになった。
けれど大学生になってからは頻度が減った。制服じゃないからかもしれないし、そういう異常なラッシュの時間に乗らないようになったからかもしれない。よくわからないけれど、たまにしかやられなくなった。
ところが、この日、帰宅時に久々に被害にあった。電車の遅延で極度に車内が混み合っていて、人々に推されながら車内に押し込まれたので望まない姿勢で体が固定されてしまった。迂闊にもサラリーマン風の人とほぼ向かい合わせでくっつくことになってしまった。片手が手すり、もう片手が鞄を持っている状態で、要するに前が無防備。端的に表現すれば私の胸がそのおじさんの胸の少し下あたりに押し付けられた状態になってしまった。電車が揺れるたびに私の胸がおじさんのお腹でこねられるような状態。そのおじさんの反応もちょっと普通と違ったので不安でいっぱいになった。
これ、やばいかも、と思っていたら本当にやばかった。この日はヘソだしのTシャツを着ていて、お腹の肉がむき出しだったのだけれど、明らかにそのおじさんの指が私のお腹をさすっている。気味の悪さに失神しそうだ。あまりにも混んでいるので避けたくても避けられない。仕方がないのでさたいようにさせておくしかない。
私のお腹に触ってくるのが指だけでなく手のひら全体になった。その人の手は湿っていて気持ち悪いどころの感触ではない。私のお腹の肉を揉んでくる。やがてその手が上にスライドしてきてブラトップの下側の押さえを持ち上げて侵入してくる。後少しで胸に触られるというところで手の上昇が止まった。どうやら稼働範囲がそこまでだったようだ。しかしブラトップの下のゴムを思い切り持ち上げて浮かせてきた。そのため私の胸は抑えのポイントから下に下がり、下半分がゴムに挟まれた形になった。乳首がゴムに押されて痛い。
その手が今度は下に下がってくる。どうしよう。痴漢ですと声を上げればいいのかもしれないけど、私にはどうしてもできない。いままで一度もできたことはない。いつもされるがままだ。
しかしこんなにふてぶてしく広範囲にわたってナマで体を触ってくる痴漢は初めてだ。されるがままで我慢するには気持ち悪すぎる。声を上げるべきかどうしようか頭のなんかが混乱した。
そうしているうちにそのおじさんの手が下方にスライドしていく。その状況を食い止めるためになすすべはなかった。ジーンズのウエストの中に手が差し込まれ、下着の上部を探り当てられ、たぶん指数本が下着の中に入った。けれど混雑の中で手の可動範囲はそこまでだったようだ。結局次の駅に着くまで、胸のすぐ下の部分と、下腹部の間をそのおじさんの掌は上下にゆっくりと往復運動をし続けた。
そして事もあろうに、駅に着く直前。いきなり私のジーンズのボタンをはずし、ジッパーの下まで下ろしてきた。その状態にされた時に駅に着いた。人々の圧力でおじさんと私もホームに押し出された。気がつくとおじさんはどこかに消えていた。私はといえば、ジーンズのが完全に開き、Tシャツがかなり上までたくし上げられ、胸の下半分がブラトップに挟まれて露出してしまっている状態だ。
超ラッシュだったため、幸い私がこんな格好になっていることにたぶん誰も気づいていなかった。気づいたけれど目を逸らした人もいるかもしれない。いそいでTシャツを下げ、胸を正常にブラトップのカップの中に納め、ジーンズの前を閉めた。ジーンズの前を占める仕草はかなり目立つので、もしかすると誰かに気づかれたかもしれない。
その場はドキドキしていた恥ずかしいとかそういうのはなく、恐怖と気味悪さだけだったけれど、家に着いてから無性に恥ずかしさと怒りが込み上げてきた。ソファーのクッションを思い切り殴ってしばらく泣いた。怒って悔しいのに泣くなんて、これだから女は嫌だ。自分が女であることが嫌になる。
それにしてもこんなにひどい痴漢をされたのは初めてだ。「おっぱい触られてムカついた」ぐらいの話題はよく友人たちとすることはあるけど、ここまでひどい被害だと、友達と情報共有することができない。トラウマが強すぎて話ができない。誰にも言えずぐずぐずとして、気持ちは傷ついたままだ。電車に乗るのが怖くなった。
シャワー素浴びて触られた部分を念入りに洗った。でも感触がリアルに残っている。だれか私のお腹と胸と、それから下の方を触って、この日の感触を忘れさせてほしい。はるかちゃんと抱き合いたい。
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