続・台風の話

清瀬 六朗

台湾の台風

 一〇月三〇日午後九時の天気図によると、台風二一号は、中心気圧九二五ヘクトパスカル、最大風速五〇メートル(最大瞬間風速は七〇メートル)、グレードは「猛烈な台風」という状態で、台湾へと西進している。台湾に上陸するのは確実なようだ。

 先日、私が「台風について私が知っていること」を書くきっかけになった台風一〇号が、日本列島に接近した段階で、中心気圧九四〇ヘクトパスカル、グレードが「非常に強い台風」(「猛烈な台風」の一つ下)だったことを考えれば、さらに強い勢力で台湾に接近していることになる。

 中心気圧九二五ヘクトパスカルは、「通常の気圧」(平均で一〇一三ヘクトパスカルとされている)からすると、約一割低い。気圧が低いということは、それだけまわりの空気を吸いこむ力が強いということで、それだけ危険な風が吹くということだ。

 台湾での被害が出ないこと、出ても軽い被害で終わることを切に願っている。

 とくに、花蓮かれんを中心とする東海岸地帯は、四月に大きな震災に見舞われたところである。しかも、山地がすぐに海に接し、急な斜面が海へと続いている。つまり、水害に弱く、道路寸断などの被害が出やすい地形である。

 「震災復興途上の台風災害」に遭遇しないでいて欲しいと、これも切に願う。


 『台風について私が知っていること』

https://kakuyomu.jp/works/16818093083814971855


 ところで、私は二〇〇九年の台風八号、アジア名「モーラコット」(漢語表記「莫拉克」)を台北で経験している。台湾に大水害をもたらし、また死者行方不明者あわせて六九九名という大きな被害をもたらした。対応に失敗したとして、当時の馬英九政権(中国国民党)にも大きなダメージを与えた台風である。


 このとき、台北にいた私がいちばん驚いたのは湿気だった。

 「結露」という生やさしいものではない。部屋の壁のいちめんに薄い水の層ができて、光を反射してぬめぬめと光って見える、というぐらいの湿気だった。この壁がこんなふうになったのはこの一度きりだから、建物や立地の問題ではない。

 それだけの湿気を、台風は運んできたのだ。

 もちろん風も雨も激しく、窓の外に見える、幹の太い熱帯的な樹木が大きく揺れているのも印象的だった。

 もうひとつ、印象的だったのは、宿舎や研修先の台風対応だった。

 政府から(中央政府か地方政府かは私にはわからなかった)「この日は会社は休業、学校は休校」と早いうちに宣言が出された。台風が来ないうちから、主要な出入り口には浸水を防止するための仕切り板が準備され、しかも、ゴムボートもふくらませた状態で置いてあった。

 「ここまでやるのか」と、当時の私は驚いたものだった。


 それで、私はスーパーで買いだめをして備えてはいたのだけど、この日、宿舎の食堂は、「休日営業」(営業時間帯などが異なる)ではあったけど、通常営業だった。

 いいことかどうかは別として、宿舎に滞在している外国人としてはたいへん助かったのを覚えている。


 ただ、台北では、台風は比較的早くに通過してしまい、風と雨が収まったころには、早くも台湾の太陽が夏らしく空の高いところから照らしていた。

 本格的な水害が始まったのは、じつはそのあとだった。

 台風は、台湾島の上を通過したあと、台湾海峡で停滞してしまったのだ。


 ここで、前にも書いた「台風の進行方向右側は風半円。台風の進行方向左側は雨半円」という性質が関係してくる。

 前に書いたときには、この言いかたは誤解を招くのであまり使わなくなった、と書いたけれど、この台風に関しては、不幸なことに、この性質が的中してしまった。

 台風は台湾島を東から西へと横切った。

 ということは、台湾南部が「雨半円」に入ってしまった、ということだ。

 台風の中心が通り過ぎてから、でも台風が停滞したので台風の雨雲がかかり続け、その台湾南部に猛烈な雨が降った。

 それが大水害と大規模な土砂災害をもたらし、多くの犠牲者を生んだのである。

 一方の台北は、「風半円」だったので、たしかに暴風は来たけれど、風雨はわりと早くやんでしまった。


 この、日本でいう「平成二一年台風第八号」、アジア名(国際名)「モーラコット」は、中心気圧九四五ヘクトパスカル、最大風速四〇メートルだった。だから、現在の勢力で言えば、今回の台風一〇号のほうが強い。


 台湾の方がたと、中心からははずれるけれど、その「風半円」・「危険半円」の暴風雨域(風速二五メートル以上)に入る可能性がある先島諸島の方がたには、最大の警戒態勢をとるように、と申し上げたいと思う。

 気象予報士の試験を受けるというのでにわか勉強している(ほんと、これが難しいんだ…(汗))だけの身で言うのもおこがましいけれど。


 なお、今回は、台湾から日本にかけての海水温度は二七度かそれ以下で、ここからさらに発達するという展開は想像しにくい。

 気象庁も、一一月二日(土曜日)には、台風は温帯低気圧に変わる、と予報している。ただ、温帯低気圧に変わったばあい、「温帯低気圧として強くなる」・「再発達する」という可能性があるので、それに対する警戒は必要だ。

 また、日本の南海上には秋雨前線が停滞している。たぶん、温帯低気圧に変わった台風二一号は秋雨前線に乗ることになるだろう。そうすると、やはり、前線の活動は活発化する。


 現在のところ、前線は日本列島の南側なので、前線南側で発生しやすい線状降水帯が日本列島にかかるという展開は考えにくいけど、この後の前線の位置によっては、また線状降水帯または類似の現象による豪雨の可能性は考えておかなければいけないと思う。

 むやみに恐れる必要はない。けれど、「恐れがある」ことぐらいは頭に置いておいたほうがいい。

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