【夜会話】ダイキ



 ダイキの部屋で談笑に耽っていると、ふと「好きな食べ物」の話になった。


「好きな食べ物か……あのさ、笑わねぇか?」

『逆に笑うような食べ物ってなに……?』


 しばらくの間モジモジしていたダイキは、いぶかしがる眼差しを向けていたユウへと小さく囁いた。


「お……おはぎと、沢庵……」

『渋っ』

「うるせぇ」


 さして痛くもないゲンコツが落ちるが、ユウに笑うつもりは一切なかった。


『沢庵はあんまり食べないけど美味しいし、おはぎだって美味しいでしょ? 笑うことじゃないよ』


 今時、男性がスイーツを好んでいたっておかしくはない。元から食べ物の好悪に人が口出しできるいわれもないだろう。ダイキも納得したらしく、「お、おう。そうか……」と少しばかりの躊躇を含みながら首肯した。


『でも最近はおはぎもそうだけど、和菓子を食べてないなぁ。今度買ってこようかな――時にダイキ、訊きたいことがあるんだけど、一ついいかな?』

「ん、なんだ?」

『おはぎは、つぶあん派? こしあん派?』

「つぶあん派」

『こっちこしあん派』

「…………」

『…………』


 瞬間――空気が冷える。


「薄皮の旨味も分からんガキが……」

『ハッ、小豆をそのまま齧ってればいいんじゃないでしょうかね野蛮人が……』

「…………」

『…………』

「…………っは」

『…………ふふふ』

「あっはっはっは!」

『ふふふふ!』


 ――他愛もない話をしながら、夜は更けていった。


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