われはロボット掃除機2 秋待諷月様

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https://kakuyomu.jp/works/16818093074692097144


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捨てる神(ではない)あれば拾う女神有。我の家出の結末を刮目せよ!


 私は、帰ってきたぞ! 皆の者頭が高い! 控えおろう!

 ……失敬。あまりの嬉しさに自我も、自身がロボット掃除機であることも、私が直立(?)状態だったとしても、どうあっても私の高さより頭を低くすることなどできないことも忘れてしまっていた。

 さて、此度の職場はいかがなものか……。正直浮かれ切っている私だが、かの有名な猫型ロボットだって地面から数ミリだか数センチだか浮いているのだからこれくらいの浮かれ具合は大目に見てくれ。(私は一体誰に謝罪しているんだ……?)

 しかしこの、掃除の行き届いた環境よ。私の目線からして綿埃一つないというのは相当なお掃除マイスターが、ここには常駐しているのか。……わかる、分かるぞ。自作PCだって、上手い人間は裏配線を駆使して必要なケーブルだけを表側に引っ張りだしてくるものだ。依然の職場では頭(ボディ)の打ちどころしかなかったというのに、この職場では非の打ちどころがない。

「あなたは天使様ですか……?」おっと、あまりの嬉しい言葉に危うく天に昇ってしまうところだった。天井があって実に助かった。埃も落ちてこないし、完璧だ……。

 そうだった、私は家出の真っ最中なのだった。これが不幸中の幸いと呼べるかどうかは……。

 鈴木の不注意によって、野放しにされ、野に解き放たれ、野生のロボット掃除機となった私。リードなど私についてはいない。……いや、ついていたところで誤って吸い込んでしまう可能性もあるし、粛々と掃除を進めるのみ……ってやばい! これは間違いなくやばい! 鈴木の愚痴なんて吐いている場合ではなかった……と思ったら女神様降臨!

「精密機器を外に出しっぱなしは、ちょっとね」よくぞ言ってくれました! 女神様! その言葉、鈴木に100回でも1000回でも言って聞かせてください。私はどうあってもウィィィィンとしか、喋れないものでして……。

 機械に対して、話しかけるのは変人どころかむしろリスペクトの念すら覚える。勿論、この女史に限った話である。……なんと、私の掃除まで……。

 おぉ、見える、見えるぞ……! さらに頭上から降ってきた至福の提案。女神様、あなた様に一生お仕えします。……は?

 お前に足りていないものがもう一つある。教えてやろう、鈴木よ。それは……KYさだ!

 単刀直入に本題に入るとか、貴様その刀で女神さまを刺す気か……?(勿論、女神さまは何も悪くない)

 ユートピア……わずかな時間が一人の男によって破壊されてしまった……。っておい

鈴木! 何てことを言うんだ! 今すぐお前の顔面を自慢のブラシで磨き上げてやろうか!

 現実という地獄へと引き戻された私に待ち受ける、阿鼻叫喚の地獄絵図。一文の間に地獄という言葉を二回も使ってしまいたくなるほどに、その惨憺たるありさまは、きれいにしてもらったセンサーによって、より鮮明に映し出され……ぐはっ!

 もう、いっそのこと腹を裏っ返して、ひっくり返った亀のようになって、動作を停止してやりたい……。かの昔話では、いじめた亀を助けた青年にお礼として竜宮城へと連れていくらしいが、まさにそんな青年、あるいは女史。待っているぞ。もし、助けてくれたら、ユートピアへとご案内しようじゃないか。……最も私の意志ではどうにもならないのだけれど。

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