駆け引き

@wlm6223

駆け引き

 「五〇〇〇万、現金でか」

 「ああ、いったん今月の売上げを立川組本家の組事務所に集めてから親組織に上納するんでね」

 「で、いつ集めるんだ」

 「今月末、三月三十一日だ。翌日朝には親組織へ輸送する筈だ」

 俺たち『半グレ』には大きなチャンスだ。情報屋からの電話を切ると煙草を一服ふかし、強奪方法を考えはじめた。

 俺たちには頭数は揃っている。だいたい二〇〇人は手配が掛けられる。が、『組織』としての結束はかなり緩い。事を起こすには一五人はいるだろう。しかしだ、相手は立川組の本家だ。『半グレ』とは規模も結束力も違う。犯行時間も三十分以内には押さえたい。それを可能にするリーダーも組織力も俺たちにはない。そこが『半グレ』の弱味だ。

 俺はある情報屋に電話をかけた。

 「依頼したい仕事があるんだ。三月一日までに竜門と連絡が取りたい」

 竜門とはチャイニーズマフィアのことだ。

 「大体いくらぐらいの仕事なんだ」

 「約五〇〇〇万」

 「分かった。面会の日時と場所はこちらから後で連絡する。紹介料は十万で」

 

     ×


 情報屋からの連絡は早かった。依頼の電話をしてから二日後、ある郊外のファミレスを指定してきた。早速そこへ出向く。

 こちらはボディーガード替わりの男に、念のため拳銃を持たせて待機していた。相手はチャイニーズマフィアである。何が切っ掛けで襲われるか分かったもんじゃない。荒っぽいのはお互い様だ。

 俺の携帯が鳴る。

 「いま店の中に入りました。どこですか」

 店の入口に男二人が入ってきた。こっちだ、と手を振って合図すると四人掛けのボックスシートの、俺たちの対面に座った。相手は二人。一人はボディーガードだろう。考えることは似たようなものだ。

 「で、お話というのは何でしょうか」

 「三月三十一日、立川組に傘下の組の現金が集まる。それを狙いたい」

 「いくらぐらい?」

 「五〇〇〇万だ。足のつかない金だ」

 金額を聞いて目の色が変わった。

 「もっと細かい話を聞きたいね」

 俺は予め用意していた立川組事務所の見取り図、監視カメラの位置、住み込みの人数を説明した。

 「やりましょう。こちらの取り分は?」

 「二千万でどうでしょうかね」

 「人を集めるだけでも大変ですよ。重機の準備が必要になるでしょうから三五〇〇万は貰わないと」

 「厳しいですねぇ。こちらも現場に人払いの人間を置いときますんで、三千万にしてもらえませんか」

 「……分かりました。こちらが三〇〇〇万、そちらが二〇〇〇万でやりましょう」

 取引成立。分は良くないがそれでも大金だ。あとは竜門の実力を見せてもらおうじゃないか。


    ×


 三月三十一日未明、俺は『半グレ』仲間数人と立川組本家の周辺を警備していた。吐く息が白い。この時間帯じゃ人も車も全く通らない。

 と、クレーン車と白バンが立川組の建物へ近付いてくる。クレーン車はクレーンを上げて立川組の建物二階へ突っ込む。それと同時に青竜刀を持った十人が白バンから建物内部へ突入する。暫く建物内から怒声と悲鳴が響く。銃声はない。それが止むとクレーンが動き出した。その先端には金庫がぶら下がっている。血塗れの青竜刀を持った数人が建物内から出てきて、金庫を白バンへ積み込む。中国語で何か叫んでいる。最後の一人が建物から白バンへ乗り込むと、クレーン車と白バンは白々とした道路を進んで姿を消した。


    ×


 翌日、竜門から電話が来た。

「なんて事してくれたんだ! 金なんか全然ないじゃないか! こっちは命懸けで立川組に押入ったのに、どうしてくれるんだ!」

 一瞬、俺は何が起こったのか理解出来なかったが、すぐに感付いた。

 「……運が無かったんだよ」

 くそっ、分け前をよこさない積もりか。確かにあんたの方が一枚上手だよ。

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